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変革に必要な野蛮さ、あるいは鈍感力

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★お客さんはとても優秀
いつもプロジェクトをやりながら思うのだが、僕らのクライアントさん達はとても優秀な方々である。クレバーで、業務をよく把握していて、キッチリと理詰めで考える方がほとんど。

だが、ある意味非常に失礼な言い方なのだが、その優秀さが無駄というか、アダとなっているケースがあるように思う。3つほど挙げてみよう。

★1)あり得ない状況のあり得る化
お客さんのお仕事についてヒアリングするとたまに、「そんな複雑なことやってるんですか?ひええ・・」という事がある。
例えば先日は「組織新設エキスパート」の方にお会いした。大企業なので、新しく部や事業部が作られたり統合されることはよくある。
組織はあらゆる業務やシステムのベース情報だから、当然組織マスターに登録するのだが、それが色々な事情で凄く難しいのだ。30分くらいノウハウを伺っての僕の感想は
「一つ一つのルールは把握できませんでしたが、とても繊細で難しいお仕事だという事だけは、分かりました・・」
というものだった。

やりたいことは新組織をシステムに登録する、言ってしまえばただそれだけである。それがこんなに複雑なのは「あり得ない」。だが、その方の優秀さがそれを可能にしてしまっている。
可能にしなければ日々のお仕事が回らないのだから、素晴らしいことなのだが、一方で、「おかしいシステムを、効率が悪いのに使い続けている」という本質的な問題が隠蔽されてしまっている。

★2)緻密すぎる制度設計
企画部門の方にお話を伺った時のこと。
「この制度、私が去年設計したんですよ」と言って見せていただいたのが、大きな表と判断分岐のチャート。
ある業務をこなす際に、様々なケースがあり得るので、場合ごとに緻密な対応方法を書いた、大作チャートだった。

やはり僕の感想は「スゴイ!・・でもこれって、営業マンのほとんどは使いこなせないですよ?」だった。
企画した方が熟考した末のチャートだから、正しいか正しくないかで言えば正しいのだが、運用を考えると妥当ではない・・。
これも、クレバーさがアダとなったケースだと思う。

★3)「それはこういう理由で上手くいきません」
現状を良く理解され、なんとか運用されている方は、何かを変える時のリスクが良く見通せる。その知見はプロジェクトにとって決定的に重要でもあるのだが、新しいことにチャレンジをする際にブレーキになりすぎることもある。

そのご意見は貴重だし、多分正しいのだと思う。でも、現状はもっとヒドイことになっていて、変えなければならないのも確か。結果的に、現状維持に落ち着く。長期的に見れば行き止まりだったとしても。
もちろん変えたら今よりひどくなることもある。
だが、全てのアイディアに、片っ端からフタをしても始まらない。

★野蛮さ、あるいは鈍感力

・色々あるのは分かるけど、結果としてこの状態は容認できない
・そう簡単にいかないのは分かるけど、最終的にはこうやるのが一番いいハズ

という感覚、分かりますかね。
ブルドーザーみたいに、細かいことはなぎ倒し、本質的なことだけに真っ直ぐ進む。僕が「野蛮さ」と呼んでいるのはこのマインド。細かいことは無視して、大づかみで捉えた構造からモノを考えるというか。

「トップが変革を主導するのと、ミドルアップと、どちらがいいか?」は、一概には言えない。
が、トップが変革を主導することのメリットは「現場の事情を無視して野蛮に断行できる」という点だ。大胆な変革をやりやすい。何しろ現場の実情が分からないから、結果として大掴みの施策になっていくから。
逆に、ミドルが主導すると、変革と言うよりは改善になりやすい。目が届きすぎてしまうのだ。

★「全部やらなきゃ負けるから、全部やる」
だが、僕らとプロジェクトを共にした、非常に優れたリーダーはミドルであってもこの感覚を持っている。
(同時に緻密さも持ち合わせている方も多い。凄いです)
例を挙げよう

以前「業務切り替えの山崩し、あるいはプロジェクトを段階稼動させる理由」
という回で、何かを変えるときには、リスクをならすために段階的にやろう、という話を書いた。
だが、あるプロジェクトリーダーから、段階切り替えに大反対されたことがある。

「今度のプロジェクトは、受注から販売、顧客対応まで、会社としてのキャパシティを引き上げる事に意味がある。どれか一つを後回しにしたら、そこがボトルネックになって、結局会社としてのキャパは上がらない。そんなんじゃ勝てないんだよ!」

冷静に分析すれば、何もかもをいっぺんに立ち上げる企業体力なんて全然ないのだ。でも、彼はリーダーとしていっぺんに立ち上げることに、最後までこだわった。
議論の末、僕らも最後には折れて一気に立ち上げるプロジェクトプランにチャレンジしたのだが、本当にしんどかった。
業務ルールを変えながら、新システムを立ち上げ、さらにアウトソースの委託先を変更したのだから。
けれども、ついにやり遂げた結果、得られた成果は素晴らしいものだった。その方も後々、
「あのプロジェクトは、私の仕事人生の中でも金字塔でした」
と語ってくれた。

「何としても、会社のキャパシティを引き上げる」というビジョンを前にしては「リスクを減らすために段階稼動」という、僕らのプロとしての知見などは、小賢しい浅知恵くらいに思えてくる。
ヴィジョンが熱意を産み、熱意が不可能を可能にしたのだから。

まあ、全部のプロジェクトがこうはいかないけどね。



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