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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

バッテリージャパンで見たスマートグリッド用定置型蓄電池

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先週東京ビッグサイトで開催されていた「スマートグリッドEXPO」、そして「バッテリージャパン(国際二次電池展)」。本投稿ではバッテリージャパンで何例か見かけたリチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池のセルを多数連結した定置型蓄電池について記します。

スマートグリッドの関連で蓄電池と言うと、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電を展開する際に出力のふらつきを吸収する、いわゆる系統安定化の用途を想定するのが普通です。太陽光や風力は太陽まかせ、風まかせのところがありますから、電力を安定的に供給することができません。企業や一般世帯の電力需要は再生可能エネルギー発電の出力がどうあろうと、ある意味で安定していますから、その差を埋める、別な言い方をすればふらつきを吸収する措置が必要になります。

系統に接続している再生可能エネルギー発電の容量が相対的に小さい場合は、相対的に巨大な容量を持つ系統側で、そのふらつきを吸収することができるそうです。大が小を飲み込んでしまって、多少のふらつきは、大(系統)の側が面倒を見てしまうわけですね。これは、系統側から見て再生可能エネルギーの出力が無視できるぐらいに小さい場合において可能です。

しかし、再生可能エネルギー発電の容量が相対的に大きくなって、それが持つふらつきが系統に影響を与え得るぐらいに大きくなってくると、その再生可能エネルギー発電が存在している領域をいわば囲ってしまって、ひとつのマイクログリッドと見なし、マイクログリッド内において、ベースとなる系統からの電力供給+再生可能エネルギーからのふらつきのある電力供給と、マイクログリッド内の電力需要とをうまくバランスさせるような方策が必要になります。ここで意味を持つのが、定置型の蓄電池ということになります。なおこれは、日本だけでなく、各国のスマートグリッド状況においても言える事項です。(厳密に言うと、系統側にそのような相対的に大きなふらつきを吸収するための蓄電池 - 例、揚水発電 - を持たせるという方策もあります。それについてはここでは考えません。)

定置型の蓄電池は、2〜3年前までは、机上では可能であっても、価格やその他の面で現実的ではないと考えられてきました。価格が比較的安いものには鉛蓄電池がありますが、これはある程度の容量を実現しようとすると非常に重くなるという難があります。NAS電池も価格は相対的に安いですが、摂氏300度で動作するため加温機構の組み込みが不可欠で、大規模展開を図るケースにしか向きません。中小の企業や家庭などに置く定置型蓄電池ということでは、消去法的にリチウムイオン電池が残るのですが、そのリチウムイオン電池は単価が高いという難があり、実際的ではなかったのです。これが3年ほど前の話。

このへんの定置型蓄電池の普及の難しさを詳しく論じている経産省系の資料に以下があります。

平成19年度技術評価調査
「分散型電池電力貯蔵技術開発プロジェクトの追跡評価のための調査」
定置型モジュール電池開発についての調査(概要)
(株)東レ経営研究所 平成20年1月

この後、電気自動車の分野で大きな進展があり、日本では三菱のi-MiEV、日産のリーフ、米国ではGMのシボレー・ボルト(最新の試乗レポート)が世に出て、電気自動車に引きずられる形でリチウムイオン電池の価格性能比が向上してきました。

少し前に関係者の間で共有されていた各蓄電池の価格水準は以下のようになっています。

〈kWh単価〉
鉛電池 5万円
NAS電池 2.5万円
ニッケル水素電池 10万円
リチウムイオン電池 20万円
(資源エネルギー庁2009年2月資料による)

このうち、リチウムイオン電池は、最近では、kWh単価が10万円に近づいてきていると言われています。またそれに影響されてニッケル水素電池も下がってきているはずです。

12月中旬に取り上げたパナソニックの家庭用リチウムイオン電池では、PCなどに使われている汎用サイズである18650型のリチウムイオン電池セルを140個使用した電池モジュールを複数組み合わせることで、5kWhの容量を実現し、これで標準的な家庭の電力需要の半日分がまかなえるとしています。すなわち、夜間電力で充電をしておいて昼間に使うという利用法ができます。

kWh単価が10万円ということだと、5kWhで50万円。

これが、電気自動車用リチウムイオン電池の価格競争によって、比較的早期に下がるようだと、導入してみようかと考える一般世帯も増えてくると思います。
上記の経産省系資料の末尾に、家庭用定置型蓄電池の投資効果を試算したページがあります。4kWhの家庭用蓄電池の価格を80万円として試算していて、なかなか厳しい結果になっていますが、これが半額の40万円、さらに下がって30万円ということになってくると、話が違ってきます。

家庭用を例に記していますが、企業用途でも価格性能比では同様のことが言えます。

ということを前提に、今回のバッテリージャパンで、リチウムイオン電池による定置用途の製品を展示していたGSユアサ、三菱重工、IHI、日立を見ると、いずれも企業用の定置型蓄電池でしたが、そこに市場の立ち上がりを見ていることが十分に理解できました。なお、IHIは米国のA123と提携してリチウムイオン電池事業を行っているのがユニークです。

これら4社は、いわばごく一般的なリチウムイオン電池のセルをモジュール化して使っていました。一方、やや異なる立場で蓄電池市場を開拓しようとしているプレイヤーもいます。東芝は、リチウムイオン電池の正極に特殊な素材を使ったSCiBという商標の蓄電池を打ち出し、「5分間の急速充電が可能」を売りにしています。一般的なリチウムイオン電池では、大量の電力を流して急速充電を行おうとすると、電池が過熱してダメになってしまいます。SCiBではそういうことがなく、急速充電が可能です。急速充電が可能ということは、再生可能エネルギー発電による急激な発電容量増加にも対処しやすいということを意味します。

また、リチウムイオン電池ではなく、大容量のニッケル水素電池で新たな市場を開拓しつつある川崎重工の例もあります。先日紹介したSWIMOだけでなく、鉄道システムの中に組み込むバッテリー・パワー・システム(BPS)という定置用途があるそうです。これは、電車がたくさん走るラッシュアワーの電力需要を一部、蓄電したBPSからの出力で満たすということと、電車一般で見られる回生ブレーキ(通常は電力で駆動しているモーターを逆に発電に用いることで制動力を持たせる機構)で発電された電力を捨てずにBPSに貯め、鉄道システム全体のエネルギー効率を上げるというメリットがあるそうです。

今回の出展にはありませんでしたが、家庭用の定置型蓄電池用途としては、太陽光発電と一体化させてコストメリットを上げるタイプのものが各社で実験されつつあり、いずれは市場に出てくることでしょう。

スマートグリッドにおける定置型蓄電池はすでに実用化の域に入り、今後は、より多くの顧客を獲得すべく価格性能比を競う段階に入っていきます。加えて、あと数年もすれば、電気自動車用としては使えなくなったリチウムイオン電池を定置用途で再利用するサイクルが始まりますから、価格性能比は格段と向上するわけですね。

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