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無視されるビジョン、あるいは飾り物のプロジェクトゴールの特徴5個

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僕らが「業務改革の教科書」を書き始めたのは15年前。

これは当初「プロジェクトの立ち上げ方」みたいなタイトルだったので、プロジェクトゴールについても1章を割いた。
この当時はゴールが掲げられておらず、どこへ向かっているのか良くわからないプロジェクトが結構あった。「とにかくシステム作ればいいんでしょ?」と関係者全員がぼんやりと考えている様な。
でも流石に近年はゴールが掲げられていないプロジェクトはほとんどなくなった(特に、投資額1億円以上の大型プロジェクトでは)。

代わりに目につくようになったのは、「役に立たないゴールが掲げられていて、プロジェクトをやっている人々は一切それを無視している」というプロジェクトだ。
すべての教科書に「プロジェクトゴールを掲げろ」と書いてあるので、パワーポイントにそれっぽい文言を書いてみたが、書いただけ、という状態。
ないよりはマシかもしれない。
とはいえこの形だけのゴールが人々を惑わし、プロジェクトを失敗に導いているケースもよく見るので、もしかしたら、ない方がいいのかもしれない。
なんというか、人類の進歩は一歩一歩ですね。


プロジェクトのゴールや、もう少し影響範囲が広い「会社のビジョン/ミッション/パーパスなど、組織やチームとして掲げる、やや抽象的な旗印的なステートメント」について、僕がパッと見てダメだなぁ、と思うステートメントの特徴を列挙していこう。
※後者については、最近ではパーパスという呼び方が流行っているが、このブログにおいては呼び方はどうでもいい


①当たり前のことしか言ってない。
例えば「顧客満足度重視」とか「売上拡大」とか「納期遵守」とか。

そうだね。これは大事だし、達成できたほうがいいね。
ただ、これだけだと何も言っていないのと同じなんですよね・・。

顧客重視の場合だと、例えば「顧客満足度を、自社の売上利益や従業員の働きがいよりも重視する」まで言えば、それは優先順位を明確にしたステートメントになる。
実際に社員が現場で判断を迫られた時の判断基準になるから。

でも「顧客満足度重視」だけだと「そうか。ウチの会社は顧客に満足して欲しいんだ。でも毎日売上上げろと尻を叩かれるし、残業もしちゃいけないと怒られるし、結果的に満足度という測定しにくい指標って後回しになりがちだよなぁ」などと社員が思って終了。
意思決定の基準にはならないし、結果として社員の行動は何も変わらない。
だとしたら、掲げていないのと同じだ。


②総花的
上記の①とかなり近い。
プロジェクトゴールとして掲げられている項目が、
・売上向上
・利益率改善
・コンプライアンス遵守
この3つだと、「色々と良いことが起こるといいね」と言っているだけに過ぎない。

「資源の最適分配」は経営でも、プロジェクト推進でも、極めて重要なテーマだ。
例えば中途採用と職場の設備改善のどちらに投資するか?
例えば経費精算が楽になるシステムと営業情報を共有するシステムのどちらに投資するか?
なんらかのステートメントを掲げて意味があるとしたら、こういった意思決定を判断する基準になることしかない(断言)。
でも総花的なステートメントは、総花的であるがゆえに、こういった意思決定を助けてくれない。


③空虚で実態のない言葉
例えば、以前ブログに引用した以下の文言。

「サプライチェーンマネジメント機能の構築によって、サプライチェーン全体にわたるエンド・トゥ・エンドでの可視化を実現し、全社横断での最適解と価値の最大化を実現する」

これは随分前に、お客さんが(憤慨しながら)見せてくださった報告書に乗っていた文章だ。どこぞのコンサルティング会社の人が書いたらしい。
あまりにも典型的な「ダメコンサル構文」だったので、強く印象に残り、記憶していた
先のブログは「ピラミッド的な論理構造の頂点に乗せるために無理矢理だしたゴールの例」として紹介した。
でもこれは反面教師としては完璧な例で、このブログの①、③、④、⑤にも当てはまる。

④どこの会社にも当てはまる
上記③の例もそうなのだが、
・それっぽくいいことが書いてある
・なので、ふむふむと引っ掛かりなく読める
・確かにこれが達成できたらいいだろうな・・
という感じなのだが、立ち止まって考えると、この紙を同じ業界のA社に持っていっても、1文字も変えずに通用するんでは?というケースが多い。
ひどいと「業界問わず、どこの会社でも当てはまる」ということもある。

まあ、どの会社でも本質的な課題は似通っているものなので、一概にダメと決めつける訳ではないのだが、
・この会社特有の、経営環境や組織状況を踏まえていない
・具体性の欠如(上記の例だとサプライチェーンが可視化されていないことで、現在何がNGで、可視化するとどう良くなるのかが、全く見えてこない)
・社員の思いが入っていない
とは言える。
少なくとも僕の基準では、到底良いプロジェクトゴールステートメントとは言えない。

こういうどの会社にも当てはまる報告書が出来上がるのは、コンサルティング会社が社内ナレッジとして蓄積している事例を、コピペしているからでしょうね。
事例をナレッジとして蓄積すること自体は大変良いことだし、個別のプロジェクトをやる時にコンサルタントが参考にするのも当然だ。だが思考停止的にコピペしちゃダメでしょう。

⑤文脈
これも④と似た話。
ゴールステートメントで言えば、前回のプロジェクトが大失敗したとか、いま全社でどういう戦略が実行中だとか。
会社のビジョンで言えば、これまでの成長を支えたビジネスが好調なのか、行き詰まっているのか。
同じ様な戦略を立て、同じ様なプロジェクトをやるにしても、こういった文脈を踏まえれば、自ずとそれはステートメントに反映されるはずだ。

だがこの文脈の話には続きがある。次週を刮目して待て!(週刊漫画風)


*******参考過去ブログ*******

くさび打ち込み方式で本質を探る方法、あるいは目的から議論しない訳

*******補足*****

プロジェクトゴールの作り方について最初に書いたのは冒頭に出した「業務改革の教科書」なのだが、このテーマについては断続的に書いている。

↓一番懇切丁寧に書いた本

リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書

↓今回のブログとは逆に、いい例をいくつか載せた本

システムを作らせる技術 エンジニアではないあなたへ

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