栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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このブログで、初音ミクについて最初に触れた時に「ミクに実演家としての著作隣接権は帰属するのでしょうか?」と(ジョークで)書きました。そもそも、現在の法制度は権利主体が人以外になることを想定してませんので帰属するわけもありません。

余談ですが、昔、森のウサギを原告にして環境破壊を阻止しようとした訴訟がありましたけど、当然ながら原告適格なしとされています(ソース)(もちろん、これはわざと動物を原告にすることで、世間の問題意識を高めるために意図的に行われたものでしょう)。

#と言いつつ、いろいろ調べてたら中世ヨーロッパにはリアルで「動物裁判」というものがあったようです(ソース)。畑を荒らしたりした動物を本当に裁判にかけて罰を与えたりしてたようです。

初音ミクの話に戻りますが、初音ミクが権利の主体にはならないとは言え、初音ミクによる「歌唱」には、作詞家の演奏権の許諾が必要か、また、著作隣接権の客体である「実演」に当たるかというのは興味深い論点であります。この件については小倉弁護士がゲームラボ誌にエッセイを書かれたようなので、是非読んでみようと思います。ちなみに私は、「作詞家の許諾は必要」、「実演にあたる(実演の主体は打ち込みをした人)」だと思います。

初音ミクの場合は、実際には、歌詞情報やMIDI情報を送らなければ何もしない一種の「楽器」ですから、あまり難しいところはないと思います。しかし、将来的に、Virtual Producer TETSUYA(苦笑)なんてソフトが出てきて、自動的に作詞・作曲をして、VOCALOIDに歌わせるようになったらどうなんでしょうか?その時の著作者は誰になるのでしょうか?

これほど未来的な話ではなくても、現在でもBand-in-a-Boxなんていう自動作曲ソフトがあります(私の個人ブログにおける紹介エントリー)。このソフトを使うとマウスクリックひとつでメロディ、伴奏を含む曲を作ってくれます(ついでにそれらしいタイトルまで付けてくれます(笑))。スーパーマーケットのBGMのようなどーでもよい音楽向けであれば十分に使える「作品」ができます。

では、Band-in-a-Boxで作った曲の著作者は誰になるのでしょうか?マウスをクリックした私でしょうか?この作品には私の「思想や感情が創作的に表現」されているのでしょうか?それとも、このソフトを作ったプログラマーの人が著作者になるのでしょうか?(なお、仮にプログラムの利用許諾に「このソフトで作った曲は自由に使って良い」と書いてあったとしても、それは著作権が原始的にプログラマーに属すことを否定する要素にはなりません。法の話と契約の話は別論です)。もし、誰の「思想や感情も創作的に表現されていない」のだとしたら、Band-in-a-Boxで自動生成した曲は著作物ではないのでしょうか?

実は、この論点は、中山先生の「著作権法」においても検討されています(p186 コンピュータ創作物)。まあ、結論は「従来の著作権法の枠組みでは解決不可能」ということなのですが。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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