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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

« 2011年3月30日

2011年3月31日の投稿

2011年4月1日 »

クラウドコンピューティングの活用が、企業やコンシューマ分野に広がりを見せる中、公共分野においても、クラウド活用に向けた取組みが始まっています。公共分野におけるクラウド活用について、政府、自治体、教育、医療など、何回かに分けて現状と今後について整理をしてみたいと思います。(※震災の影響は考慮していません)

第一回目は、政府のクラウドについて、ご紹介をしたいと思います。

政府のクラウド関連政策

内閣府は2010年6月22日、「新たな情報通信技術戦略工程表」を公表し、「クラウドコンピューティングの競争力確保等」の中で、「データ利活用による新産業創出」「データセンターの国内立地推進」、そして「関連技術の標準化等」の3つが主要施策としてあげられています。

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http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/100622.pdf

「データ利活用による新産業創出」に関しては、政府・自治体・医療・健康・教育・農業などの公共分野や新しい公共、スマートグリッド、次世代ITSなどがあげられています。政府も公共分野での活用を重視しており、また、社会インフラの海外展開にクラウドを活用するということも視野にいれています。

データセンターの国内立地推進に関しては、これまで、新IT戦略本部のほか、総務省や経済産業省の報告書などにも明記されています。

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政府は2011年2月15日、「総合特区法案」を閣議決定しました。「総合特区」の創設は、新成長戦略の柱の一つで、国際競争力を高める「国際戦略総合特区」と「地域活性化総合特区」の二つに分けられています(総合特区制度の概要)。国会で法案が成立すれば、2011年7月に特区が創設される予定です。

「データセンターの国内立地推進」にあたって、これからの総合特区の中でいくつか採択されることが想定されますが、「地域活性化総合特区」では都道府県で1件程度が指定されるものの、雇用創出などによる地域活性化が重要なテーマとなっており、様々な特区への提案がある中、データセンター立地推進がどこまで地域活性化に貢献できるのか、不透明な部分もあります。また、「国際総合特区」においては、全国で5件程度とされており、提案も多いため非常に厳しい倍率であるといえるでしょう。

「クラウド関連技術の標準化」では、現在、日本においてはGICTF(グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム)の「インタークラウド推進戦略分科会」にて、インタークラウドなどクラウド標準化及び知的財産戦略について議論が進められています。知的財産戦略本部 国際標準化戦略タスクフォースでは、国際標準化戦略(アクションプラン第2弾)の分野別審議が進められ、第15回の2011年2月7日では、GICTFの提案内容も含めてクラウドの標準化の討議がなされています。

現在、クラウドの標準化については、「ITU-T FG Cloud」、「IEEE CCSSG」、「ISO/IEC JTC1 SC38」などにおいてデジュール標準化に向けて議論が進められています。Amazonなどクラウドネイティブな事業者は、デジュール標準化の策定には参加しておらず、独自APIでビジネスを展開しており、これらの事業者とどのように連携を図っていくかは、重要なテーマとなっていくでしょう。また、OGF、OMG、DMTF、CSAなどおいてもクラウド連携技術などデファクト標準化に向けた取組みが進められています。そして、OpenStackやEucalyptusやCloudStackなどクラウド管理プラットフォームのオープンソースの動きも顕著になっています。クラウド事業者や団体や機関などが混在する中で、クラウドの標準化がどのように進められ、日本がどの程度影響力を確保していけるか、今後の動向が注目されます。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000066039.pdf

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000066039.pdf

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000066039.pdf

政府のクラウド戦略

政府の「新たな情報通信技術戦略」に基づき、総務省、経済産業省では、国家としてのクラウド戦略を策定しています。総務省は、2010年5月17日、「スマート・クラウド研究会報告書」を公表し、「スマート・クラウド戦略」の方向性を示しています。本戦略では、

①クラウドサービスの利活用の促進(利活用戦略)
②次世代クラウド技術に関する戦略的研究開発等の推進(技術戦略)
③国際的なコンセンサスやグローバル連携の推進(国際戦略)

3つの観点から、推進を進めています。なお、2011年3月現在の「スマート・クラウド戦略」の最新動向が掲載されています。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000104807.pdf

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000104807.pdf

また、経済産業省では、2010年8月16日、「「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告書」を公表しています。本報告書では、

①市場の健全な発展を通じたクラウド基盤の整備・充実
②データの外部保存・利活用を促す制度整備と社会的コンセンサス形成
③クラウドを活用したビジネスの国際展開に繋がるイノベーション創出の後押し

の三位一体の政策を進めています。

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http://www.meti.go.jp/press/20100816001/20100816001-2.pdf

また、総務省と経済産業省のクラウド戦略などの流れを受け、産学官が連携して多様な企業、団体、業種の枠を超え、日本におけるクラウドサービスの普及・発展をさせていくため、民間団体「ジャパン・クラウド・コンソーシアム(JCC)」が設立されています。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000104807.pdf

