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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

研修メニューが充実しているからって人材育成に熱心だと思わない方がいい、あるいはコアスキルを鍛えるために一番有効な施策

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SI業界の入社2年目の人に「なんでこの会社入ったんですか?」と聞いてみたら「トレーニングが充実しているって聞いたんで」と返ってきた。

いいか、若いの。
トレーニングが充実している会社に入ったからって、成長できるとは全然限らぬのだよ。
それどころか、その会社が人を育ている事に真剣に取り組んでいることすら、意味しないのだ。


・・とは言いませんでしたけど。そんなこと今更言ってもしょうがないし。
でも、本当の事だ。うちの会社はトレーニングはもちろん、人を育ているための仕掛けがたくさんある。その中の幾つかは僕自身が整備した。
でも、そういうルールや制度をいくら作っても、人が育たない組織もある。


色々試行錯誤しているなかで、人が育つために大切な要素Best3は以下だと思う。

1)キャリアは自己責任、という姿勢
2)育成できないPMはかっこ悪い、という価値観
3)2年ルール

1つ目については、前に書いた。

「なぜ「キャリアは自己責任」なのか?あるいは主体性とリーダシップの話 
今日はそれ以外について。




★育成できないPMはかっこ悪い
どんなにルールを作っても、制度を作っても、魂が入っていなければ意味がない。
育成とか成長ってとても微妙で、細部に神が宿る話だから。
そしてやっぱり、現場に任せる部分が大きい。

「かっこ悪い」というのは、損得ではなく、美意識・価値観だ。逆に、Aさんに人参をぶら下げ、Bさんを育てさせることはできない。なぜかは分からないが、そういうものだ。

当たり前のように、「この人がより成長するために、俺は何が出来るだろうか?」と考える。
そして、日々の仕事の中で、育成の優先順位を上げる。正解は分からないから、色々やってみる。そういう環境の中で、人は育っていくものだ。




★2年ルール
これは「1つの仕事を2年以上続けてはならない」というルールのことだ。プロジェクトスタイルで仕事をしているので、1つの仕事は短ければ1ヶ月、長ければ数年に渡る。お客さんの経営企画、IT企画を長く担わせてもらっているケースではもっと長くなる。

でもどちらにせよ、ひとつの仕事に何年も社員を塩漬けしてはならない。
同じお客さん、同じ業務、同じシステムに長くいると、他の事ができなくなってしまう。そこでしか働けない人になってしまう。特に「その会社特有の意思決定の癖」にどっぷり使ってしまうのが致命的。

とは言え、そこのお客さんからは望まれる人でもある。その会社の業務について把握しているし、個人的な能力も信頼してくれている。
そういう状況でコンサルタントをローテーションさせてもらうので、会社として大きなコスト負担しながら引き継ぎすることになる。例えば、プロジェクトから抜ける人と替りの人を月単位で一緒に働かせ、お代は一人分しかいただかないなど。




★2年ルールがもたらすもの
そもそも、コンサルティングとしてはやや異例なのだが、ウチの会社は個々のコンサルタントが担当する業務領域や業界を絞っていない。他の会社であれば「お前は自動車会社」「お前は人事領域」と決め打ちする所を、「何でもやってね」と言う。
例えば、僕個人でいうと、こんな感じ。

 


Photo

「何でもやるから、何でも出来るようになる」と言いたい所だけど、中々そうもいかない。毎回かなりシンドイ。でもコアスキルがある程度あれば、何とかなる。だって元々その会社の業務自体はそのお客さんが一番詳しいんだから、聞けばいい訳で。

(これについては昔記事に書いた) 
もちろん、業務知識、業界特有の知識以外の何かを、お客さんにはプレゼントしないといけないんだけど。



こういうポリシーの元で色々な仕事をしていると、色々な仕事を無理やり覚える様になる。それを足がかりに、何とか仕事を続ける。
だが、色々な業界の知識が身につくということよりもずっと大切なことがある事に、最新気づいた。


ローテーションしていると、コアスキルが鍛えられる。


どういうことか。
例えば、僕は人事領域の業務改革の仕事をよくやる。こういった何度も経験している領域だと、これまでの蓄積だけでも、プロジェクトをリードすることが出来る。適切なタイミングで他社事例を紹介したりすれば、お客さんは喜んでくれる。貢献はできるのだが、個人的には、言葉が悪いけれども「誤魔化しが効いてしまう」のだ。

だが、あまり経験がない領域のプロジェクトだと、誤魔化しが効かない。
・ヒアリングのスキル
・ビジネスの構造を読み取る力
・ヤヤコシイ話をファシリテーションする力
・あるべき姿を構想する力
みたいなコアスキルがショボイと、それが露わになってしまうのだ。コアスキルしか頼るものがないから。

だから、必死になって背伸びするし、そうするとショボかったコアスキルも少しづつ強化される。足りない事を自覚している訳だし。
こういうシンドイ環境こそが、人を育てる。
「ローテーションしていると、個別業務の知識だけでなく、コアスキルが鍛えられる」というのは、そういう意味だ。


企業の情報システム部門と、IT人材の育成についてちょくちょく議論する。毎回、
「ウチにはプロジェクトをリードできる人材がいなくて」
「コミュニケーション能力が」
「新しい事への取り組み方が分かっていない」
という愚痴が出る。

でも、入社以来10年おんなじシステムのメンテを担当していたら、新しい事に取り組むことなんて出来るようにならないよね。「新しい事を速やかに学ぶコアスキル」「新しい事に取り組むコアスキル」が鍛えられないから。


そういうスキルを鍛えるために、多少効率が悪くなっても、今のシステムの安定稼動に不安があっても、ローテーションに組織としてチャレンジするしかない。
他に方法はないと思いますけど。




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本についてのアレコレ
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皆さん、ビブリオバトルってご存じですか?
一人1冊、おすすめの本を持ち寄り、5分くらいで本をプレゼンする遊び?です。
本の選球眼も大事ですし、他の人が読みたくなるようなトークを鍛える訓練にもなるでしょう。ウチの会社でもたまにやっている人がいます。


先日、東京駅近くの八重洲ブックセンターで第1回ビブリオバトルが開かれたらしいのですが、その優勝者が推薦していたのが、なんと僕と関さんが書いた「反常識の業務改革ドキュメント」でした!パチパチパチ。


プレゼンをしてくれたFさんという方は僕らも見も知らぬ方で、
「古河電工という、まあ言ってみればそれほど大したことがない会社と、ケンブリッジというよく知らないコンサルティング会社が・・」と率直に話していますが、それでも、なぜいい本なのか、と僕らの本について熱く語ってくれている姿は、感動的ですらあります。
Fさん、ありがとうございました。本当はお会いしてお礼を言いたいくらいです。


ユーチューブにプレゼンの様子がアップされていましたので、御覧ください。質疑応答込みで6分くらいです。

チャンプ本はこちら↓
「反常識の業務改革ドキュメント」

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