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思考力の付け方、あるいは脳みそのOSとは何か

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思考力ってどうやってつければいいんでしょうね?と同僚から相談されることがある。
頭が良さそうな同僚を見て「自分ももっと頭が良ければ、仕事で活躍できるのになぁ。。」と嘆いたことなら僕もある。変革プロジェクトとかコンサルティングは思考力が大切な仕事なので、「もっと思考力をつけたい」「頭がよかったらなぁ」という気持ちは当然だろう。
だがそれって「もっとイケメンだったらモテるのになぁ。。」と言ってるのと同じで、全く生産的ではない。嘆くよりは、身だしなみに気を使うとか自転車乗って細マッチョになる方が、目標に近づく気がする。

今からイケメンになれないのと同様、基本的には頭の良さも自分ではコントロールできない。なのでこの話はここで終了なのだが、それだとあまりに救いがないのでもう少し考えてみたい。
「頭の良さ」は漠然とした概念なので、パソコンに例えてみよう。

★頭の良さ1)CPUスピード
頭の回転が良いとか悪いとか、そういうやつ。
身の回りにもカミソリタイプの同僚とかいませんか。とにかくハードウェアとしての性能が良さそうな人。僕はここには自信がないのでそういう人を見ると羨ましい。たぶんこの性能は生まれつきの部分が大きくて、努力ではどうにもならなさそう。

ただし、人間はパソコンと違ってスペックが明示されている訳ではないので、実は下記の4)とか5)が優れている人も、他人からは持って生まれたCPUの差に見えることもありそう。
例えば、九九が知られてない世界で「7*6=42」をさっと言ったらすごいCPUだと誤解されるだろう。単に暗記しているだけなのに。意外とCPUスピードが速い、遅いって分からないものな気がする。本人にも。

★頭の良さ2)メモリ容量
断片的なことの短期的な記憶力。
これがすごい人は、いろんな数字や人名や状況が常に頭に入っている。売上聞いたら前年同月よりいくら下がったとか、すぐに言える。これこそは生まれつきの能力(と関心の多少)では?

僕はこれが壊滅しているので、凄い人に嫉妬すらしない。別の世界の人。
ちなみに、メモリ容量が少なくても複数の仕事を並行でやっているので、誰かの相談に乗る時には毎回、「で、どういう状況だっけ?」と話してもらうことから始める。大昔のパソコンって最初にフロッピーディスクからアプリをメモリに読み込みしてましたよね。あれです。

★頭の良さ3)ハードディスク容量
長期的な記憶力。断片的というよりエピソードを記憶する力。
同窓会で、何組の誰が先生に怒られたとか。琵琶法師が平家物語を暗唱してたとか。
基本的に仕事では文書に記録を取るので(外付けハードディスク)、あまり現代では役に立たないかな?僕は本やブログを書く時に大昔のエピソードを紹介するので、その時だけ使う。

★頭の良さ4)使いやすいOS
さて、この記事で語りたいのはコレですね。
・記憶を取り出しやすいように整理して格納する方法
・問題に取り組むときの考える順番付けがうまい
・複数の一見無関係な物事を結びつける
みたいな能力のことです。
ハードウェアを使いこなすのがうまいか下手か。

これはたぶん、「抽象的な概念を扱う能力」と深く関係している。
例えばあるプロジェクト事例を聞いて「ふーん」と思うだけの人と、#会計制度の変更事例、#業務集約事例、#抵抗勢力、、などとタグをつけて脳味噌にしまう人とでは、次に必要なときの記憶の使いやすさが全然違う。
記憶を取り出しやすいと、後に使う時になって「そういえば、以前事例を聞いたことがあるな」と結びつけて思い出しやすくなる。
でも、「具体的な事例を聞いて、様々なタグを付ける」って、抽象概念を扱い慣れていないとできない。タグ自体が抽象概念だから。

他にも、「#業務集約 は業務改革の一手段だから、これは当然 #業務改革事例 でもあって、、」みたいに、概念が構造された棚が出来ていれば、しまう手間もかからないし、取り出しやすい。

