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ARMの一番の良いところは省電力ではない

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ARM版Windowsの開発が発表されました。Windows 8で登場のようです。ARM関係のエントリは2010年にいくつか書いていますが、ARMの一番のいいところは省電力ではなく、製造メーカが多いところだと私は考えています。

ARMはライセンスを販売し、半導体設計・製造メーカが製造して販売もしくは使用しています。このためARM系CPUを製造しているメーカは、x86のメーカよりも多くいます。

例えば、QualcommのSnapdragon、NVIDIAのTegraシリーズ、Freescaleのi.MXシリーズ、AppleのA4、TIのOMAP、MarvellのArmadaあたりが有名でしょう。

製造メーカが多くても性能はどうでしょうか?

デュアルコア&2.0GHzのARM Cortex-A9は、10,000 DMIPSです。この数字は、Atom N550(デュアルコア&1.50GHz)で7,420 DMIPSであること考えると決して低い数字ではありません。

ただし、2GHzで動作するARM Cortex-A9は、2011年1月の時点ではみかけません。現時点で最も高性能だと思われるTegra 2はデュアルコア&1.0GHzのARM Cortex-A9は、5,000 DMIPSです。

将来登場するCortex-A15の性能は明確に出ていませんが、"3年後のプロセッサをアームが公開、8コア品でサーバ用途も狙う"を見るかぎり、デュアルコア&1.0GHzのARM Cortex-A9の3倍程度を2013年に実現されそうです。この数字は、普通に使うかぎりは十分な数字だと思われます。

また、NVIDIAがProject Denverで、ARMのCPUの開発することをアナウンスしました。NVIDIAは、以前からGPUを有効活用するためのCPUを欲していました。ですが、x86はライセンス問題があり作ることは容易ではありません。

ARMはライセンス契約を行うことで製造もできますし、独自の盛り込みも可能です(SnapdragonXScaleが有名)。

Cortex-A15は8コア以上を搭載することが可能ですし、メモリも1TBまで接続が可能なためARM製造メーカが市場を創設できると思われる構成のCPUを製造可能になります。

例えば、NVIDIAのGPUはスパコン市場に存在感が増していますが、FermiにARMチップと必要最低限のNICを搭載した製品を出したらどうなるでしょうか。現在GPUスパコンはGPUを操作するためにx86を使用しています(計算自体にも使っていますが)が、それが不要になることとCPU-GPU間の無駄なコストが減り、効率が上がる可能性があります。

他にもARMの小さいチップをOracleのUltraSPARC-TシリーズやIntelのKnights Ferryの様に多コアを搭載した製品も面白かも知れません。

ARMならば契約次第でユニークな製品が出てくる可能性があります。ですが、今まではチャレンジするには相当な勇気が必要でした。なぜならば、市場自体が存在していないためです。

その大きな問題が、ARM版Windowsの登場で多少なりとも解決します。大規模なGPUを搭載したARMチップを製造してスパコンメーカは買ってくれなくても、ARM版Windowsがあれば低コストのゲームPCとしては売れる可能性があります。サーバ向け多コアのARMチップがサーバ市場に受け入れられなくても、小規模版をデスクトップPCで活用があるかも知れませんし、シンクライアントの親玉サーバとして転用できるかも知れません。

ARM版Windows登場によるリスク軽減で、ARM製造メーカは多様性を見出すことができると思われます。

ARM版Windowsの登場で一番気になるのは、過去の非x86版Windows NTの失敗です。

Windows NTが当時最速のAlphaでも動くことをアピールしたときは、Alphaは一定のシェアをとるのかと思っていましたが、まったくその気配がなく退場しました。失敗した要因は、アプリの不足と変換ソフトの質が悪かったことです。

ですがこの問題はNET Frameworkがあるためそれほど気にする必要がないと思われます。Xbox 360(POWER系)とPC(x86)でアーキテクチャが違う環境でも動作しているため、x86とARMの両方で動作させることができる環境を作ることはMicrosoftとしてはそれほど厄介な障害でもないでしょう。

このため、ARM版Windowsの普及を阻止する問題は、ARM製造メーカ、ソフトメーカ、Microsoft側にはありません。多様性なCPUを製造できるARMはARM版Windowsの登場で製造数が飛躍的に伸びると思われます。

さて、ARM版Windowsが普及すると一番困るのはIntelでしょう(AMDもかも知れませんが...)。あのパラノイアであるIntelが"ARM版Windowsは普及せず、x86安泰"と予想するとは到底思えません。それこそ、最大級ライバル登場と思って攻撃的な行動としてARMの本城に押し入るような対応をするはずです。

また、Intelを本気にさせる要因としてARM製造メーカにSamsungとNVIDIAが連なっていることです。前者は半導体売り上げのNo.2のメーカで以前から敵視しているライバルですし、後者はスパコン市場でIntelの牙城を切り取っている憎いライバルです。競争力の塊の様なIntelが、この状況を座視するとは到底思えません。それこそ以前、AMDに見せた様な攻勢をかけるのではないでしょうか。

このため、ARM版Windowsの登場でスマートフォンからサーバまでのCPUアーキテクチャは大きく動きそうで、面白い時代がきたかも知れません。やっぱり寡占化よりも競争が激化するほど混沌とした状況のほうが面白いですよね。

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