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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

政府が進める新しいエネルギー戦略とそこから生まれるビジネスチャンス(下)

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昨日の続きを記します。(後記。13日朝に大幅に書き換えました。)

▼スマートコミュニティの構築、農山漁村における分散型エネルギーの地産地消等
・スマートコミュニティについては、横浜市、豊田市、けいはんな、北九州市の実証実験に加えて、収益モデルの確立を狙った事例としてパナソニックの藤沢のプロジェクトや東芝の大阪府茨木市のプロジェクトが動き始めています。確実に投資回収ができるモデルが確立されれば、今後全国各地で取り組みが進む可能性があります。また海外市場にも適用できるでしょう。ポイントは、得られるメリットをどうパッケージングし、どうやって最終顧客の納得を得られる価格に落とし込めるかです。居住環境の規格化とマスプロダクションによる規模の確保が重要になると考えています。
・農山漁村における分散型エネルギーの地産地消については、地方自治体が遊休地を使って再生可能エネルギー発電事業に取り組む動きが活発化する可能性があります。地産地消というより、固定価格買取制度下で再生可能エネルギー発電の売電収入を得、自治体の財政に役立てる動きが主流になるのではないでしょうか。

▼国立・国定公園内における風力発電施設・地熱発電施設の立地の調整/地熱発電の開発のための温泉法上の掘削許可に係るガイドライン策定
・地熱については、日本は世界有数の地熱発電ポテンシャルを持ちながら、主に2つの点で地熱発電事業が阻害されています。1つは多くの地熱発電資源が国立・国定公園内にあって発電施設の建設が難しいこと。もう1つは、地熱資源を開発する際に行うボーリングなどによって温泉資源が損なわれる可能性があり、温泉事業者の反対が予想されるということです。前者は規制緩和によって対処できますが、後者はどうか…。温泉大国であるがゆえに難しいところがあるのではないかと思います。
・仮に自治体が率先して温泉事業者との調整を取り仕切ってくれれば、地熱発電事業自体は24時間365日稼働が可能なベース電源として機能しますから、系統に接続する際に連系可能量の制約を考える必要もなく、発電量も多い…。ということは、発電収入も多い事業として成立します。
・1つのアイディアですが、地域の温泉事業者が集まって将来の収入源の確保という位置づけで、自ら地熱発電事業に取り組むケースが出てくれば、これはうまく行く可能性がありますね。

「3. 電力システムの改革」から

▼送配電システムの機能強化
(連系送電線の強化と広域的電力供給確保の強化(電力融通強化のマスタープラン策定等))
(スマートグリッド、スマートメーター導入促進など配電網の高度化)
・「連系送電線の強化」とは結局、電力会社をまたぐ基幹送電線の新設ということになります。現時点では各電力会社の系統が隣接した電力会社の系統と「連系」(接続)する部分は原則的に1点であり、そこを流せる容量はごく限られています。メッシュ型で連系している欧州のように国同士、電力会社同士で柔軟に電力の売り買いや融通ができるようにはなっていません。また、周知のように東日本と西日本では周波数が違い、周波数変換が行える容量も100万kWに限られています。こうした現状を「強化」するとは、電力会社にまたがる送電線の送電容量を上げる=新しい基幹送電線の敷設を行うということに他ならず、そのためには相応の費用がかかります。
・送電線の建設費は1998年の数字で、東京電力が19kmの送電線を建設した際に費やした180億円、すなわち1km当たり約9.5億円という数字があります。現在設置されている各電力会社間の連系線は10ルート。ここに冗長性を持たせるべく各2路線ずつ送電線を設けるとし、それぞれ50kmの距離を持つとすれば計1,000km。km当たり9.5億円で約1兆円になります。
・「広域的電力供給確保」も同じことで、電力会社をまたぐ基幹送電網を拡充することで、個々の電力会社管内では需給が逼迫していても、複数の電力会社がまとまって電力をやりとりすればそれが緩和されるという発想です。ここでも送電線の新設が必要になります。
・日本の電力システムにとっては非常に好ましい話で、これによって接続が可能になる太陽光発電、風力発電の量がぐっと増えるはずです。日本の電力システムを長期的な視野で改善する意味で、非常によい投資になるのではないでしょうか。
・「スマートグリッド」について。国の施策としては初めての「スマートグリッド」への言及ということになると思います。具体的な構想が出てこないと何も言えませんが、短期的には、出力に揺らぎがある太陽光発電および風力発電の系統への接続の要請が高まるであろうこと、一方で系統には太陽光・風力の連系可能量に制約があることから、太陽光・風力の出力の揺らぎを平準化するメカニズムの普及促進が大きな柱になると思われます。具体的には、蓄電池と組み合わせることで実現できる出力平準化、あるいは、追従性の高いガスタービン発電と組み合わせることで実現できる出力平準化、ということになるでしょう。
・「スマートメーター導入促進など配電網の高度化」は先日、日経一面に載った「次世代電力計を集中整備、5年で需要8割網羅 政府方針」という報道が伝えていたものですね(7月27日)。記事によると「5年以内に電力の総需要の8割を同メーターで把握できるようにする。」「スマートメーターの普及で時間帯の電力消費を把握できるようにして、ピーク時の使用電力を抑えるピークカット料金の導入も加速する。」とあります。
・しかし、スマートメーター導入で先行している米国の例を見ると、必ずしもかけたコストに見合う成果が上がっていない現実があり、どのようにして元を取っていくのか、普及計画の肉付け部分で智恵出しが求められます。また、他の多くの方策も同様ですが、スマートメーター設置にかかるコストは、現状の総括原価方式のなかでは一般世帯の電気料金に転嫁されることになるので、それについての社会的なコンセンサスも必要です。全国4,900万世帯の8割、3,900万世帯に1台2.5万円のスマートメーターを設置すると1兆円近い投資になります。
・なお、スマートメーターについては、経産省スマートメーター制度検討会で過去に議論されてきた経緯があり、それによれば、電力会社の従来の電力計交換と同等の負担で設置可能、かつ現行の配電の枠組みで運用可能な、いわゆる「狭義のスマートメーター」(価格が安いもの)で行こうという合意があります(インターテックリサーチさんのブログを参照)。
・「狭義のスマートメーター」は誤解を恐れずに言えば遠隔検針程度の機能しか持たず、現在課題となっている電力需給の逼迫を改善できるようなデマンドレスポンスや高度なHEMSには応用できないものです。その方針を切り替えて「広義のスマートメーター」で行くとなれば、収集した情報(個人情報に相当)を誰が管理するのか、サードパーティも利用できるようにするのか、家電製品等とのインターフェースはどうするのか等々、かなり細かな課題が関係してきて、1年では済まない関係者間の調整作業が必要になります。
・また、すでに関西電力などが設置しているスマートメーター(狭義のスマートメーター)を入れ替える必要も出てきます。という具合に実はかなりやっかいです。
・個人的にはスマートメーターへの投資よりも、効率の悪い火力をガス・コンバインドサイクルに入れ替える、あるいは太陽光・風力発電のサイトレベルでの出力平準化に投資をした方が、社会的なリターンが大きいのではないかと考えています。
・「配電網の高度化」では、スマートメーターとは別に、コミュニティレベルで電力の生産(発電)と消費を一致させる「マイクログリッド」の実現が1つの方策としてあります。電力の地産地消と言ってもよいでしょう。これについては、スマートシティ・スマートコミュニティとの整合性が高いので、一緒の枠組みにして振興策などが設けられれば、普及が進む可能性はあります。毎月のエネルギー代がゼロのコミュニティが実現すれば、消費者への訴求力は高いです。