さて、良いOSはどうすれば手に入るのか?
これをいうと100%やな顔されるのだが、僕は学校での勉強、大学での学問だと思う。

例えば、生物でリンネの分類学ってやりましたよね。ウシが哺乳綱鯨偶蹄目ウシ科ウシ亜科に属してるとか。
これなんかは鯨偶蹄目を暗記することには、ほとんどの人には意味がない。実際今もWikipediaで調べたし、そもそも僕は「偶蹄目」だと思っていた(クジラ目と統合されたらしい)。

だが、
・たくさんの物事を整理分類する方法があること
・その場合、「科=>目=> 綱」みたいな階層構造が鍵になること
・分類も見た目ではなく解剖学的な何らかの基準があること(牛と鯨が一緒のカテゴリ??)
・同じ分類に属す種は同じ性質を共有しているので研究に便利なこと
などを、この話からぼんやりとでも学ぶことができる。抽象的な概念を扱う訓練って、こうやって地道に積んできたんだと思うんですよ。誰でも。

大学での学問では、さらに具体的なことの暗記からは離れ、概念を操作することを集中的に学ぶ。(これを書き出すと長くてキモくなるので割愛)。
こういう勉強を経ずして、「サルでもわかる!ロジカルシンキング!!」みたいな本を読んで「階層構造」「分類」「概念に名前をつける」「演繹と帰納」みたいなことを知っても、中々実戦で使える能力にはならないんじゃないかなぁ。

ともあれ、ほんと勉強とか学問って仕事に役立つよね。

で、本題に戻る。
OSレベルの頭の良さ、つまり物事を概念的に捉えるコツ、あるいは考えるスキルの高さというのは、メモリやCPUほどは先天的なハードウェアスペックではないと思う。
一方で、良いOSへと鍛えるためには、最低でも小中高大の16年間かかる。さらにその後社会人になってからも鍛える道は続く。
それを、思い立ってから1年2年でなんとかしようというのは、さすがに無理があるんじゃないだろうか。
身もふたもないので、普段は会社でもこんな話しないけど。

さて、16年間の修行をさぼり気味で来てしまった、かと言って今から本を読みまくって追いつくこともしたくない、それでも楽に仕事がしたい虫の良い人は多いだろう。どうすればいいのか?

それは、
★頭の良さ5)役に立つアプリ
とでもいうべきものを頭にインストールするしかないでしょうね。

例えば英語翻訳アプリが役立つように、英語が話せれば仕事でもちろん役に立つ。会計伝票の切り方を知ってたら、知らない人に教えられる。このようにして、OSレベルで勝負しない人生もあるだろう。

もう一つの道は、特定の仕事における方法論を学ぶことだ。例えば僕がやっている企業の変革プロジェクトはなかなかノウハウを言語化しにくい仕事だが、それでも方法論はある。パソコンに例えるならば、Excelみたいな汎用アプリをインストールするのに近い。


方法論とは「いつ、何をすれば良いのかが示されているガイドライン」のことなので、身につけている人は確実に頭が良く見える。九九を暗記しているのと同じ様に、難しい問題解決を知識で対応できるから。
さらにはリーダーシップがあるようにも見える。性格は変えにくいが、方法論を学べばリーダーっぽく振る舞えるようになる。何しろ次に何をするべきか、示せるから。

僕の同僚の中には脳味噌スペックの差を感じている人もいると思うけど、たぶんそうではない(ちなみに僕は数年前に受けた知能テストですげぇ低かった。CPUとメモリはジャンク品なのだ)。そうではなく、方法論の習得の差なのですよ。

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方法論については過去にブログにも書いた↓

日本は方法論後進国。あるいは「串打ち3年」のアホさ

会社独自のカルチャーや方法論をベースとしないとリーダーは育てられない、あるいはそこから逃げなかったら本が分厚くなりました、という話。

また、今日「OSの良さ」という形で書いた能力は、この本の最後の章で「コンセプチャルスキル」と言っているものと同じである。関心のある人はどうぞ。
「リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書」

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