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ついに出ました。ヤコブソンの本の日本語版です。ヤコブソンは、80年代後半-90年代前半に「ユースケース」という新概念をオブジェクト指向に持ち込み、設計以前の要求キャプチャに大きな貢献を果たしているが、今回は、アスペクト指向をユースケースに応用しようという野心的な試みだ。

Ivar Jacobson, Pan-Wei Ng 著,
鷲崎弘宜, 太田健一郎, 鹿糠秀行, 立堀道昭 訳
『ユースケースによるアスペクト指向ソフトウェア開発』,
翔泳社, ISBN 4798108960, 2006.3

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798108960/xpjp-22

ずいぶん以前から親しくしていただいている、鷲崎さん、太田さんが訳されている。(お疲れ様でした!)

ソフトウェア分析・設計の新技術は、「実装レベルから発見される」ことが非常に多い。オブジェクト指向も、もともとは単なる実装技術、プログラミングの要素であった「オブジェクト」が、設計レベル、さらに分析レベルにまで「侵食」して、現在の体系になったものだ。そして現在、オブジェクトの概念は分析・設計・実装、とシームレスに繋がるようになった。(そんなに簡単ではないが、そう見える)

今回は、アスペクトというこれまた、実装レベルの技術を、ユースケースにまで持ち込もう、という、新発想なのだ。しかも、これがまた、相性がよい。

そういえば、2000年ころに、日本のJPLoPでも同様のアイディアを羽生田栄一さんが「ユースケース場」におけるユースケースの重ね合わせ、という言い方で発表されていたと思う。そして、「AOPの発明者であるキクザレスと会ってこのアイディアをぶつけてみたが、現在は実装技術としてしか考えていないの返答だった」、とおっしゃっていた。

今回はユースケースの発明者であるヤコブソン本人の手によって、ユースケースレベルにまで「アスペクト指向」という概念を援用する試みであり、とてもワクワクするものである。

願わくば、大統一理論として、「オブジェクト」という主軸と「アスペクト」という副軸によって分析・設計の上流から実装・テスト下流までが整理できると、今後10年のソフトウェア工学に1つの明るい光となるかもしれない。

ちなみに、ぼくもヤコブソンには2度ほどお会いしている。日本でのUMLフォーラムの合間に、いっしょに急いであたふた昼食をしたときに、刺身定食と焼き魚定食のどちらかを選ぶとき、

「焼いている時間がもったいないから刺身で!」

と答えをしていた。おちゃめなヤコちゃん♪

平鍋

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プロフィール

平鍋 健児

平鍋 健児

株式会社チェンジビジョン代表取締役社長、永和システムマネジメント副社長。
オブジェクト指向開発、UMLの勘所、アジャイルな開発手法の未来、マインドマップのソフトウェア開発での利用方法、プロジェクトファシリテーション(見える化)を語ります。現在、マインドマップとUMLの融合エディタ、astah*(アスター、旧JUDE)を開発中。

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