Respectを忘れた瞬間、あるいは本当のコミュニケーション能力とは
先日、slackで面白いやり取りがあったので、切り取って新卒社員向け即興トレーニングを作った。
「良いコミニュケーションとは何か?」がテーマだ。
現代企業でコミュニケーション能力が重視されている。採用活動の話題になると必ず「コミュ力」がキーワードになる。
世間でどう捉えているかは分からないが、僕が考えるコミュニケーション能力とは、仲間内でキャッキャウフフする能力ではない。立場やバックグラウンドの違う人々と意思疎通し、共同作業の土台を作る能力のことだ。
例えば先日ボランティア活動をしていた時に、30歳くらいの人が80歳のベテランボランティアさんに質問していた。それ自体は良いことだろうが、「あんた、早口過ぎてよく分からんな」と言われていた。
実際に彼の口調は50代の僕でギリギリ聞き取れるくらいの高速かつ滑舌の悪さだったので、あれで通じると判断している時点でコミュニケーション能力に難がある。
癖とかの問題ではない。実際老人には伝わらないのだから、伝わる言い方をすべきだ。
ちなみに僕自身はそもそも早口ではないが、日本語ネイティブではない人と会話する際にはさらにスピードを落として話す自己訓練をしてある。(英語苦手マンとしての悲哀の裏返しとして)
くだんの「良いコミニュケーションとは?」の即興トレーニングをやっている最中も、似たシチュエーションがあった。
Slackのやり取りの良し悪しを議論している際に「これだと伝書鳩みたいなやり取りになっています」という発言があったのだ。
これ自体は鋭い意見だったが、僕が「日本語ネイティブではない人には"伝書鳩"通じてる?」と確認したら、通じていない人が多かった(ネイティブでない人は4人いた)。
これもバックグラウンドの違う人々との意思疎通がもうちょっと上手いと良いのにね、という例である。
この2つの例は「話すスピード」「言葉遣い」という分かりやすく、かつ表層的な話なのだが、本当に大事なのはもっと中身の話だ。
トレーニングで取り上げたslackでのやり取りは、こんな流れだった
・社内プロジェクトAの担当者に、お客さんとのプロジェクトBの担当者が場所を譲ってもらう依頼をした
・Bの担当者の依頼の仕方が「もう決まったことなんで、譲りなさい」というトーンだった
・当然Aの担当者はムッとした
ここで大事なのは、「プロジェクトAよりもプロジェクトBの方が会社として大事なので、譲ることは全社最適である」という点だ。
なのでBの担当者は結構強気に出たわけですね。
つまりこれは「意思決定が正しいか?という話ではなく、Bの担当者のコミュニケーション能力が低すぎて、無用な軋轢を生んだ」という事例だったのだ。
この例で分かるように、別の仕事をしている人は、典型的な「立場が違う人々」だ。
立場が違う人は、立場が同じ人(例えば同じ経理課で机を並べて仕事をしている人)と比べると、使う言葉も違うし、違う業務目標を持っているし、持っている情報も違う。
だから、コミュニケーション難易度が高い。
この様な状況で、上手にコミュニケーションをするために大事なことが2つある。
1つは情報の土台を揃えることだ。
持っている情報が違うからこそ、相手が言っていることが理不尽、不合理に聞こえたりする。そもそも相手が何を目指しているか想像できないから、傲慢に聞こえたりする。当然のことだ。
例に出したケースも、
・急に部屋が必要となった事情
・他の部屋ではダメな理由
などが添えてあれば、「では仕方ないな」と思ったかもしれない。もちろん社内だしSlackでのやり取りなので、丁寧な文章である必要はなく、簡潔に1行添えればいい。
僕らはファシリテーターとして、会議の冒頭に「参加者が持っている情報量、話の前提を揃える」ということをやる。そうしないと議論が永遠に噛み合わないからだ。
コミュニケーションにおいて、もう一つ決定的に大事なのはRespectだ。
ウチの会社におけるRespectというのは、「尊敬される人間になれ」とかではなく「相手を尊重しろ」という意味だ。
<オフィスに書いてある、Respectの解釈>
"尊重"とは、自分とは違う仕事をしている人であったとしても、
・この人も、自分の責任を果たそうと一生懸命仕事をしている
・この人が仕事を通じて大事にしていること、こだわりのポイントもある
・きっとそれらは会社全体にとっても良きことなのだろう
と理解したり、信頼することだと思う。
こういうRespectを持っていれば、同じことを伝える際も「もう決まったことなんで、譲りなさい」というトーンにはならなかったはずだ。
Respectを大前提として持っていたら、コミュニケーションは破綻しない。(必ずしもこちらの要望を飲んでくれるとは限らないが)
しかし人は大変しばしば、コミュニケーションの際にRespectを忘れてしまう。特に自分が焦っていたり、慌てていたり、怒っている時は。
偉そうに書いている僕自身がかなりそういう人間なので、これまで多くの軋轢を生んできた。
たが、コミュニケーションする際に相手へのRespectを思い出せた場合には、そのリスクは大幅に下がる。
先日のミニトレーニングでは自分への戒めと共に、そんなことを新卒社員たちに話した。
コミュニケーション能力について、このブログ的に大事なことがもう一つある。
このブログの冒頭で「コミュニケーション能力とは、立場やバックグラウンドの違う人々と意思疎通し、共同作業の土台を作る能力」と定義した。だから、ルーティンワークをやる人よりも、プロジェクトワーカーにこそ、高いコミュニケーション能力が求められる。
もちろんルーティンワークでも、窓口やコールセンターなど、多様な人と意思疎通する場面はある。そういう意味ではコミュニケーション能力はもちろん必要になる。
だがプロジェクトでは、今まで話したことのないテーマについて、話したことない人と議論したり、協力を求めることになる。例えば「今までA部でやっていた部品マスターの登録を、今後はそちらでやってもらいたいんです」とか。
そういう時は、どこから話をすればいいか(何を話せば情報の土台が揃うか?)をケースバイケースで判断しなければならない。
さらに、このケースだと、単に仕事を押し付けているのではなく、会社全体にとって良いことなのだと理解してもらい、感情的にも納得してもらう必要がある。この時に、どういう切り口で説明すれば立場の違う方にも伝わるかも、ケースバイケースだ。
とにかく定型化しにくい。組織文化や、プロジェクトの文脈や、相手の性格によってかなり変わる。落とし穴がたくさんある。なので難しい。
僕はたいてい、他社の採用方針に共感できない。でも「コミュニケーション能力は大事だよね」については、1周回って、僕も大事だと思う。(もしかしたらコミュニケーション能力の定義が少し違うかもしれないが)
ただし、それは天性の能力ではないので、仕事を始めてからも十分鍛えられる。だから採用というよりは育成かな。(なのでトレーニングで教えた)
※今回もタイトルはChatGPTと白川の合作。楽ちん。
*********参考過去ブログ
チームで仕事をする上でなぜリスペクトが大事か、あるいは情けは人のためならず