アルジェリアの件をふまえつつ、地政学を意識すると見えるモノ
某所でのアルジェリアのガスプラントでの一件を踏まえての会話からふと思ったことをいくつか。
ちょっと色んな理由があって、昨年末からずっとオフィスへの行きかえりにPodcastで取り込んだBBCやCNNをはじめとする英語圏のニュースをひたすら聞いているのですが、とりあえずアメリカのメディアのここ数日の話題はアルジェリアの一件、自転車のランス・アームストロング氏がずっとドーピングしてたと告白した話、カレッジフットボール選手でハイズマン賞ファイナリストのノートルダム大マンティ・テォ氏が事あるごとに話題にしてた彼女が実は非実在だった話、そしてオバマ合衆国大統領の2期目の就任周りってのが基本的な話題だったりします。もちろんホワイトハウスとNRAの闘いとかもあるのですが、まぁそれはそれ。
もちろんBBCではイギリス国内の話題に加えてインドなりオーストラリアなりといったイギリス連邦国家群関係の話題が殆どだったりってことで、結局それぞれの国のニュースが如何に[WORLD NEWS]を名乗っても観測範囲というのはそれぞれだよね、というのがとても良くわかるよねと改めて思ったりしています。
でもって、それを踏まえつつ・・・
それぞれの国や地域が持つコンテキストと地政学
アルジェリアでの人質事件については、アルジェリア軍の行動について云々と言う話は当然ありますが、残念ながら日本の関係者も何人か亡くなられたのは非常に残念であり、哀悼の意を表したいと思います。
ただ、今回の事件がおきたアルジェリア、ひいては例えば北アフリカ諸国がどういう背景を持っているのかというのは日本との関係をあまり意識することの無い地域であり国である事から、基礎的なところが結構欠落するものです。
たとえばアルジェリアで言うと、日本の報道ではあまり見かけなくてBBCとかCNN、あるいはWSJあたりで触れていた、「そもそもアルジェリアはイスラム系ゲリラと過去何十年も闘ってきてるという時代背景の話があって、周辺国との協調関係と対立関係のモザイクがあまり簡単じゃなくて、旧宗主国や国連といえど今回の方向での揉め事では頼りたくはない事情が元々あり、当該地区は実は軍の管轄で民間人は立ち入り出来ない区域だけれど警備自体は地方政府に移管してて傘下で動く部隊や警備会社の判断にはイスラムの大義が全面に出る事がある(だから今回のアルジェリアではゲリラの通過を見逃した可能性もあるといわれる程)話とか」といった諸々の話と力関係が、正に歴史を踏まえた地政学の一端じゃないかと思うんです。
SNSで革命、の後始末
半ば無政府状態を志向したがごとく継承勢力が固まらないままの「市民革命」で政権交代したエジプトの昨今の混乱話もそうですが、北アフリカ全域が近代以降歴史的に見ても地政学的に非常に不安定なのはそもそも前提条件として存在していて、特に天然資源を採掘するような場所では各国政府なり欧米なりの軍事力と政治力が裏書になって初めて活動できるわけですが、今回のアルジェリアについてはその一端が全く機能せず最悪の状況になったわけで、このアタリは北アフリカや中南米を含めた石油関連や鉱物資源採掘事業者にとって非常に強い危機感になるのは簡単に想像できます。実際問題として、中南米を含め資源メジャーと分類される企業がいろいろな形で襲撃されたり暴動までゆかなくても争議になったり、国家自体や地方政府を含め現地政府と権利と金の流れの問題で揉めたりするのは今も昔も変わらないという現実はキチンと見ておくべきだと思うんです。
そういう流れに国家がどこまで関与するかというのはそれぞれですが、因みにたとえば地域と状況によってはPMC(あるいはPMSC)と呼ばれるような組織の活動範囲と出番が増える状況があったりもします。形としては警備会社なり輸送業者と言う形を取っていたりしますから、まぁそこはそれなりに興味をもって調べないと判りにくい世界だとは思いますが。
