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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

キャリアを考える機会なくマネージャや経営層になって、という45歳以上くらいの方たちにどう理解してもらえばよいのか?

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国がキャリア自律を推進している。

会社も終身雇用でも年功序列でもなくなってきている。

人生100年時代だし、50年以上は働く時代になっているし、とにかく、キャリアというものを一人一人が考えておく必要がある、というそういう時代なのである。

だがしかし!

企業において「キャリア自律を目指して、キャリア開発研修をしましょう」とか「自分のキャリアを棚卸して、これからのことを考える時間を設けましょう」と人事や人材育成担当者が企画を上げようとすると、今でもなお、

「それ、どんな意味があるの?」

と上層部に言われてしまう(という嘆きを本当によく聞く)。


よくあるのは、
「キャリアなんて考えたら、辞めちゃうんじゃないの?」
という疑問。

「キャリアなんて考えさせて、目覚めちゃって、離職が増えたらどうするの?」
という疑問。

そんなに自分が経営している組織に魅力がないと思っているのだろうか?と不思議に思う。

あと、「目覚めちゃって」という文言に突っ込むならば、「社員が眠っていてもいいんですか?」とも思う。

キャリア自律、キャリアのオーナーシップを持って、自分の人生や仕事を考える従業員が増えた時、「だからこそここで働きたい」とみんなが言うような組織にすることが経営者やマネージメント層の役割であって、「自律したら辞めちゃうかも」を心配している場合じゃない、とこれは声を大にして言いたい。

次によく聞く疑問は、

「キャリアを考えたければ、自分で考えればいいんじゃないの?」
「キャリアを考える時間とか機会を会社が用意する必要があるの?」

といったもの。

自分で考えればいい、というのは、もちろん、そんなんだけれど、「考える」って文字通りに、ただ頭の中で考える話をしているだけじゃなくて、「この会社、この仕事でどうキャリア形成していこうかを考える」というのも含まれるので、土日に自宅で考えればいいじゃん、というのはちょっと違う。

職業能力開発促進法という法律があって、ここには、こんな風に書かれている。
(色を付けたのは私です。)

第四条 事業主は、その雇用する労働者に対し、必要な職業訓練を行うとともに、その労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するために必要な援助その他その労働者が職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上を図ることを容易にするために必要な援助を行うこと等によりその労働者に係る職業能力の開発及び向上の促進に努めなければならない。

第十条の三 事業主は、前三条の措置によるほか、必要に応じ、次に掲げる措置を講ずることにより、その雇用する労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上を促進するものとする。
一 労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報を提供すること、職業能力の開発及び向上の促進に係る各段階において、並びに労働者の求めに応じてキャリアコンサルティングの機会を確保することその他の援助を行うこと。


労働者が自分のキャリアを考えて、能力向上することは、労働者にとっての努力義務だ。(第三条にそう記載されている)

そして、労働者がキャリアを考えて、能力向上を図ろうとするのを、事業主は支援しなはれ!と法律に明記されているのである。

「職業能力開発促進法」を読んだことがない、存在を知らないというマネージャや経営層も多いと思う。まずは、人事や人材開発担当者はこれを読んで、法律で定められていることも踏まえて会話してみてはどうだろう?

そして、このエントリーのタイトルの問いについてなのだが、
だいたいで言うと、45歳以上の人は、社会に出てから、キャリアという言葉と出会っているはずで、キャリア自律とかキャリアオーナーシップなどと考える必要もなく、目の前の仕事を粛々と進めていくことで昇進昇格といったものができた年代であろうと思う。(私もその年代である。社会人になって何十年も経過した40代のころ、「キャリアというものを自律的に形成するという考えがどこかにあるらしい」と、ぼんやり、遠い世界の話のようにとらえていた)

だから、若手層(45歳未満)が「キャリアを考えたい」と言っても、「キャリアを考える機会を設けたい」と言っても、ピンとこない。

ピンとこないのは、自分たちが成長してきた過程に存在しなかった概念だからである。

価値観が大きく異なるため、そうそう簡単には理解を得られない。

ただ、時々、45歳以上、いや、55歳以上でも65歳以上でも、進取のキャラな方が必ずどこかにいるので、そういう方を味方につけて、うまく、社内で賛同者を増やしていくのがよいのだろう。

いずれにしても、全員が賛成することはないはずなので、
小さなことからコツコツと、
周囲の賛同者を巻き込みながら粛々と、なのだ。

厚労省が2年ごとに「グッドキャリア企業アワード」なるものを表彰しているが、授賞のイベント(オンライン)に参加したら、うまくいっている企業は、「トップダウン」でキャリアや能力開発を手掛け始めたか、何らかの形で「黒船来航」的な出来事があって、喫緊の課題としてキャリア自律と能力開発(リスキリング)に力を入れることになったというケースが多かったように思う。

そのどちらも、現時点でない、というケースで、各企業のキャリアコンサルタントは孤軍奮闘しがちだろうと想像する。でも、大事だと思うことは、言い続けるしかない。

そのうち、風向きが変わることもあろう。(気長に行くしかない)





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