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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

« 2012年9月4日

2012年9月5日の投稿

2012年9月6日 »

Software Defined Network(SDN)/OpenFlowが注目されている中で、クラウド事業者やデータセンター事業者などでの採用や実証が進んでいます。その一方で、ユーザ企業の導入もここ数年で進んでいくことが予想され、利用事例も出てきています。

いくつか事例を交えながら、ユーザ企業の導入背景やそのメリットなどについて整理をしてみたいと思います。

日本通運の事例

2011年1月に NECのOpenFlowソリューションのプログラマブルフローの「UNIVERGE PFシリーズ」を採用し、プライベートクラウドを導入しています。自社のネットワーク構成を変更する際に、ベンダーに設定作業を依頼する必要があり、1回に約100万~200万円の費用がかかっていましたが、今回の導入により、インフラ提供のリードタイムを大幅に短縮し、ネットワークの変更設定作業も社員が対応できるようになりました。また、物理サーバ500台から100台規模に集約することを計画しており、機器コストや電力コストの削減、さらにはハウジング費用の削減にもつながっています。

金沢大学の事例

金沢大学附属病院は、2012年2月中旬に「UNIVERGE PFシリーズ」を採用した新臨床研究棟のネットワークの構築を開始し、わずか1ヶ月という短期間で稼働させています。付属病院では、診療部門ごとにネットワークを構築しており、ネットワークの構成を把握しづらく、新たな医療機器を追加するごとに設定変更と接続検証の稼働が発生していました。OpenFlowを導入することで、部門ごとの仮想ネットワークの柔軟な構築などのネットワークの可視化や、医療機器の増設や移設時のネットワーク設定の負荷の軽減、コントローラーの集中制御によるリソース共有化による機器台数の低減など、運用の効率化とコスト削減を進めています。

eBayの事例

ネットオークションの大手米eBayは2012年8月6日、自社の「x.commerce」のマーケットプレイス向けのアプリケーション開発、テスト、実験のための環境に「OpenStack」を採用しています。eBayが「OpenStack」を採用した背景には、OpenStackが、Nicira Networksが提供するMVPとの統合された環境で利用できるためです。何百ものプロジェクトが必要とする仮想ネットワークや仮想マシンをオンデマンドで利用することが可能となり、従来7日かかったアプリケーションの導入を、わずか30秒程度に短縮しています。

Schuberg Philisの事例

オランダアムステルダムに本社を置くSchuberg Philis は2012年6月、NiciraのNVPとCloudStackでプライベートクラウドを構築しています。 Schuberg Philis は、金融機関などのミッションクリティカルなユーザのシステムのアウトソースの業務を行っており、企業向けのセキュアなアプリケーションを運用するためのデータセンターのインフラ構築に多くの稼動を要していました。企業ユーザからは、納期短縮やセルフサービス、柔軟な運用体制などに関する要求が多く、それに伴う優秀なエンジニア確保が課題となっていました。

CloudStackとNiciraの組み合わせにより、数ヶ月かかっていたデータセンターのインフラ構築に数ヶ月かかっていたものを、Webインターフェイスのセルフポータルの画面から、わずか数分で、仮想マシンやストレージ、そして ネットワークのリソース変更ができ、MVPによりネットワークインフラをオンデンマンドでリソースプールできるようになっています。

その他の想定事例

また、いくつかの記事等を参考にすると、以下のような事例が想定されます。

金融業界

内部統制の厳しい金融業界では、組織の統廃合や人事異動などがあった場合、機密保持の観点からネットワークの利用権限が大きく変更する場合があり、SDNにより容易にネットワークの設定変更が行えるといったニーズも出ています。

ソーシャルゲーム業界

ソーシャルゲームの場合では、人気のゲームの場合、急激なアクセスの伸びに対応するため、サーバ数を一気に増やし、リスク分散のためにも複数のデータセンターで運用が求められる場合があります。SDNの場合は、ネットワークの設定変更や拡張が容易であるため、データセンターの収容効率を高め、事業の収益向上にもつながります。

事業継続(BCP)としての利用

日本においては、事業継続においてクラウドを活用する利用例も多く、災害時において東京や大阪のデータセンター間で自動的にサーバをライブマイグレーションするといった事業継続としての利用も想定されます。政府や自治体などの公共分野での利用も想定されるでしょう。

まとめ

まだまだ、ユーザ企業においてのSDNの利用事例は、それほど多くはありません。しかしながら、導入効果は大きく、ハードウェアの低価格化によるコモディティ化、マイグレーションが進んでいけば、ユーザ企業においても採用が進んでいくと予想されます。

そういった状況の中、今後、SDNをビジネスに活用するソリューションが各事業者から提供されることが予想されます。SDNを切り口に、各事業者がどのようにエコシステムを形成し、どのようなビジネスモデルを描いていけるのか。SDNは、サーバの仮想化、クラウドの普及とともに、すべてのインフラの仮想化されたサービスの提供を促すことになり、大きな業界再編を促す可能性があるのかもしれません。


オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い (Next Publishing(Cloudシリーズ))

 

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MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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