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政府の東日本大震災復興構想会議は2011年6月9日、「第9回東日本大震災復興構想会議(平成23年6月11日)を開催しました。

今回の会議では、「「復興への提言」骨子(たたき台)」及び「検討部会における検討の状況について」が公開されています。

「復興への提言」骨子で書かれている本論の概要は以下のとおりです。今回は主に、企業における地域経済の再生とそれを支える基盤の強化、そして開かれた復興について焦点を絞ってみたいと思います。

1.新しい地域のかたち

□地域づくり(まちづくり、むらづくり)の考え方
・減災という考え方に基づく地域づくり
・地域の将来像を見据えた復興プラン

□復興のための施策
①平野部に都市機能が存在し、ほとんどが被災した地域
②平野部の市街地が被災、高台の市街地は被災を免れた地域
③入り江等の小規模集落
④海岸平野部
⑤内陸部
⑥原発事故の被災地

□既存の復興関係事業の整理と課題

□土地利用をめぐる課題への対応 
・土地利用計画手続の一本化
・災害時における土地の権利関係の明確化
・土地区画整理事業、土地改良事業等による土地利用の調整

□復興事業の担い手や合意形成プロセス
・市町村主体の復興
・まちづくり会社等を活用した自発的調整
・アドバイザー、コーディネーター、ファシリテーター

□復興支援の手法
・災害対応制度の創設
・今回の特例措置

2.くらしとしごとの再生

□地域における支えあい学びあう仕組み
・被災者救援体制からの出発
・地域包括ケア
・社会的包摂
・学ぶ機会の確保

□地域における文化の復興
・地域の伝統的文化・文化財の再生
・復興を通じた文化の創造

□雇用
・緊急雇用から安定雇用へ
・生涯現役社会
・高付加価値人材の育成

□地域経済活動の再生
①企業・イノベーション 
・被災地域の企業への支援
・立地促進策
・産業集積(イノベーション)
②農林業・農山村
・3つの戦略(高付加価値化、低コスト化、農業経営の多角化)
・平野部
・三陸海岸沿いほか
・林業
・その他
③水産業・漁村
・沿岸漁業・地域
・沖合遠洋漁業・水産基地
④観光
・地域観光資源(名勝・神社仏閣等)の活用と新たな観光資源の創出 3
・復興を通じた人の交流と観光振興

□地域経済活動を支える基盤の強化
①交通・物流
・災害に強い交通網
・物流システムの高度化
②再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上
・被災地における再生可能エネルギーの可能性
・地域自立型エネルギーシステム
・産業としての再生可能エネルギー
③復興と情報通信技術
・被災者のネットワーク化・情報通信技術に精通した人材開発

□「特区」的手法の活用

□復興のための財源確保

3.開かれた復興

□日本経済の再生
・被災地の復興と日本経済の再生
・電力の供給制約の克服とエネルギー戦略の見直し
・日本のブランド力の低下と風評被害への対応

□社会保障政策
・被災地モデルの一般化

□世界に開かれた復興
・被災地の復興と日本再生に関する内外の理解促進
・国と国との絆の強化により開かれた経済再生

□人々のつながりの再生
・復興と「新しい公共」

□災害に強い国づくり
・震災に関する学術調査等
・今後の地震・津波災害への備え
・防災・減災と国土利用
・災害の記録と伝承・発信

地域経済活動の再生(企業・イノベーション)

東北の被災地の企業では、復旧をし工場が稼動できるようになったものの、人材の流出や風評被害などで、事業の再開のめどが立たなかったり、かなりの縮小を余儀なくされています。政府は、これらの状況を踏まえ以下のような方針を示しています。

① 企業・イノベーション 

■被災地域の企業への支援

 震災の復興過程で、事業を再開、継続する企業は借入依存度を高め、資本が毀損しており、対応策を講ずべき。地域の企業に対する資金繰り支援の実施。
 被災地域において面的に金融機能を維持・強化するため、改正金融機能強化法(案)の積極的な活用。 

■立地促進策
 地域における産業・企業の再生・創造・誘致を支援し、地域経済の復興と雇用の維持・創出に取り組む。 
 
■産業集積(イノベーション)