求めるプレゼンスに巻きつくもの、そして求められるプレゼンスに巻きつくもの
そいえばNHKでは触れていたのですが、日本政府が「人的被害を出さないように」という論調に対してホワイトハウスのヒラリー・クリントン国務長官は「最小限の人的被害で」という論調で発言をしていました。もちろんその場に自国民がどれほど関与しているのか、そして被害状況はどうなのかと言った立場の問題はありますが、この違いが多分世界の中でのプレゼンスと引き換えに何を考えているかというトコロなんじゃないかとは思います。
もちろん人的被害が無いのが一番良い事であることは間違いありません。それは間違いない。ただし全く無傷で居る事を誰も担保出来ない = むしろ無理なので最小限でと最初から被害があるのは前提という姿勢であるとも取れます。因みに今回は展開の速さや現在の北アフリカ地域での自国勢力の展開能力(あるいは余力)の問題があり、また隣国のマリでフランス軍が活動している事もあり結局手も足も出なかった and/or 出せなかった、あるいはアルジェリア政府から出させてもらえなかったところもあるようですが、それでも第一次大戦で欧州出兵以降基本的に継続的に必要に応じて直接派兵し前面で活動するという事を継続しているのは誰もが知っている話です。
その行動を別の表現にしてみると、警察や消防=「危険だ。一歩下がれ」を取る事もありますが、オプションとして軍=「危険だ。一歩前へ」という行動を取る事があるし、取ってきたし、これからもそうであるという姿勢があるような気がします。正しい正しくない、好き嫌い、良い悪いなどは別として。
因みに私自身の話として日本もそれに習って直接兵力を展開するべきだといった短絡思考はもっていませんし、日本としてそういう責任の果たし方以外に方法が無い訳ではないとも思っています。でもたとえば歴史的経緯を踏まえつつ各所でのPKO活動の現場(丁度今日、17年続いたゴラン高原のPKOの隊旗返還式が行われましたが)やペルシャ湾での活動がどれほど高い評価を上げてきたかとかそういう事も一通り理解してるつもりではあります。とはいえ、じゃぁどうするべきなのかと言った話は簡単ではないので、その方向の話についてはこれくらいにしますが・・・
地政学的知識を踏まえないと理解できない経済活動での行動原理
実は基本的にそういうものがあると思っています。もちろんモノゴトは変化しますから、ある時点で切り取った評価が未来永劫続くものではないのは事実。でも、最低限理解していないといけないのは、日本で生活している中で持っている評価基準や倫理基準とは違う世界は普通に存在している、というか基本的に日本と違う価値観も含めて全部で世界が構成されているんだよというトコロ。これを何処まで理解できるか、しているかってのは色んなモノゴトを眺める上で本当に大事だと思っています。
だからこそ「日本が特殊なんだよ」じゃないと常々思っています。自分のつたない人生経験からもつ持論なのですが、世界中の各国各地域がそれぞれ勝手に自分の価値観と行動原理を持ってるのが実態であり、「日本がガラパゴス」じゃなくて「ガラパゴスの集合体が世界である」という発想です。アメリカだって中国だって同じ価値観で構成された一枚岩であるわけが無い。アラブ世界の広さと人口と宗派の違いがどれほどなのかってのも簡単に想像できないくらいなんだし。
あ、そういえばそれでもアメリカが一枚岩になった瞬間に立ち会ったことはありました。9.11の直後の話ですが、これについてはそのうち書くかもしれません。アメリカにおけるナショナリズムというものの一端をたまたま垣間見る事が出来る立場に居たんですが、まぁそれはそのうちに。
ということで、そういう意識をもってモノゴトに接してゆかないと、なんだか色んなモノを良い様に誤解したり意味も無く憤慨したりすることが結構あるよね、と改めて思ったりする今日この頃です。