JCCでは、以下検討WGが結成され、それぞれ議論を進めています。教育や医療そして農業などの公共分野が多くを占めているのが印象的です。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000104807.pdf

霞が関クラウドの動き

総務省は、2009年3月17日、当面3年間に集中的に実施すべき重点施策として「デジタル日本創生プロ ジェクト(ICT鳩山プラン)‐骨子‐」の取りまとめを公表しました。当時の総務大臣が鳩山大臣で自民党政権下となりますが、鳩山プランの公表時にはじめて「霞が関クラウド」という言葉が使われています。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000012515.pdf

この後、民主党に政権交代しましたが、「霞が関クラウド」の重要なポイントとなるのは、政府の共通プラットフォームを構築で、2009年度は「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」にて、議論が進められ、2010年16日に、「「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」最終報告書」が公表されており、政府共通プラットフォームのあるべき姿について提言がなされています。

2010年度からは、「政府情報システム改革検討会」が開催され、2011年3月2台日の第8回の会合では、「政府情報システムの改革方策に関する提言(案)」が示され、政府共通プラットフォームの整備に向けた方向性が示されています。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000104822.pdf

2011年3月2日の会合の「政府におけるITガバナンスの確立・強化に向けて(案)」では、I T 投資管理の確立・強化や政府の I T ガバナンスを支える基盤や調達などの確立や強化に関する必要性が記載されています。

米国のオープンガバメントとガバメントクラウドの取組み

2009年3月5日にヴィベック・クンドラ氏 (Vivek Kundra)が米連邦政府CIOオバマ大統領から任命されて就任しています。クンドラ氏は米国の首都ワシントン D.C.のCTOを務めていた時にクラウド導入を積極的に推進しています。

オバマ政権はープンガバメント) を目指し、国民の意見を積極的に取り入れていくことを目標とし、2009年5月21日には、「オーブンガバメントイニシアティブ(Federal Cloud Computhing Initiative)」を発表しています。米国のオープンガバメントには以下の3原則があります。  

  • Transparancy(透明性) ・・政府は、国民に対する責任を果たすために、情報をオープンにし、提供しなければならない
  • Participation(国民参加)・・ 政府は、知見を広く国民に求め国民の対話を行い、利害関係者グループ外の人々に政策立案過程への参加を促さなければならない
  • Collaboration(官民連携) ・・組織の枠を超えて政府間および官民連携し、イノベーションを促進しなければならない

オープンガバメント政策に基づいて、クンドラ氏が、政府CIOに就任してから始めに手がけたプロジェクトは「Data.Gov」のサイトの開設 (2009.5.21)です。「Data.Gov」は、政府保有データの利用活用の促進事業で、連邦政府が保有する膨大で貴重なデータをオープンフォーマットやアプリケーション開発に利用できる形式で公開し、データの「民主化」を推進しています。

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クラウドコンピューティングイニシアティブ(Cloud Computing Initiative)では、サービス提供を通じて、インフラ、情報、ソリューションを政府横断的に共有するためのイニシアティブを進めています。
また、米連邦政府は2009年9月15日、クラウドベースのITサービスを提供する連邦政府のクラウドポータル「Apps.gov」 を開設しています。

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また、NASAのNEBULAや国防総省(DoD)のクラウドのRACEも注目です。

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米国でのオープンガバメントの取組みの事例では、連邦政府のIT投資の詳細が見られる「IT Dashboard」、連邦政府の支出用途について情報開示をする「Recovery.gov」などがあげられます。詳細は、総務省の3月2日の参考資料3に書かれています。

米国連邦政府は、2010年11月「Cloud Frst Policy(クラウド ファースト ポリシー)」の採用を発表しし、効率的なIT投資を行うため、クラウドのオプションが存在する時は、クラウドをデフォルトとして採用することを義務付ける」と宣言しています(関連記事)。また、Federal IT Reform Plan(連邦政府ITリフォーム計画)では、政府のIT投資をレビューして優先プロジェクトの選定や調達の見直しなどを薦めています。

米連邦政府は2011年2月8日、「Federal Cloud Computing Strategy」を公表し、政府のクラウド戦略の全体の方向性が示されています。

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http://www.cio.gov/documents/Federal-Cloud-Computing-Strategy.pdf

まとめ

政府におけるクラウド政策及びクラウドの導入の大まかな流れを整理させていただきました。今後、政府の動きとして期待されるのは、クラウド関連の国際競争力強化の視点での海外展開、制度設計、データセンターの国内誘致、技術開発(標準化)。そして、政府自らがクラウドの導入を推進しコスト削減とともに職員のみならず国民の利便性を高める展開が重要となっていくでしょう。

 

 

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MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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