 研究開発の促進による技術革新(イノベーション)等を通じて、「成長の核」となる新産業及び雇用の創出や、エネルギー・環境問題の解決を先導する地域を創出。

被災地への企業へは、資金繰り支援などの金融面の支援が早急の課題ですが、東北の地に産業の再生や誘致を促し、雇用の維持や創出が重要になってくると考えられます。また、東北の地に「成長の核」となる新産業及び雇用の創出やエネルギーなどを先導する地域を創出する必要があるでしょう。

検討部会における検討の状況についての資料においてもイノベーションを通じた新産業・雇用創出関連の方向性が示されています。東北の強みを生かし国内外の複数の大学、研究機関、民間企業等の連携・ネットワーク化により、知とイノベーションの拠点機能を形成することによって、開発モデルや研究成果の世界への発信、東北発の新産業の創出、地域産業の再生や雇用創出、産業集積を生み出すとしています。

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イノベーションの創出に関する例が掲載されています。産学連携では、東北では、電子部品やデバイスなどの製造業や、材料科学、物理・化学のチップレベルの強みがあり、強みを有する分野で、企業を誘致し協働で、東北発の世界レベルの新規事業を興し、雇用の拡大に貢献することの必要性があげられています。

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医療分野においても、地域医療復興を目指した東北発次世代型医療ネットワークの構築が紹介されています。

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地域経済活動を支える基盤の強化

地域経済活動を支える基盤の強化には、災害に強い交通網や物流システムの高度化などの「①交通・物流」の強化が大前提となりますが、「②再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上」と「③復興と情報通信技術」についても重要となってききます。

東北地方では、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーの活用もポテンシャルが高いとし、地域自立型と分散型のエネルギーを先駆的に導入し、雇用創出にも寄与する点が記載されています。

② 再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上

■被災地における再生可能エネルギーの可能性
 東北地域は、太平洋沿岸では関東地方と同程度の日照時間を有し得る、岩手県等で風況が良い等、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い。
・地域自立型エネルギーシステム
 被災地域において、地域の再生可能エネルギー等複数のエネルギー源を組み合わせた、災害に強い、自立・分散型エネルギーシステムを先駆的に導入。 
 
■産業としての再生可能エネルギー
 再生可能エネルギーは、新たな雇用の創出にも寄与するとともに、電気機械産業のウェイトが全国と比べて高い東北地域の産業の成長にも寄与。

復興構想会議の6月4日の「検討部会における検討の状況について」には、「復興構想会議で示された「再生可能エネルギー」の活用と「スマートコミュニティ」の方向性について」でご紹介をさせていただきましたが、スマートコミュニティによる再生可能エネルギーを利用した地域自律・分散型エネルギーシステムの方向性が示されています。

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東北地方の通信(ネットワーク)においては、復旧がある程度の目処がつき、情報通信基盤の整備とともに、ICT(情報通信技術)を活用した情報提供やコキュニケーションの確保、人材育成が必要となってきます。さらには、復興における情報通信技術の活用や、中長期的には、医療や教育などの公共分野でのクラウド活用が期待されています。

③ 復興と情報通信技術

■被災者のネットワーク化・情報通信技術に精通した人材開発
 重層的な情報通信基盤の整備を進めるとともに、情報通信技術を活用し、地域住民に的確な情報提供を行うことや、被災地の地方自治体と地域住民が円滑にコミュニケーションを行うことが可能な環境を確保。
 復興において情報通信技術を活用することにより、地元の人材の能力向上等を図る。
 行政・医療・介護・教育等の公共的サービスにクラウドサービス等の情報通信技術を積極的に導入

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施策例としては、震災直後から復旧、復興期において、情報通信インフラの再構築、情報の発信・提供、情報通信技術の利活用の促進、そして産業再生の項目ごとにまとめられています。特に、利活用の促進においてクラウドを活用した社会インフラの高度化として、地域医療や介護などの公共分野での利活用が期待されます。

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そのほか、本構想会議資料では、「特区制度」の検討などについても明記されており、これらを実現していくためには、特区による税制優遇や規制緩和などの対応が重要になると考えられます。

また、日本経済全体の再生と復興には、産業の空洞化と人材流動を阻止するためにも、電力の安定供給とエネルギー政策の見直し、災害に強いサプライチェーンの見直し、そして日本ブランドの回復のための風評被害への対応なども必要になってくるでしょう。

復興構想会議での方向性は決まりつつも、まだ実行段階に入っていません。復興のための財源確保の目処がたち、短期復旧とともに具体的にどのように復興に向けて対応が進められていくのか、今後の動向が注目されます。

 

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MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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