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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

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NPO法人ブロードバンド・アソシエーションが5月19日「第9回ブロ-ドバンド特別講演会」、“どうなる?通信・放送融合時代の映像配信 ~本格化するIPTVサービス~”を開催しました。実は私も申し込んだのですが、案内してから数日間で満席となってしまったようで残念ながら参加できませんでした。通信と放送が融合で進化するIPTVサービスの方向性に関心が高まってきていることがわかります。

この講演の中で12月に開始予定の「NHKオンデマンド」(以下NOD)のサービスの詳細が説明されたようです。NODのサービスのポイントは、

(サービス概要など)

  • サービス開始時のコンテンツは1,000本程度
  • 月額1,500円程度を見込んでいる(パッケージ販売がメイン)
  • 「見逃しサービス」はニュースや情報番組中心
  • キラーコンテンツは、「特選ライブラリー」サービス

(ビジネスモデルなど)

  • 受信料とは別でNOD単独で収益をあげる(当面は赤字が続く)
  • 配信にあたって権利処理に時間がかかっている

NHKのメリットは全国あまねくサービスを提供している点です。そのため、「見逃しサービス」もエリアによって放送時間の異なる民放と比べると、サービスは提供しやすいでしょう。しかし、消費者の視点で気になるのは、既に受信料をとっているのに、またNODでは別に利用料をとるのか?という意見も増えてくるのかもしれません。

そして一番大変なのは著作権の権利処理です。これから放送する番組は、二次利用や三次利用(マルチユース)を意識してコンテンツ作成と権利処理をするとしても、過去のコンテンツについては、複雑に絡む権利処理を解決していかなければなりません。12月サービス開始時のコンテンツは、時間をかけている割には番組数は1,000本程度と少ないように感じますが、権利処理のプロセスを考えると、妥当な線なのかもしれません。

しかし、消費者の視点から見ると番組数は多くはありません。YouTubeやニコニコ動画で大量の動画が流れ、Gyao等も含めて無料の動画コンテンツを楽しむことができる時代です。

NHKの良さはこれまでの膨大な動画コンテンツをアーカイブしていることです。この膨大な魅力のある過去のコンテンツを二次利用や三次利用で消費者に還元していくことは、非常にメリットの高いことであると考えています。よって、コンテンツが容易に増えるように著作権処理などの制度のあり方もさらに議論されていくことが期待されます。

また、当面事業は赤字が続くと見ているようですが、収支のライン(黒字化)をどのように見ているのかも気になります。コンテンツ数が増えればユーザが増えるのか?VODサービスが利用可能な対応受信機がテレビに標準装備されればユーザは増えるのか?それともNGNが普及すれば?などいくつかユーザが拡大する要素があるかと思いますが、どうなのでしょうか?

一方で、YouTubeなどのインターネットの動画が視聴できるテレビも今後発売されることが予想されます。また、ハードディスクの容量も増え安価になったHDDレコーダーの存在も見逃せません。ユーザは見たそうな番組があれば、かたっぱしからHDDレコーダーで録画をすることもあるでしょう。「見逃しサービス」に月額でお金を払うのであれば、HDDを購入したほうがいいと思うユーザもいるかもしれません。そして、将来はローカルのHDDではなくネットワーク上に番組を録画する時代も可能性としてはあるでしょう。

通信と放送が進めば、放送事業者だけでなく通信事業者が動画コンテンツを提供することも考えられなくはありません。NHKは過去のコンテンツと全国あまねく放送してきたということで多くのメリットをもっていますが、通信と放送の融合・連携時代がこれから本格化すれば、先行利益も次第に薄まり、厳しい競争下にさらされる可能性も否定できません。

NODの料金体系とそのビジネスモデルが見えるのは、サービス開始が12月なのでもう少し先になると思います。月額料金1,500円だったらユーザはどう評価するのか、NODによりIPTV市場はどのように進化していくのか、そして軌道にのっていくのか?市場の動きに少し注目してみたいと思います。


MASAYUKI HAYASHI

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プロフィール

林 雅之

林 雅之

ICT企業勤務。クラウドサービスのマーケティングを担当。
国際大学GLOCOM客員研究員。社団法人クラウド利用促進機構アドバイザー。
著書『オープンクラウド入門(インプレスR&D)』『「クラウド・ビジネス」入門(創元社)』

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