『ビジネス2.0』の視点:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 『ビジネス2.0』の視点

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

« 2010年3月4日

2010年3月5日の投稿

2010年3月6日 »

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)は、3月4日「クラウド・コンピューティング社会の基盤に関する研究会報告書(案) 」を公表しました。ページ数は150ページを超え、ユーザ視点にも立ち、とてもわかりやすくて読み応えのある内容です。

本報告書(案)の構成は、以下のとおりです。

  • クラウドの成り立ちと現状について
  • クラウドの利用形態や産業・社会への浸透の具体的なイメージ
  • クラウドの導入事例とユーザ側の意識・懸念材料
  • ユーザなどの各主体が重視すべきポイント
  • 今後のクラウドの進展に伴う検討課題

クラウドの概要から市場動向、技術動向、外資や日系企業のクラウドへの取り組み、海外でのガバメントクラウド、クラウド技術、クラウド利用ユーザ事例、クラウドの利用調査、クラウドの課題など、かなり幅広い内容を網羅しており、これを読めばクラウドコンピューティング全体像を俯瞰できるという内容です。特にガバメントクラウドに関しては、私が読んだ日本語の文献では一番詳細に書かれているという印象です。

6章では、今後のクラウドの進展に伴なう検討課題があげられていますので、少しポイントをまとめてみたいと思います。

クラウドの利用拡大に伴なう環境整備では、「クラウド活用指針策定」の必要性をあげています。活用指針の内容としては、技術的な内容よりもユーザ視点でのメリットを最大限に生かすための活用方法や想定されるリスクとそれを回避するために考慮しておくべきことをわかりやすく解説していく必要性を示しています。

また、「サービス選定のための情報公開制度」の必要性をあげています。公開すべき情報としては、サービス品質に関する情報で、現状では稼働率の保証値のみなので、事故発生時の復旧に関する情報やセキュリティを確保するための管理条件など、ユーザの関心事に答えられる情報を提示すべきであるとしています。その他、サービス提供の継続性という観点から経営の健全性に関する企業情報の公開も必要ではないかと指摘しています。

次にセキュリティでは、「クラウドに対するセキュリティ上の脅威とインシデント事例」をあげ、外部からのクラウド環境への攻撃やクラウド環境内部から他のクラウド利用者への攻撃、クラウド踏み台とした攻撃などがあげられています。その他、IPAだけあってかなり詳細にセキュリティの解説がされていますが、省略します。

クラウドの今後の進展に関する技術課題では、「クラウドに対応したソフトウエア・エンジニアリング技術の開発」を最初にあげています。クラウドにより開発基盤上で、不足分のみカスタマイズや独自開発というスタイルが主流になり、ソフトウエア・エンジニアリングのすべての側面について見直しを行う必要があるとしています。また、「クラウドに関する技術についての特許などの権利問題」や「IPv4からIPv6への移行期(混在期)における課題」や「クラウドにおける相互運用性」についても課題としてあげられています。

そして、クラウドの構築とOSSとして、「クラウド構築におけるOSS適用拡大に向けた日本の取り組み」をあげ、欧州との取り組みを比較しています。

最後に、クラウド利用の進展に伴ない求められる人材とその育成として、どのようにITを使って経営を効率化させるか、顧客価値を生み出すか、という企業のIT部門本来のミッションにさらに重点がシフトしていくとしています。そのため、クラウドの特性を理解し、クラウドだからできる新しいビジネスモデルやプロセスモデルを創造していく人材が求められるとしています。また、ベンダ企業や企業経営の中でクラウドを活かす人材やクラウド上でシステムを構築する人材などについても人材像を個別にあげています。クラウド時代は、時代の変化とともに、人材像も大きく変化をしていかなければならないようです。

150ページ以上の内容なので全くまとめることはできませんでしたが、いずれにしても、クラウドに関して非常に網羅性の高い充実した報告書です。

特に今後、クラウドが本格的な普及に向けて、多くの課題が顕在化していくことになりますが、それらを各々解決していくためには、企業だけではなく、標準化をはじめとした政策面での後押しも重要となっていくでしょう。

MASAYUKI HAYASHI

« 2010年3月4日

2010年3月5日の投稿

2010年3月6日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

詳しいプロフィール

Special

- PR -
最近のトラックバック
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
business20
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