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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

« 2012年5月16日

2012年5月17日の投稿

2012年5月18日 »

第一回ではクラウド・エコシステムの概要、第二回では登場の背景、そして第三回では注目される6つの理由を解説してきました。今回は、SIビジネスの今後について整理をしてみたいと思います。

IT業界においては、SI(System Integration)による個別に企業向けのシステムを合意した仕様要件に基づき、システムを受託開発し構築することで大型案件を受注し収益を獲得しています。

収益の構造は、システムの受託開発や構築、運用保守費用など、工数を対価として収益を得るビジネスとなっています。ユーザ企業から受託を受けた元請けベンダは、下請けベンダや孫請けベンダに発注する受託開発型の多重下請け構造が一般的です。

クラウド登場によるSIビジネスの構造変化

クラウドによるサービス型ビジネスの登場により、製造型のSIビジネスは大きな転換期を迎えています。

IT業界における競争の主戦場は、外部の関係事業者との連携によるクラウド・エコシステムを構築し、クラウド・エコシステムの環境下でユーザに多様なサービスで利便性の高いサービスを提供することで、収益機会を得るという流れにシフトしつつあります。さらに、企業間ではなく、エコシステム内やエコシステム間の競争で優位に立つことが重要になっています。

クラウドによる収益構造は、開発や構築時に多くの収益を上げるのではなく、サービスの価値の対価として、定額課金や利用分に応じた従量課金といったように、長期継続的な収益を確保するモデルへとシフトしようとしています。

その結果、ユーザが必要なときに必要な分だけリソースやサービスを調達し、カスタマイズは極力せず、現場業務を変更しつつ、エコシステムにつながるサービスを適宜組み合わせることで、ユーザドリブン(主導)の柔軟かつ自動化されたコストパフォーマンスの高いサービス環境を構築することが可能となります。

そして、クラウドの活用で運用保守から開放されることで、自社のコアコンピタンス(コアとなる業務)へのシフトが可能となり、サービスを組織の最適化や業務効率化など、クラウドを活用した経営改革の色合い濃くなるでしょう。

SIビジネスのポジショニングと収益機会

成長するクラウド市場と、縮小傾向にあるSIビジネスの中において、SI事業者は、既存のSIビジネスの収益機会を確保しつつ、クラウドビジネス、特に、クラウド・エコシステムの環境下での自社における事業ドメインの再構築が求められています。

クラウド・エコシステムの中において、想定される事業ドメインをあげてみましょう。

■クラウドサービス事業者

IaaSやPaaSのリソースを提供するクラウド事業者が、クラウド・エコシステムの中心的な存在になります。クラウドサービスの提供にあたっては、自社による規模の経済を生かした大規模な投資が必要となり、サービスを展開できる事業者は限られています。IaaSレイヤにおいては、コモディティ化が進んでおり、今後はPaaSの市場が大きく拡大することが予想され、PaaS事業に参入する事業者の増加が予想されます。

■サービスパートナー(SaaS事業者)

IaaSなどのクラウドサービスにおいての多くはAPIを提供しています。関係事業者であるクラウドパートナーがAPIと連携することで様々なサービスをユーザに提供することができます。

■クラウドアダプター

クラウドサービス事業者が提供するサービスだけでは、必ずしもユーザニーズに合致しない場合があります。そのため、ユーザニーズや課題に対処するための認証やセキュリティ、運用保守や請求などサービスを補完するサービスのニーズも高まってくるでしょう。

■クラウドブローカー(クラウドインテグレーター)

ユーザの要求に応じて異なるクラウドサービスやソリューションを組み合わせ、導入サポートを支援するクラウドブローカー(クラウドインテグレータ)の存在が注目されています。SI事業者の多くは、このクラウドブローカーやクラウドサービスのインテグレーションビジネスに収益機会を獲得しようとしています。

クラウド・エコシステムとこれからのSIビジネス

クラウドの普及が浸透しつつある中で、自社の事業ドメインを再構築しつつ、これまでのSIビジネスの実績の強みをいかしたビジネスを展開していくことが重要となります。クラウド関連案件は、SI案件と比べると単価も安く、できるだけ手離れがよく多くの案件に対応するスキーム作りが重要となります。そのためには、パートナー経由での販路拡大も重要なポイントになります。また、営業担当者の場合は、クラウドサービス受注時の成果指標も整理する必要があるでしょう。

クラウドビジネスに対応した社員のスキルセットも検討していく必要があります。社員の提案にあたっては、自社のみのサービスだけでなく、競合会社やエコシステムのサービスなど、複数のサービスを目利きし、組み合わせ適切ユーザにサービスを届けるスキルが重要となります。

また、ビジネスの主戦場はPaaSにもあるように、IaaSレイヤなどはコモディティ化することで、より上位レイヤや上流工程にシフトしていくと予想され、上位レイヤに対応したサービスの投入などが必要となるでしょう。

SIビジネスは、SIのみで事業を拡大させていくことは厳しい状況となっています。クラウドの普及をSIビジネスにおいても大きなビジネスチャンスをとらえ、クラウドブローカー(クラウドインテグレーター)といったように、事業のドメインを確立することが重要です。先手先手で事業を展開し、クラウド・エコシステムにおけるシェア確保と、自社の強みを発揮しプレセンスを確立させ、持続的な収益モデルを確立していくことが、益々重要になってきているといえるのかもしれません。

 

 

※担当キュレーター「わんとぴ

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MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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