むかしマックな人が池田信夫氏の投稿で思ったこと
私も以前は「MacLife」で記事を書いたことがあるマックな人でした。いまはマカーと言うのか。最初に自分で買ったパソコンはPowerBook100でしたよ。
昨日の池田信夫氏の投稿はすごく興味深く読みました。
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ジョブズの成功も、これに近いまぐれ当たりだ。彼の事業は失敗のほうが多いが、iPodで一発当てれば、それを取り返して余りある。ベンチャーとはそういうものだ。サーゲイ・ブリンが「グーグルはなぜ成功したのか?」と質問されて「運だ」と答えたのは、本当なのだ。
まぐれ当たりを事業として成功させる上で重要なのは、仮説が明確だということだ。いろんなことをごちゃごちゃやらないで、一つの目標にしぼり、意思決定もトップの独断で決め、「みんなの意見」なんか聞かない。そうすると失敗しても、どこが悪かったがすぐわかり、トップをクビにすれば路線転換も簡単だ。IT産業はダーウィン的世界なので、そこで誰が生き残るかは、ほとんど偶然だが、大事なのは戦略と責任を明確にして、成功を次の事業に生かし、失敗したらすぐ退出するシステムである。
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こういう指摘。これはおそらく池田信夫氏一流のレトリックだと思います。読者の固定観念を各所で揺さぶりつつ、真実がどこにあるかに気づかせる。読む人によっては立腹しかねない表現を少しひそませる。けれどもそういう表現によってしか真実をあぶりだすことはできない。固定観念はことほどさように堅く、こびりついているので、こういう表現でも使わなければ動かない。そういう前提で出てくるレトリック。そういうものだと思うのです。かなり高度な技法です。
(ただ、この技法は、かなりの修練を積まないと百害あって一利なしです。ものすごくたくさんの知的な引出しがある人だからこそ、効果が得られます。)
今日の投稿もおもしろかった。
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以前の記事でも書いたように、ITの世界では株主資本主義には限界がある。奴隷制が禁止されているので、株主はもっとも重要な人的資本をコントロールできないからだ 。したがって「企業は従業員のものだ」という日本的経営にも一理あるが、そこで大事にしているのは個人ではなく、会社に忠実な「従業員」だ。そして従業員も、その会社が好きで一生いるわけではなく、やめても他の会社で生かせる専門知識がないから、会社にしがみついているだけだ。
いいかえれば、従来の日本企業は会社をタコ部屋にする「擬似奴隷制」によって従業員をコントロールしてきたわけだ。しかしこういうしくみは、労働市場が流動的なIT産業では、維持できない。では、そこで企業を統合するものは何だろうか。ジョブズは、Fortune誌に、ひとことだけ答えている:
"One of the keys to Apple is that we build products that really turn us on."
要するに「おもしろい仕事をする」というモチベーションによって、アップルは統合されているのだ。
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「タコ部屋」とか「擬似奴隷制」という文言の選び方も、読者の脳裏に鮮やかなフラグを立て、現状が抱える問題点を考えさせ、またあるべき姿に思いを馳せさせるために使っているのだと思います。
引用されているスティーブ・ジョブズのせいふもかっこいい(今泉超訳:アップルを理解するには、社員全員が涙が出るほど興奮する製品を作っているという事実をよく見ないといけない。)。松尾さんならずともうなるでしょう。