▼蓄電池の設置(系統側への導入慫慂、需要側における活用)
・「蓄電池の設置」は、ベース電源としての原発の今後が不透明な現在、上述した太陽光や風力の出力の揺らぎを吸収する用途のみと言っても過言ではありません。また1日単位の需給で言えば、夜間の電力需要がない時間帯にせっと発電した風力の発電電力を蓄電池にためておき、日中のピークにはき出す用途もあります。ということで、ピーク対策をも兼ねます。
・系統規模で蓄電池を設置することについては、以前、資源エネルギー庁の研究会で議論されたことがあり、ここにその時の資料があります。
資源エネルギー庁:新エネルギー大量導入に伴って必要となるコスト負担の在り方」 
・これは太陽光発電が2,800万kW以上接続されてきた時に揺らぎをどうするかを議論していたものです。この時は各シナリオで日本全体の蓄電池の費用が4〜6兆円に上ると試算されました。これはいわば、日本の電力系統を丸ごと面倒見る蓄電池を系統ないしは需要家側に置いた時の試算です。
・当面は個々の太陽光・風力発電サイトにおいてそのサイトの必要量のみをまかなう蓄電池を設置するということにすれば、必要とされる金額はぐっと小さくなるのではないでしょうか。
・また、再生可能エネルギー特措法の枠組みの中で、太陽光発電と風力発電を行う事業者は蓄電池併設も認めることとし、それにかかる設置費用を買取価格の中で吸収してしまうという風にすれば、投資回収がスムーズに行きます。

▼再生可能エネルギー、分散型電源、自家発などの参入促進のための系統運用ルールの見直し(託送制度、接続制度、自家発補給契約の見直し、再エネの優先接続規定の整備、など)
・これはまさに、従来のPPS事業者、IPP事業者が望んでいたところのものであり、実効性のある見直しがなされれば、こうした事業者の事業環境は一変します。また、これから固定価格買取制度の下で参入してくる再生可能エネルギー発電事業者の事業環境も非常に好ましいものとなります。
・とは言え、この部分は過去の制度審議会等において十二分に議論がなされたところのものであり、それを覆すとなると、電力事業制度の根幹の大改修とも言うべき作業が必要になります。これを行うのかどうか…。誰も展開を予測できない世界だと思います。
・基本的には現在の日本の系統は個々の電力会社レベルにおいてすでに最適化がなされているということ(言い換えれば系統に余裕がない)、そこに改善を加えるには全国規模で系統を見直す必要が出てくるということがあります。
・仮に発送電分離に近い制度が実現すれば、それはそれで発電に新規事業者が多数参入してきて、その部分は活発化しますが、それとともに、米国で言う独立系統運用者は新たに送電網の抜本的な改修に着手する必要も出てくるはずです。日本の系統は多くの新規参入事業者の接続を許容できるものにはなっていないからです。すると、上で述べた1兆円規模あるいはそれ以上の投資が必要になり、これの投資回収が課題になってきます。
・やるのであれば抜本的に、やらないのであれば系統には手を付けない、というような割り切りが必要になる世界ですね。

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以上をまとめれば、ほとんどの方策はかなりまとまった投資を必要とするものであり、総括原価方式のなかで需要家に転嫁するにせよ、別なスキームで投資回収を図るにせよ、誰かがゆくゆくはコスト負担をしなければならないものです。当然ながら、それによって得られる社会的なリターンの量と質を考慮しなければなりません。スマートメーターにも1兆円近い投資をする一方で、系統にも1兆円近い投資をすれば、総花的な雰囲気は出ますが、前者のリターンは期待はずれに終わった…などということが起こりかねません。日本の電力システム全体でどこに投資をすれば良好なリターンが得られるのか、いくつかのモデルを使ってシミュレーションを行うのがよいと思います。東大の宮田秀明教授がそうした試みを行っていますね

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