「ひこにゃん引退の危機」について
今朝の特ダネ!を観てたら、「ひこにゃん引退の危機」なんて特集をやってました。「ひこにゃん」とは彦根市のマスコットのいわゆる「ゆるキャラ」です。ものすごい人気だそうですが、もともとのデザイナーがキャラクターの使用の中止を求めて裁判所に調停処理を申し立てたそうです(ソース(読売新聞))。このソースによれば、申立書で作者は以下のような主張を行っているそうです。
実行委は「お肉が好物」「特技はひこにゃんじゃんけん」など作者の意図しないひこにゃんの性格づけをしたと主張。粗悪品が出回りかねないのに無制限に使用を承認しているなどとしている。
知財法的にどうなのかをちょっと検討してみましょう。
まず、商標権ですが、彦根市がひこにゃんのキャラクターをすでに商標出願しています(IPDLから持ってきた公開公報(PDF))。まだ登録はされていませんが、仮に登録されていたとしても、商標法29条により他人の著作権と抵触する時は商標は使用できません。細かい話を省略して、簡単に言うと、商標権と著作権が衝突したときは著作権が勝つということです。
ということで、問題は著作権になります。まず、著作財産権から見ていきましょう。ひこにゃんの絵は美術の著作物であると考えてよいでしょう。特ダネ!によると、彦根市側はキャラクターの公募を行ったイベント会社から著作権を譲渡されたと主張しているそうです(普通は契約でそうするでしょう)。当然に、イベント会社も公募の応募者との間で公募作品の著作権は会社に帰属するというような契約をしているはずですが、それを怠っているとちょっとめんどうなことになります。ただ、特ダネの報道から判断すると、そういう話にはなっていないようです。
特ダネでは、これは著作財産権の話ではなく著作者人格権の話であり、おふくろさん事件と根は同じであるというような解説を(笠井アナが)していました(当然、専門家に取材した結果でしょう)。著作者人格権は契約によっても譲渡できず、原作者に常に帰属します。(契約により譲渡はできなくても不行使の特約を結べるのではという話もありますが、ややこしいので省略します)。
では、今回のケースで原作者は著作者人格権、より具体的には同一性保持権を主張できるのでしょうか?世の中で使われているひこにゃんの絵が公募した元の作品と似ても似つかないというのであれば主張できるかもしれませんが、「お肉が好物」「特技はひこにゃんじゃんけん」という「キャラの設定」は明らかに著作物ではないでしょう(この話は、以前このブログで書いた「キャラクターの絵は著作物だが、キャラクター自身は著作物ではない」という話につながってきます)。
また、特ダネの報道では、ひこにゃんのぬいぐるみに「しっぽありバージョン」と「しっぽなしバージョン」がある(もともとのデザインが前向きのみでしっぽが描かれていないため)点についても原作者は異議を唱えているらしいですが、これだけで同一性保持権の侵害を主張するのはちょっと厳しいような気がします。
ということで、報道されたソースから判断する限り、原作者が著作権侵害を主張して、ひこにゃんキャラの使用差し止めをするのはちょっと厳しい気がします。
そもそも、個別契約ならまだしも、公募に対する応募作品が自分の手を離れて一人歩きしてしまうのはしょうがないかと思います。特ダネ!のアニメ声のコメンテーターの人も言ってましたが、「ひこにゃんを作ったデザイナー」ということで売り込んで、どんどん他の仕事をとって、自分が有利な契約を結べるようにしていくのが正しいような気がします(法律とは直接関係ない話ではありますが)。