オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

頂き女子リリちゃんのカチューシャ、あるいは仕事における踏み込み

»

頂き女子リリちゃんなる人物が書いたマニュアルがよく書けている。
疑似恋愛しているおじさん(彼女の言葉でいうと"おぢ")にカネを貢がせるノウハウを詳細に説明したマニュアルだ。
Twitterでは多くのおっさんがマニュアルの分析や感想を投稿していた。そろそろ落ち着いた頃だと思うが、僕が一番大事だと思う箇所に誰も触れていなかったので、そこに絞って解説しよう。

未来形色恋会話

「この女の子は今はなぜか付き合ってくれているけど、どうせいつかいなくなる・・」と不安を抱える"おぢ"に対して、未来の妄想を話してあげることで、おぢの不安を取り除き、結果としてお金を頂く障壁を取り除くための会話。
リリちゃんは
・「ディズニーいきたいな...」
だけでなく
・「カチューシャもつけようよ。おぢ絶対似合う笑。私シェリーメイのやつがいいな、おぢはダッフィかな?笑」
・「これこれ❢(写真)このカチューシャ♡」
まで踏み込んで話すこと、とマニュアルに具体的に記載している。


(そんなに長くないので、実物を読みたい人は検索してみてください。すぐに出てきます)
どうだろうか。
これは僕が常に同僚に対して不満に思う、「やってはいるんだけど、踏み込みが足らん!ここまでやれ」という話だ。

年下の交際相手?に「ディズニー行きたいな」なんて言われても、リップサービスであることは、流石にわかる。その場だけの戯れ言として言っているのだろうな・・と思って聞き流すのが、普通の大人だろう。
だからリリちゃんはもっと踏み込め、と言う。
リリちゃんに想像力を補填してもらうことで、"おぢ"は
・年甲斐もなくカチューシャを付けている自分
・リリちゃんにからかわれ、照れる自分
・でも結構楽しいと思っている自分
・そろってカチューシャをつけて歩く自分とリリちゃん
を想像する。未来を妄想体験するというか。

そして「この娘と付き合うことで、いままでとは違う自分になれるのかも・・」なんてことまで、ぼんやりと考えちゃったりもする。。。(言葉にしなくとも)。
おじさんは悲しい生き物なのだ。僕もおじさんだから分かる。

リリちゃんのマニュアルを読んだ人がみな、「普通に仕事していたらすごく仕事できる人なんでは?」と言っている理由が、この部分だけでも十分伝わったのではないだろうか。

みんな仕事で将来の話をする際、「ディズニー行きたいな」までは言うんですよ。言ったほうがいい、と先輩から言われていたり、本に書いてあるから。そして一丁前に「ちゃんと言ってますよ」とか言う。
でもリリちゃんが言うように、それでは全然足りない。カチューシャまで話さないとダメだ。目的は達成できない。ほとんどの人は想像力が少ないので、このレベルで補わなければならない。
ここまでやれているビジネスパーソンが、どんだけイマスカ?という話。


ここまでの話をFacebookになぐり書きしていたのだが、数日たって、改めてブログで力説したほうがいい、と思うようになった出来事も紹介しておこう。

・プロジェクトをどう立ち上げるか?
・最初の2ヶ月でどんなテーマを検討するか?
・プロジェクトにどんな人が参加するか?
という議論をお客さんとした後、僕は同僚にリリちゃんマニュアルのこのパートを読ませ、「カチューシャまで言えていたか?」という話をした。

プロジェクトの計画を立てる時にはみんな、「プロジェクトが始まったら、こういう資料を作って、こういう検討をしていきましょう」みたいな話をプレゼンする。でもそれだけだと「ディズニーランド行きたいね」止まりだ。
「この資料を作って議論すると、〇〇みたいな議論が出たりします。悩ましいですね。でもそれこそ、このプロジェクトで何を目指すか?という本質的な議論なので、逃げるべきじゃないと思うんですよ。例えば前にやったプロジェクトでは、そういう時にこんな図を書いて、小一時間、ああでもないこうでもないと議論しました。お陰で・・」
みたいなことを、僕は結構話す。(だから白川さんは話が長いと同僚から怒られる)
でも、これこそがカチューシャなのだ。

カチューシャを話すことで、
「ああ、変革プロジェクトって、そうやって進んでいくんだ」
とか
「こうやって本質に迫っていくんだな。前のプロジェクトは、そういう議論を避けてしまったから空中分解したんだな」
とか
「こういう議論をするんだったら、やはり〇〇さんにもプロジェクトにガッチリ参加してもらわないとな。」
みたいなことまでお客さんは考えてくれる。(全員じゃないと思うけど)

たいていのお客さんにとって、大規模なプロジェクトは初めての体験だ。だからこの先何が起こるかについて、想像力がおよびにくい。だから僕らがカチューシャを補うのだ。
そうやって良いプロジェクトを作る土台ができていく。


僕がこの話をブログに書いたのは、今後の仕事で似たシチュエーションになった時に、同僚に1から説明するのが面倒だからだ。
これを読んだケンブリッジ社員は僕が「カチューシャまで踏み込んでる?」と言ったら、ああこれのことだな、と思ってください。
そして何がディズニーランドで、何がカチューシャなのか、改めて考えてみて欲しい。

改めて思う。
我が社の9割の人間はリリちゃんよりコミュニケーション能力が低い。
そして僕自身は、彼女よりもマニュアル作成能力が低い。これまで何冊も教科書を書いたのに。
結構敗北感がある。

Comment(0)