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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

« 2012年11月12日

2012年11月13日の投稿

2012年11月14日 »

産業構造の急速な環境変化とグローバル化、そしてクラウドの進展に伴い、自社のみで収益を得るビジネスモデルは限界が指摘されるようになっています。代わりに、自社中心ではなく、事業環境としての共生的企業環境があり、その中で自社のあり方を考える手法として、エコシステムへの注目が集まっています。過去の歴史的背景を踏まえながら、これからのエコシステムのあり方について考察をします。

産業のサービス化における「世界分業」の加速

かつて、イギリスでは18世紀後半に産業革命が始まり、「工場制手工業」から「工場制機会工業」への技術革新が進み、やがて世界中に広がり、産業の変革とそれに伴う社会構造の変革をもたらしました。地球規模での「分業」による大変革が起こり、ここから、資本主義社会、工業化社会が誕生しました。そして、「工場制機械工業」で大量生産された工業製品を輸出していくために、植民地の獲得競争が起こりました。 

クラウドの登場は、この産業革命に匹敵する社会構造の変革をもたらし、自社での「保有」から、サービスとして「利用」するモデルへと進化し、世界各地の巨大なデータセンターで大量生産されたコンピューターリソースをユーザに配分するための、地球規模でのマーケットの獲得競争と「世界分業」が進み、世界規模でイノベーションを生みやすい環境を作っています。クラウド・エコシステムの潮流は、いわゆる産業のサービス化における「世界分業」を加速化させています。

全体最適化志向の「組み合わせ型モデル」へ

産業革命のような「世界分業」の動きは、世界をリードする複数のIT企業によって、市場の覇権争いが繰り広げられ、ものづくり、サービス、コンテンツのレイヤーを超え、クラウドと融合し、レイヤー構造化、そして全体最適化されたクラウド・エコシステムなどによる新たな産業と社会構造の変革が起きています。つまり、あらゆるモノがネットワークにつながる以前の「部分最適」からネットワークにつながった後の「全体最適」化に、競争優位の源泉がシフトしています。

クラウド・エコシステムには、「全体最適」を志向した上で、グローバル市場における利用ユーザの根本的ニーズを見据え、グローバル市場を俯瞰し、自社のコアとなる領域を設定し、最適な事業アーキテクチャーを自ら設計することが不可欠となっています。 

全体最適にあたっては、日本企業特有の調整しながら作りこむ「すり合わせ型(インテグラル化)」のモデルだけでなく、必要な要素(標準)技術やコンテンツ等を使った「組み合わせモデル型」による自社・他社領域の最適な設計を行い、顧客価値を創り出すことが、市場での優位性を高めていくことになります。

クラウド・エコシステムにおいて競争力の源泉となるのは、自社による組み合わせ型モデルによる最適化されたプラットフォームです。それらの設計を担い、インテグレータ機能を押さえ、さらには、競争優位を確保する「世界分業」となるグローバルアライアンスを形成していくことが、持続的なエコシステムを形成していく上でも重要な戦略となっています。

グローバル市場における日本企業の存在感

Booz & Company社の「The Global Innovation 1000」の調査によると、日本企業のR&Dの遅れ、世界の中で孤立した点が指摘されています。イノベーションで重視する戦略目標の問いに対して、世界の企業が「製品・サービス全体の組み合わせの競合優位性」を挙げている一方で、日本企業は「優れた製品性能」や「ブレークスルー(ハイスペック)的な製品数」を挙げています。

クラウド・エコシステムのように、複数の事業者や複数の産業の境界線が融合しあい、多種多用な事業者が協調と競争、そして共創を繰り返す事業環境を構築よりも、自社の製品やサービスの性能にこだわり、製品やサービスのランナップをそろえることが競争の源泉であるという企業が多くを占めているのです。

日本の製造メーカーは、かつて、「世界の工場」として圧倒的な存在感を示していました。しかし、日本が強かった電子部品・材料の分野でも、量産競争・コモディティ化が急激に進展し、コモディティ化の圧力をかわすためのより高い付加価値を求めてサービスやビジネスへのシフトが後手に回ってしまいました。その結果、コスト競争力のある中国・韓国勢の猛追と円高が拍車をかけ、世界シェアを大きく落とし、その存在感を失いつつあります。情報通信白書2012によると、テレビの世界市場のシェアは33%となり、この4年で約10%低下しています。

日本の製造業が世界市場において求められているのは、世界中のユーザがその利便性を体験できるサービス製造業としての存在感を見せることです。アップルもアマゾンもこのサービス製造業として、デバイスとクラウドを組み合わせ、プラットフォームを提供する垂直型統合モデルの独自のクラウド・エコシステムを形成し、サービス製造業としてユーザの利便性を高いサービスを提供しています。

自前主義にこだわるのではなく、グローバルで協力関係を結んだ企業間で知識や技術をすり合わせ、必要な要素(標準)技術やコンテンツ等を使った組み合わせモデルを推進することで、複数の事業者や複数の産業の境界線が融合しあうエコステムを「世界分業」という発想のもと、グローバル規模で推進し、サービス製造業への転換を図ることが求められているのです。

エコシステムからイノベーションを生み出す

企業が持続的な発展をしていくためには、イノベーションによる未来の先取りによる新たな価値を創造することが重要になります。時代の変化や技術革新をベースに、未来の先取りし、ユーザが利便性を感じるサービスやソリューションを実現し、ユーザに対して新しいライフスタイルや企業の新たな経営革新に寄与する提案をすることが、イノベーションへとつながっていきます。

クラウドビジネスという競争市場においては、今後の市場成長が見込まれる一方で、市場が次第に成熟していくことでコモディティ化が進み、余剰利潤がなくなるまで事業者の参入が進んでいくことが予想されます。ユーザがどこからでもクラウドを利用することが当たり前となるまで普及していくと、次第に利益水準は落ちていくことになるでしょう。

そうなると、市場は淘汰され、市場から撤退を余儀なくされる事業者も出てくる可能性があります。クラウドビジネスの市場競争に参入していた各企業は、次のイノベーションを考え、さらなるビジネスの進化と利益の源泉を求めて、クラウド技術やサービスの競争、そして、マーケティング競争を繰り返していくことになります。

クラウドビジネスの場合は、中長期的な投資の視点が重要となるため、未来のビジネスを先取りし、イノベーションによる価値実現の差異化 を行うことで収益の源泉を確保し、クラウド・エコシステムを通じて持続的なサイクルをまわしていくことが重要となります。

経済学者のシュンペーターが指摘する「創造的破壊」のように、これまでのIT業界の事業構造そのものを創造的に破壊し、クラウド・エコシステムを構築することで、事業者同士の連鎖反応を起こし、新たなイノベーションが生みだしていく環境を作り出していくことができるでしょう。

 


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MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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