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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

AIは使ってもらうのが9割~最終回 結局は・・・

AI | DX
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ITに強いビジネスライター 森川ミユキです。

AIは使ってもらってなんぼというテーマで連載させていただいております。

第1回 最初は手軽なテーマから

第2回 機械学習に必ずしもビッグデータは要らないが・・・

第3回 とはいえ集めるのが大変

第4回 機械学習モデルは便利でないと使ってもらえない

前回までの振り返りです。ますDXのとっかかりとしては手軽なテーマがいいということで、「書類の転記業務の自動化」から始めた事例を取り上げました。そしてそのために必要な学習データはそれほど件数は多くないのだが、集めるのは大変なことを説明しました。また機械学習モデルには定期的なメンテナンスが必要であり、このプロジェクトでは定期メンテナンスで精度を上げようという目論見がありました。さてでは実際に自動化システムは使われたのでしょうか?――というところで前回を終えました。

今回はその続きを書いて、最終回とさせていただきます。

なぜ使われなかったのか?

さて転記業務用モデルを使ってもらいながら、増えたデータで再学習して精度を上げていこうという皮算用だったのですが、やはり最初はなかなか使ってもらえませんでした。

最初から精度が高くて、ユーザーによる修正がほとんどなければ問題はなかったのですが、精度が低くて修正箇所が多かったのです。しかも、これはExcelで行っていた業務だったのですが、システムリリース後も修正はExcelでできてしまいます(これは会社全体でExcelをやめる以外防ぐ手はありません)。ユーザーは慣れ親しんだExcelで修正してしまうので、学習データが蓄積されません。

このままですと「使われない→学習データが貯まらない→精度が上がらない→使われない」の悪循環に陥ることになります。

とはいえ便利でないと使ってもらえないというのは機械学習モデルでなく、一般的な業務システムでも同じことです。なぜこんなことになったのでしょうか。

それは要件を企画部門と詰めたのですが、現場へのヒアリングが不足していて、言葉は悪いですが「頭でっかちなシステム」になってしまっていたからでした。

機械学習モデルを含むシステムでは、一般的な業務システム以上に現場へのヒアリングやプロトタイプでの使用感・操作感確認が重要だと言えます。

結局は会社とリーダーの覚悟次第

DXのとっかかりの案件でしたから、ユーザー企業側(A社とします)としてはここでつまずくわけにはいきません。また私の聞いた話では、ある程度のトラブルや不具合は想定していたとのことです。

したがってA社は万全の体制を組んでいました。第1回に暗示的に書きましたが「最終的にはサプライチェーン全体の最適化」を目指しているプログラム(プロジェクトの集合体)があり、そのリーダーは社長直轄の推進室の室長で次の役員候補の人です。そして「転記業務自動化」プロジェクトのリーダーは、室長の全面的なバックアップを受けていました。つまり典型的なトップダウンプロジェクトだったのです。

そのリーダーの下で、企画から運用まで一貫した体制でプロジェクトが組織されました。現場との食いちがいについても、リーダー自らが先頭に立って説得に努め、現場の納得を得て利用促進を図りました。そのことにより学習データが蓄積されるようになり、業務に必要な精度に達することができました。

なかなか使われなかったことによる予算オーバーも発生しましたが、これについても既に開発した中で汎用化できる部分を部品化することで、将来の開発保守コストを抑えることで回収するという結論になりました。このような方向で解決できたのも、リーダーがシステムの内部構造までしっかり理解する努力をしたからです。

会社がトップダウンの体制を敷き、優秀でやる気もあるリーダーを据えて、全面的にバックアップする――ありきたりではありますが、機械学習モデルの開発・保守プロジェクトを成功させるには、結局会社とリーダーの覚悟次第だと再認識した事例でした。

MLOpsの成功事例はまだまだ少ない

最後になりますが、これはMLOps(機械学習モデルと運用の統合)の典型的な事例です。MLOpsの記事を見ていると、既にバラ色の成功事例がたくさんあるように見えますが、そんなことはまったくありません。そもそもMLOpsの定義さえ曖昧です。

現在ある記事の多くは教科書的な説明をしていますが、教科書通りに進むことはまずありません(この事例も教科書通りに進めようとしていろいろとつまずきました)。なぜなら現場で使われないなど「人間くさい」ことが原因でうまくいかないことが多いからです。

教科書的な記事を真に受けてMLOpsに取り組むのは、現時点では危険だと言えます。

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さて掲載回数を稼ぐために連載という形でやってみたのですが、結局連載にする必要があったのかと反省しております。

というのは、全体を通しては一応「書類の転記業務の自動化」というプロジェクトのお話にはなっていたのですが、各回のテーマは割と独立していたからです。

また連載の途中で、他に書きたいテーマなども出てきまして、この連載が終わるまで我慢みたいな感じで、少しストレスにもなりました。

したがいまして、今後はまずは書いてみて、それが長くなった場合は複数の独立したテーマに分けてそれぞれ1回で完結させることをまず考えてみて、それが無理そうなら今回のような形にしようかと思います。

執筆でお金をいただくようになって15年以上になるのですが、今でもやってみないとわからないことが多いもので、ご容赦いただければ幸いです。


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