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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

部下には「自分で考える人になってほしい」というけれど、上司は案外「考えさせていない」ようにも思う。

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先日、新入社員を迎える部門のリーダーやマネージャの方向けに、「新入社員」と彼ら・彼女らの成長支援をする「OJTトレーナー」双方のサポートをするために「あんなこと」「こんなこと」に留意するといいですよぉ~、というセミナーを担当しました。

お集まりの方は30代から40代。 ベテランですね。

新入社員、というか、初心者・初学者の「学び」の特徴をお伝えしつつ、あれこれ話し合っていただいたり、ロールプレイ的な体験もいくつかしていただきました。

そんな中で、「2分間、相手の話をただただ聴いて下さい。アドバイスなどしなくていいから」という体験をしたときのこと。

全員が全員、とにかく耐え忍んで、という感じで2分話を聴いたのですが、感想と言えば、「ああ、ただ黙って聴くってすごくつらい、ムズカシイ」というものでした。

会話の様子を再現します。(部下役には、自分の悩みや困っていることを上司に話す、という設定でお願いしています)

【パタンA】

部下役(新入社員のつもりで話している):「自分の仕事の段取りとかどのくらい時間をかけるべきか、というのがわからなくて、だから、定時になっても帰っていいのか、もうちょっとやるべきなのか、とかいつも判断できないんです」
上司役:「ふむ」
部下役:「それに、新人研修で習ったり、先輩に訊いたりしてノートには取っているんですけど、自分でそのノートを見てもわからなくなることもたくさんあって、でも同じことを質問したら悪いかなあと思ったりもするし」
上司役:「うん」
部下役:「それと、先輩の様子を見ると、すごく忙しそうで、だから声もかけづらいし、なんだか自信なくなって、でも質問しないと先に進めないし」
上司役:「うぐ」

・・・このあたりで上司役の方は、もうかなり苦しそうです。

「ああ、ダメだ、何か言いたい、解決したい、アドバイスしたい、と思ってしまう」とおっしゃる。黙って聴くのは、本当に難しいのです。

たとえば、上記の会話、「黙って聴いてくださいね」という指示がなければ、きっとこうなります。

【パタンB】

部下役:「自分の仕事の段取りとかどのくらい時間をかけるべきか、というのがわからなくて、だから、定時になっても帰っていいのか、もうちょっとやるべきなのか、とかいつも判断できないんです」
上司役:「ふむ。その日やる分は終わってるの?先輩に帰っていいか、訊けばいいんじゃない?」
部下役:「それに、新人研修で習ったり、先輩に訊いたりしてノートには取っているんですけど、自分でそのノートを見てもわからなくなることもたくさんあって、でも同じことを質問したら悪いかなあと思ったりもするし」
上司役:「悪いと思うことないよ。そのためのOJTトレーナーなんだからさ」
部下役:「それと、先輩の様子を見ると、すごく忙しそうで、だから声もかけづらいし、なんだか自信なくなって、でも質問しないと先に進めないし」
上司役:「皆忙しそうにはしているけど、質問できるのは1年目の特権だぞ」

あるいは、こんな風な展開も。

【パタンC】
部下役:「自分の仕事の段取りとかどのくらい時間をかけるべきか、というのがわからなくて、だから、定時になっても帰っていいのか、もうちょっとやるべきなのか、とかいつも判断できないんです」
上司役:「ふむ。その日やる分は終わってるの?先輩に帰っていいか、訊けばいいんじゃない?」
部下役:「はい。でも、その先輩が忙しそうで」
上司役:「遠慮してたら何も先に進まないよ。積極的に先輩を捕まえなくちゃ」
部下役:「ええ。でも・・・」
上司役:「じゃ、オレからOJTトレーナーに話しとくからさ、遠慮なく相談しな。いいね」
部下役:「はい」

日常会話で、パタンAになることはあまりなくて、パタンBか、あるいは、というか、かなりの確率でパタンCになっているのではないかと思います。

上司や先輩というのはたいていベテランで、経験が多く、知識も豊富で、しかも、後輩の問題は解決するという使命も持っている。だから、ちょっと相談を持ちかけられると、全部を聴かずに、どんどんアドバイスしてしまう。解決策を示してしまう。あるいは、ひたすら励ます。鼓舞する。

でも、Bはまだしも、Cの展開になると、部下は話したいことの半分も話せていないんですよね。しかも、上司がじゃんじゃんアドバイスするものだから、上司のアドバイスを理解するのに意識が取られ、自分の内面をじっとさらけ出すことができない。そうなると、問題の本質も内省できなくなる。

上司や先輩がぐっと我慢して話を聴いていると、その内、本当の課題は何かが部下本人の口から語られることもあるし、話している本人が自分でそのことに気づき、「あ、自分がすべきことがわかりました。話を聴いてくれてありがとうごじざいました」と去っていくこともあります。

ここで例に挙げた会話は、たった2分です。

人はその「たった2分」を耐えられない。年次が上がるほど、ポジションが上がるほど、「ただ黙って聴く」というのは難しくなってくるように思います。(これまで何千という管理職の方と接してきての感想です)

だから、意識しないと、意識して、自分のアドバイスした気持ちを抑えないと、ついしゃべってしまう。

部下には「自分で考える人になってほしい」と誰もが言うのです。だけれど、上司や先輩がどんどんしゃべってしまっては、やはり、考えるチャンスが減ってしまう。

2分くらい黙って耳を傾ける。

「2分? その程度でいいのか」と思われた方は、ちょっとお試しください。

結構シンドイですよ。 口から生まれた私(※)もやはりシンドイです。

(※) 「口から生まれた私

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