栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

知財、ユビキタス、企業コンピューティング関連ニュースに言いたい放題

« 2007年10月9日

2007年10月11日の投稿

2007年10月12日 »

Amazonに予約注文して、発送を心待ちにしていた商品がやっと届きました。初音ミクではありません(それはもう届いてます)。中山信弘東大教授の「著作権法」です。

あえて説明するまでもないとは思いますが、中山先生は日本における知的財産関連法学の第一人者です。知的財産本部の本部長であり、著作権法保護期間延長問題、ダウンロード違法化問題等についても、冷静かつ説得力のある意見を述べられています。クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの代表も務められています。

中山先生の著作権関連の本というともう10年以上前に出版された「マルチメディアと著作権」という名著があります。固定的な著作者が一方的に著作物を利用させるという旧来のモデルではなく、著作物が多くの人に利用されることで新たな価値を加えられていくという将来において、従来の複製禁止を中心とした著作権法では限界が来ており、新たな制度設計が必要ということを提言されています。この本は10年以上前に書かれており、さすがに古くなっている部分もあるのですが、基本的な考え方はほとんどそのまま現代に通用してしまうというのがすごいところです(この分野での制度改革のスピードがそれほど遅いという証しとも言えますが)。

私は、かねてから「マルチメディアと著作権」の内容を現代の視点から書き直した本を出してほしいと願っていました(著作権制度を勉強している人はみんなそう思っていたでしょう)ので、今回の出版はまさに待ちに待ったという感じです。まだ、米国にいるので本は読めてませんが、帰国して読むのが楽しみです。1日くらいで読み切ってしまうかもしれません。

栗原 潔

Teradata PARTNER 2007のクロージング・キーノートで、セグウェイの発明者、ディーン・カーメン氏の講演を聴きました。「発明家」という肩書きにはどこかあこがれるものがあります。

「私は話すのは素人ですので」と日本人が言いがちな言い訳を冒頭にしてましたが、まあ、おもしろかったです。カーメン氏によれば、発明とは"the art of concealing of your source"(アイデアのネタ元を隠す技)だそうです(笑)。弁理士的には笑ってちゃいけないですけどね。

Kamen_3



さて、同氏が発明以外に行っている活動として、FIRST(For Inspiration and Reconition of Science and Technology)という組織の立ち上げがあります。若い世代に対して、科学技術の楽しさを教えるための機関です。このFIRSTの重要な活動のひとつに、高校生のためのFIRST Robotics Competitionの主催があります。いわゆるロボコンですね。2007年度のイベントには、ブラジル、カナダ、イスラエル、メキシコ、オランダ、英国、米国から1307チームが参加したそうです。

ちなみに、NHKが主催する高専ロボコンの参加は128チームです。全国に高等専門学校は64校しかないので規模が小さいのはしょうがないとも言えますが、では、一般高校にも枠を広げてどれくらい参加者が増えるかという微妙な気がします。

ロボコンみたいなものは「モノづくり」に長けた日本のお家芸という認識がありましたが、どうやらそうでもなかったようです。


栗原 潔

今週はTeradataのユーザー会PARTNERS 2007(@Las Vegas)に来ているわけですが、基本的にユーザー主導のイベントなのでいろいろと興味深いデータウェアハウス関連のユーザー事例を知ることができます。

なかでも興味深かったのは英国の保険会社Norwich UnionによるPay-As-You-Drive(従量制)自動車保険です。今までも私の講演のたびに紹介してきた事例ですが、今回は担当者の話を直接聞けたので非常に参考になりました。契約者の車両にGPS機器を搭載して走行パターンを補足し、それに応じて毎月の保険料が決定されるという仕組みです。走行量が多かったり、危険地域の走行が多かったり、平均速度が速かったり、夜間の走行が多かったりすると保険料が高くなるという仕組みです。あたかも、携帯電話の料金体系のようなものです。

これによりハイリスクな契約者の保険料は高くなりますし、ローリスクな契約者の保険料は安くなります。また、車を使わなければ安くなります。極端な話、その月にまったく車を運転しなければ保険料も最低額になるということです。利用者にとっても保険会社にとってもメリットがある方式と言えるでしょう。

ただ当然ながら扱うデータ量が半端ではありません。試行段階で他社DBMSを使用したところ、データ量に耐えきれなかったのでTeradataを選択したということのようです。Teradataというと超ハイエンド・データウェアハウス専用DBMSというような印象があるかもしれませんが、これからこの手のユビキタス的なアプリケーションが普及するにつれてますます出番が増えてくるかもしれません。

アイデア的にはすばらしい事例だと思います。講演の時にNorwich Unionの人に特許についてはどうなってるのかを聞こうと思ってましたが忘れてしまいました。ホテルの部屋に戻ってからちょっと調べてみると、少なくとも日本では2000年に富士通が同様のアイデアを出願しています(その後、審査請求を出さなかったため取り下げ)。取り下げの理由は不明ですが、先行技術が既にあって進歩性を立証できる見込みがなかったのかもしれません。いずれにせよ、自動車保険を従量制にするというアイデア時代はかなり以前からあるようなので、このアイデアそのもので特許を取るのは難しそうです(実装上の細かい工夫であれば特許化の余地はあると思いますが)。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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