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玄田有史さんに学ぶ「スピーチ」「プレゼン」のポイント2つ

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しつこく玄田さんです。

先週9月6日(木)-9月7日(金)2日間にわたり開催されたPMシンポジウム2012.その基調講演①が玄田有史さんでした。「希望のチカラ」というタイトル。この講演の内容や考察は2回に分けて書きましたが、今日は、「スピーチ」あるいは「プレゼン」のポイントを整理していきます。
(1回目: http://blogs.itmedia.co.jp/tanakalajunko/2012/09/pm-68e1.html
2回目: http://blogs.itmedia.co.jp/tanakalajunko/2012/09/pm2012-642f.html

玄田さんの講演を拝聴するのは初めてでしたが、凄く大きな特徴が2つありました。

まず第一に、これは誰もなかなかマネできないことなのですが、「つなぎ語」が一切ない!

「えー」「あのぉー」「ええと」「まぁ」といったつなぎ語が皆無なのです。皆無というのはスゴイことです。

たいてい、スピーチの出だしでまず「えー」と言ってしまいます。

「えー、皆さま、おはようございます。私、グローバルナレッジネットワークの、ぉー、田中と申します」というように、どこかに「あー」だの「いー」だの「うー」だの「えー」だの「おー」だのが入ってしまいます。

それが玄田さんは最初から最後まで50分間の講演中、どこにも出てこない。言葉と言葉の間に一切入らない。 

「そんなの簡単じゃん」と思う方は、一度試してみてください。

「1分間で自己紹介」。おそらくこれだけでも4-5回は言います、つなぎ語。(減らそうとする努力あできます。でも、皆無というのは至難の業。私もさほど多く使いませんが、それでも「ゼロ」にはできません)

「つなぎ語」なしのスピーチ、どういう風にして訓練なさったのだろう、ととても興味があります。流れるような、というか、よどみないというか。

そして2点目の特徴。こちらは、意識さえすれば誰もがマネできる方法。

ちょっと再現してみますよ。(逐語ではありませんが、ニュアンスで)

●「希望」とは何か。ある検索エンジンで「希望」という言葉を検索してみたら、関連する言葉、近い言葉、として出てくる言葉、何が出てくると思いますか。出てきた言葉は、私がまったく予想しない言葉でした。希望とその言葉が結びつくと想像すらしていなかった言葉が検索されたら、関連する言葉として出てきたのです。その言葉は、最初に出てきた言葉は、「水俣」です。

●震災から1ヵ月くらい経った時に釜石に行きました。事前に調べてみたところ、食料品は持って行く必要はなさそうだ。では、何をもって行けばいいのだろう。家人とも相談し、できるだけあるものをたくさん持って行きました。そしてそれを釜石の方に託して、釜石を後にしました。後日、釜石の方から、あれはとても喜ばれた、助かったという言葉を聴きました。何が喜ばれたのか。 私が釜石に持っていったのは、何の変哲もない、よく見かけるスタイルの「カレンダー」だったのです。


・・・・わかります?

ひっぱってひっぱってひっぱって、「何」が来るんだろう?と聴き手の興味が最大に盛り上がったところで、「カレンダーです」と答えを教える。

この話法が50分の講演中、5-6回出てきたように記憶しています。

「希望」という言葉を検索し、関連ワードとして何が出てくるんだろう? 頭の中でぐるぐる考えました。きっと「オチ」的な答えなんだろう、と思い、私は、「希望」と共に出てきた言葉がもしや「絶望」なのかしら?などと想像してしまっていましたが、答えは全く異なるものでした。

釜石に何を持っていき喜ばれたのだろう? 「化粧道具」かな、「子どももおもちゃ」かな、とこれまた想像しているところに、「カレンダー」。

1000人以上の聴衆がいる大ホール。

玄田さんの、「ひっぱってひっぱってひっぱって、そして答え」という話法により、会場がどんどん水を打ったようにしーんとしていくのです。

「次にくる言葉は何か?」 気になって仕方ないからです。


この話法は、社長が全社会議で訓示を垂れる時、上司が部下にスピーチする場合、色々な場面で活用できますね。

たいていは、先に答えを言ってしまうんですね。

「釜石には、カレンダーを持って行きました。これがとても喜ばれまして」

これでは、全然興味がわかない。ふつうの展開。 聴き手が「何だろう?」「どうしてだろう?」と考えることもない。

でも、

「釜石に持って行ったものがとても喜ばれました。 大したものじゃなかったのに、”あれはよかった””あれがあって嬉しい”と言われました。それは・・・」

と来ると、

「何? 何? 何だろう?」 

と考えてしまう。考えざるを得ない。そして、「答えも知りたい、知りたい」と思ってしまう。
だから、会場がしーんとするのです。

玄田さんの講演を数年前に聴いたという方に、「玄田さんは昔はいかにも学者というプレゼンだったけど、今日聞いたら、スゴイですねぇ。この数年にたくさんの経験と訓練を積まれたのでしょうねぇ。迫力ありましたね」という話をたまたまお聞きしました。

回数をこなして、どうすれば聴き手を惹きつけられるかも考えて、トライ&エラーを繰り返し、そして、こういうスタイルに落ち着いたのかなぁ、と思いました。

1. 「えー」「あのぉー」「まぁ」などのつなぎ語を一切入れない ← 難易度高し
2. 「答え」を言う前に引っ張る。先に「答え」を言わない ← 真似しようと思えばできる


誰かのプレゼン、講演を聴くと内容以外でも学ぶこと、たくさんありますね。


※ちなみに、玄田さん、実は1回だけ「えー」と言いました。

最後の最後。

「えー、お約束の時間になりましたので、これで終わりです」

・・・これを聴いた瞬間、「お!」と感動しました。つまり、「えー」を言う方なのです。「えー」と言う方が50分の講演中一度も言わない、というのは、かなりの努力と意識だと思うのですね。だから、最後にぽろっと出た「えー」に余計に感動してしまったのです。
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