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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

「AI負け組」はどこにいる?米国のSaaSの死の本当の原因 -> AIデータ・フライホイールのあるなし

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米国市場で「SaaSの死」という言葉が語られ始めています。
背景には生成AIの急速な普及があります。とりわけ、従来の業務アプリケーションを代替する形で大規模言語モデルが実務に入り込んできたことが象徴的です。

しかし、この現象を単純に「AIがSaaSを駆逐する」と理解するのは誤りでしょう。

問題の本質は、SaaSという提供形態ではありません。
終わりつつあるのは、AIデータ・フライホイールが組み込まれていないビジネスモデルそのものです。

本稿では、「AI負け組」という概念を軸に、米国で起きている構造変化を整理します。

AIデータ・フライホイール(AI Data Flywheel)とは何か

■ 定義

AIデータ・フライホイールとは、利用データがAIモデルの性能向上を生み、その性能向上がさらに利用を拡大し、結果として競争優位が自己強化される循環構造のことを指します。

単なるデータ活用ではありません。
「自己増幅型の学習循環」が設計として内蔵されているかどうかが本質です。

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■ 基本構造

AIデータ・フライホイールは、一般に次の5段階で構成されます。

  1. 利用発生(Usage)
    顧客やユーザーがプロダクトを利用する。

  2. データ蓄積(Data Accumulation)
    利用データが構造化・保存される。

  3. モデル改善(Model Improvement)
    蓄積データがAIモデルの精度向上に活用される。

  4. 価値向上(Product Enhancement)
    モデル改善がサービス品質向上として顧客に還元される。

  5. 利用拡大(Increased Adoption)
    品質向上により利用が増え、さらにデータが蓄積される。

この循環が継続的に回ることで、時間とともに競争優位が拡大します。

■ 従来型データ活用との違い

従来のデータ活用は、多くの場合「分析」で止まります。

  • 売上データを分析する

  • 顧客属性を可視化する

  • 業務効率を測定する

しかしAIデータ・フライホイールは、

分析ではなく、自動的な性能進化(今泉注:組織スケールのAIシステムによりこれが回る)

を目的とします。

利用すればするほど賢くなる設計が内蔵されているかどうかが分岐点です。

■ なぜ「フライホイール」なのか

フライホイール(Flywheel=車輪)という比喩が使われる理由は、回転が加速する構造を持つためです。

初期段階では回転は遅いですが、

  • データ量が増える

  • モデル精度が上がる

  • 利用頻度が増す

につれて、循環は加速します。

この加速性が、資本市場での評価差を生みます。

■ AIデータ・フライホイールを持つ企業の特徴

AIデータ・ホイールを持つ企業には、次の特徴があります。

① データ取得が設計思想の中心

データは副産物ではなく、戦略的資産です。

② モデル改善が経営KPIに連動

単なる機能追加ではなく、学習速度が競争軸になります。

③ 利用がモデル改善に直結

顧客利用が即座にモデル改善につながる設計です。

④ 競争優位が時間とともに拡大

規模拡大がそのまま性能向上に結びつきます。


■ AI機能との違い

AIデータ・フライホイールは、単なる「AI搭載」とは異なります。

AI機能:
・チャットボット
・自動生成
・予測分析

これらはフライホイールではありません。

フライホイールとは、

AIが組み込まれているのではなく、
AIが経営構造を駆動している状態

を指します。

1. SaaSはなぜ「死ぬ」と言われるのか

SaaS(Software as a Service)は、サブスクリプション型のソフトウェア提供モデルとしてこの15年間、企業ITの中心でした。

特徴は明確です。

  • クラウド経由で提供

  • 定額課金

  • アップデートは提供側が実施

  • 顧客は継続利用

このモデルは高い継続率と予測可能な収益を生み、資本市場からも高く評価されました。

しかし生成AIは、この前提を揺さぶっています。

生成AIは、従来の業務ソフトが提供していた「機能」を抽象化し、自然言語インターフェースで代替します。
帳票作成、分析、文書生成、コード生成といった機能は、もはや専用UIを必要としません。

その結果、問いが生まれました。

なぜ高額な専用SaaSを契約する必要があるのか?

これが「SaaSの死」という言葉の背景です。

しかし、これは表層的な現象に過ぎません。

2. 本質は「AIデータ・フライホイール」の有無

AIデータ・フライホイールとは何か。

簡潔に定義すれば、

  1. 利用データが蓄積される

  2. モデルが改善される

  3. サービス品質が向上する

  4. 利用が増える

  5. さらにデータが蓄積される

という自己強化型の循環構造です。

重要なのは、この循環が自動的に回る設計になっているかどうかです。

米国市場で評価を維持している企業は、例外なくこのフライホイールを持っています。(NVIDIA, Palantir, Walmartが新規の事例)

逆に言えば、AI機能を"追加"しただけのSaaSはフライホイールを持ちません。

単発のAI機能は差別化になりません。
データ循環を内蔵していないビジネスモデルは、時間とともに価値を失います。

ここに「AI負け組」が生まれます。

3. AI負け組の特徴

米国市場で評価を落とし始めた企業には、いくつかの共通点があります。

① 機能中心設計

プロダクトの価値を「機能の多さ」で定義している企業です。
生成AIは機能をコモディティ化します。機能単体では競争力を維持できません。

② データが蓄積されない設計

顧客が利用しても、モデル改善につながらない設計です。
この場合、競争優位は蓄積されません。

③ 顧客ロックインがUI依存

ユーザーインターフェースが囲い込みの源泉である企業は危険です。
自然言語インターフェースが標準化すれば、UIの優位性は消滅します。

④ 経営がAIを「機能追加」と誤認

AIを新機能として扱い、経営構造を変えていない企業です。
この場合、AIは装飾で終わります。

これらの企業を「AI負け組」と呼ぶことができます。

4. SaaSは死んだのか

結論から言えば、SaaSは死んでいません。

死んだのは、

「クラウドで提供すれば高評価される」という時代の前提

です。

SaaSという形態は依然として有効です。しかし、AIデータ・フライホイールを内蔵しないSaaSは、時間とともに競争力を失います。

つまり、

  • SaaSが問題なのではない

  • AIを中核に据えていない経営構造が問題

なのです。

5. 日本企業への示唆

日本企業の多くは、依然として次の段階にとどまっています。

  • AIをPoCで試す

  • 一部業務に導入する

  • 既存プロダクトに機能追加する

しかし、米国で進んでいるのは別の次元です。

経営そのものがAI前提で再設計されています。

問いはこうなります。

  • 自社のプロダクトはデータを循環させていますか

  • 顧客利用はモデル改善に直結していますか

  • 経営KPIはAI学習速度と連動していますか

もし答えが否であれば、その企業は構造的にAI負け組へ向かいます。

6. AI経営のキモ

AI経営の本質は、AI機能の搭載ではありません。

核心は、

データが自動的に価値へ転換される循環設計

です。

この設計がある企業は、時間とともに強くなります。
設計がない企業は、時間とともに弱くなります。

生成AIは加速装置です。
既存ビジネスの欠陥を露呈させます。

SaaSの死とは、AIが既存モデルの限界を可視化した現象に過ぎません。

結論

「AI負け組」は特定の業種にいるのではありません。

それは、

  • データ循環を持たない企業

  • AIを戦略ではなく機能と捉える企業

  • 学習速度を競争軸にできない企業

のことです。

米国で起きているのは、SaaSの死ではありません。

AIデータ・フライホイールを持たないビジネスモデルの終焉です。

この構造を理解できなければ、どの業界にいてもAI負け組になります。

そしてこれは、業種の問題ではなく、経営設計の問題です。

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