オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

スーツと昼休み、あるいは知的労働者が働くべきでない会社の見分け方

»

こないだ高級住宅街に住んでいる人から「保育園の送迎パパが誰もスーツを着ていないんですよ」という話を聞いて、「なんか、時代はそこまで来たか-」と感慨深かった。スーツに込められていた意味が変化したのだ。

スーツではなくスエットとかで高級住宅街の保育園にくるパパさんたちは、ちゃんとした仕事をしていないのか?いや、たぶん逆だろう。働く時間か、服装か、場所を他人に決められてない人々なのだ。

子供を保育園に送った後に、のんびりと着替えてから仕事に行く人か、
保育園から職場に直行するけど、服装がなんでもいい会社なのか、
家で仕事しているから終日スエットで過ごしているか。

スーツは100年以上前から、「チキンとした知的労働者のしるし」だった。工員でもお百姓さんでも八百屋さんでもなく、大企業や役場ではたらく人、というしるし。
小津安二郎の映画を見ると、戦後も引き続き、主人公(商社マンだったりする)はきちんとしたスーツを着ている。

イギリスと違って日本は高温多湿なので、スーツを着る機能面でのメリットはまったくない。スーツを着ると知的パフォーマンスが向上することは絶対にありえない。それでも皆がきっちりとスーツを着ていたのは、きちんとした知的労働者であることをアピールした方が仕事がしやすかったからだ。
そういう意味では、ヤクザがパンチパーマ+金のネックレス+胸元が開いたシャツ+セカンドバッグというお決まりのファッションをしているのとまったく同じ。自分の趣味や着心地よりも「職業上、相手からどう見られたいか」を優先している訳ですね。

それからずいぶんたった現在、機能性ゼロを承知でスーツ着て「きちんとアピール」が必要なのは、能力を示しにくい職業だけだ。
例えばスティーブ・ジョブズがタートルネックを着ているから、ザッカーバーグがパーカーを着ているから、彼らをビジネスの相手とみなさない人はいない。服ではなく、彼らの業績や言動や製品が彼らの能力や価値を雄弁に語っているからだ。

それと違って、普通のジャパニーズサラリーマンは自分の能力をぱっと示しにくい。だから「最低限ちゃんとした人なので、ビジネスで相手にしてね」という意味で、スーツを着る。いくら暑くても。いくら生産性を落としても、相手にされないよりはマシだ。
そういう意味で、営業をやっている人たちは、初対面でドン引きされないために「きちんとした人ですよアピール」が必要だし、今の日本ではスーツを着るのは仕方ないのかもしれない。

逆に言えば、内勤で社内の人としか会わないのにスーツを着ないといけないケースは、相当おかしい。例えばビルの中で日がな一日システムを作るような仕事をしているのに、全員スーツを着ている会社もある。そういう会社って、生産性よりも大事なものがあるのだろう。「僕はきちんとした人ですよ、と同じ会社の人にも絶えずアピールが必要な組織」なのだろう。初対面が大事な営業と違って、きちんとした仕事をするかどうかなんて1週間働けば分かるのにね。

もっとも最近は温暖化対策で、「役所がノーネクタイを奨励」⇒「会社がノーネクタイを奨励」⇒「会社からの通達を受けて一斉にネクタイをはずす社員」みたいなことが起こるので、服装がラフだから自由なカルチャーという訳ではないけど。逆は必ずしも真ならず。


似た話として、「お昼休みは12:00と決まってるか?」というのもある。
知的労働者にとって、脳味噌のパフォーマンスを最大化するための自己管理は重要な仕事だ。夜更かしをしないというのはもちろん、1日のなかで調子が良い時に集中して仕事をして、煮詰まったら息抜きをする。

僕の場合、独身の頃は朝10時に会社で朝飯を食べていたので、結果として昼飯は14時か15時だった。12時から14時は最も生産性が高いゴールデンタイム。お腹が減っていないのにランチに行くなんてとんでもない。逆に、お店が混む前の11:30ごろにサクッと食べてゆっくり休むのが好き、という人もいるだろう。
どちらにせよ、自分の生産性が一番高くなるように、それぞれが工夫するのが当然だ。

もちろん仕事は一人でやるとは限らないので、1時から打ち合わせがあったらそれが優先される。でも僕はなるべく午後の打ち合わせは2時以降にしている。個々人の自由度を高めるために。


さて、なぜ一斉に昼休みを取るルールが一般的なのだろうか?
一つは工場の延長/なごりだろう。工場はベルトコンベアが動いているので、一斉に止めて休む必要がある。そのルールがそのままホワイトカラーの職場にも持ち込まれている。
もう一つの理由は、サボりを監視しやすいからだろう。ある部下は11:30から別の部下は14:30から休むと、サボりを判断しにくい。13:00に席にいなければサボり確定、というのに比べれば。

いずれにしても、知的労働者が最大のパフォーマンスを発揮できるか?は配慮されていない。
パフォーマンスの最大化にはあまり価値がないビジネスなのか、価値はあるはずだが古いルールを変えられないカルチャーなのか・・。
もちろん、「昼にどれだけ休もうが、成果だしてくれるならOK」という成果主義とも無縁だ。


だから、これから就活する人にアドバイスしたい。
1)内勤なのにスーツ着てる会社は、社内でのまともですアピールが機能性より大事な会社。
2)昼休みの時刻を選べない会社は、脳味噌パフォーマンスの最大化には関心がない会社。
かもよ。


*********おまけ

「チキンとした知的労働者のしるし」となっていて、もちろん「キチンとした」の誤りなんですけど、この誤記が発生したルートをたどると、
1)iPhoneでツイッターに「キチンとした」と入力
2)今のバージョンのiOSは誤入力補正機能が強すぎて、勝手に「チキンと」に変換
3)自分のツイートを膨らませてこの記事を書いたので、コピペした誤記がそのままイキに
こんな感じでした。僕の場合、誤入力補正機能が強化されてから、iPhoneでの誤入力がすごく増えました。勝手に入力内容変えてきやがる・・。」

面白いからこのままにしておきます。気づく人少ないと思うし。

Comment(0)