オルタナティブ・ブログ > 教育ICT研究室 >

グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

【4週連続短期集中シリーズ 4】端末を用いた、学校におけるプログラミング教育について

»

情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。今回は「GIGAスクール端末を用いたプログラミング教育はどのようになっているのか」についてお聞きします。

【望月先生 プロフィール】

大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。

望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/

●GIGAスクール端末の活用について

―2018年に「micro:bitプログラミングとこれからのプログラミング教育」について望月先生にお話を伺っています。今回プログラミング教育の現状についてアンケート調査をされたとのことで、2018年当時と現在の「GIGAスクール端末を用いたプログラミング教育」の状況を比較することで、プログラミング教育についてさらに深く考えられればと思います。

当時(2018年7月)にお話を伺った際、望月先生から以下のお話を伺いました。

○プログラミング教育の位置づけ
 ・プログラミング教育は、情報教育の一部である。

 ・教育の情報化は、
  ・教科におけるICTの活用
  ・公務におけるICTの活用
  ・情報教育
  の3つである。

 ・プログラミング教育は、すべての教科等で行う。
  (算数・理科という特定の教科だけで行うのではない)

 ・すでにある情報教育の年間計画の一部をプログラミング教育にあてるとよい。

○プログラミング的思考については、
 ・論理的思考
 ・Computational Thinking
 ・有識者会議「論理のとりまとめ」
 ・小学校学習指導要領総則
 を参照するとよい。

○プログラミング教育を行うために必要なものとは、
 ・文部科学省「小学校プログラミング教育の手引き」
 ・教科書
 ・教科の指導案例
 ・ICT機器
 ・サンプルプログラミング集などの資料

○プログラミング教育における評価とは、
 ・教科における評価であって、プログラミングの評価ではない。
 (プログラミングはひとつの活動)
 ・教科の目標に照らして評価を行う。

参照記事:micro:bit プログラミングとこれからのプログラミング教育(第1回)
https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2018/07/microbit.html

2018年当時は、小学校で 2020 年からプログラミング教育が必修になることを踏まえて、望月先生はmicro:bitを用いたプログラミングを使って先生方への啓発に取り組んでいらっしゃいました。今読んでも、先生方の参考になる話であったと思います。

―望月先生が行ったプログラミング教育の現状についてアンケート調査(「GIGAスクール端末の活用を用いたプログラミング教育について2021~22年度」)を見せていただきました。

今回の「どんな『プログラミング教材・プログラミング言語』を扱っているか。(複数回答あり)」という質問に対する回答を見ると、

  • Scratch(スクラッチ)       ・・・73%が使用
  • micro:bit             ・・・39%が使用
  • Visucuit(ビスケット)       ・・・34%が使用
  • 教科書会社提供のプログラミング言語 ・・・24%が使用
  • プログル              ・・・18%が使用

 となっています。

graph5-1.jpg

「どんな『プログラミング教材・プログラミング言語』を扱っているか
(複数回答あり)」(2023年1月)

Scratch(スクラッチ)が一番多く使われており、その次にmicro:bitやViscuit(ビスケット)が学校で多く使われている教材、ということですね。

全体の傾向としてはブロックを活用した言語・ビジュアルプログラミング言語がよく使われていると思います。また、Scratchを使用している学校が過半数を超えているのが印象的です。Scratchが多く使われているのはどうしてでしょうか。

望月先生:以前も同様のアンケートをとっていますが、その時もScrtach(スクラッチ)が一番使われていました。

  • 無料で使用することができる。
  • ブラウザのみでプログラミングするため、OSを問わない
  • ブロックプログラミングなので(コードではない)取り組みやすい

などの理由があると思います。

micro:bitやViscuit(ビスケット)のプログラミングも同じなので、よく使われているのだと思います。micro:bitはビジュアルでプログラミングできますが、ハード(基板)にプログラムを転送して実機として動作させることができるのが特徴です。

-また、今まで私は知らなかったのですが「教科書会社提供のプログラミング言語」も比較的使われていることがわかりました。「教科書会社提供のプログラミング言語」とはどのようなものなのか、教えていただけますか?

望月先生:教科書会社が提供しているプログラミング環境があるのです。その環境を使うと、教科書を見ながらプログラミングできるので教えやすいですよね。

―望月先生は以前から、「micro:bitを活用したプログラミング教育」を広げることに取り組まれていましたね。2018年当時、望月先生が「画面上だけのプログラミングで終わるのではなく、実際の機器(自作プログラムを組み込んだ)を作ることができるので、実際の生活に使えるようなプログラミングを子供たちに考えさせることができると思います。」とお話しくださったのを覚えています。

確かに実生活に役立つプログラミングを身につけることは子供たちにとって大きな学びになると思いました。

今回の望月先生の調査結果を見せていただくと、「子供たちは『プログラミング教育』を通してどんなところが成長していると思いますか」という質問に対して、

  • 「プログラムで機械を制御することへの興味関心」が高まった。
  • 「試行錯誤する学びの楽しさ」を身につけている。

という意見が多く見られました。

micro:bitを使用した場合、実際の機器で動作を行える良い点がある一方、基板を購入する費用がある程度かかってしまうので若干ハードルが高いのではないかと思います。

現在、micro:bitを用いたプログラミング教育の実践は広がっているのでしょうか。

望月先生:私は「micro:bitサンプルプログラミング集」を公開していますが、最近も授業や研修、勉強会などでの資料を使うことについて、許諾を求めるメールをいくつもいただいています。micro:bit活用を進めている先生方は他にもたくさんいらっしゃいますので、どんどん学校で広がっていると思います。

  • micro:bitはブラウザだけでプログラミングできる(シミュレーターで確認)。
  • micro:bitは、他のハード教材より安く、センサー類も内蔵している。

ので、ハード教材としては、比較的一クラス分そろえやすいです。

―安くそろえられて、機能が多いのは、学校としてもありがたいですよね。

―2020年に小学校でのプログラミング教育が必修化されて3年目となっていますが、アンケートに寄せられた意見を見ると、プログラミング教育に取り組むには「業務量が多い。勤務時間内では厳しい」という記述が複数ありました。確かに教育現場の先生方は授業だけでなく様々な業務を抱えていらっしゃり大変ではないかと思います。

graph5-2.jpg

「先生方の『プログラミング教育』への意欲」(2023年1月)

―「先生方の『プログラミング教育』への意欲」についての回答を見ても、まだまだ偏りがあったり、ほとんど研修をしていなかったりする様子がわかります。

以前インタビューさせていただいたときには、多くの先生方が使用している教材だと、実践事例が多いので取り組みやすいのではないかということ、そして

  • 「まねる」→「変える」→「つくる」という3段階を踏んでいくとよい。

ことを、お聞きしました。こういった取り組み方が、先生方に届くとよいなと思いました。

参考記事:「先生方にプログラミング教育へ取り組んでもらうには?
https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2023/04/pmg.html

―最後に、プログラミング教育に限らず、授業や校務に取り組む際、負担を軽減するコツがもしあれば教えてください。

望月先生:「何かをプラスする」というよりも、「何かを置き換える」という意識を持つことだと思います。

授業で子供たちの意見を交換する場面がありますが、以前は、

  • 意見を発表させ、それを先生が黒板に書いていく。

という場面がよく見られました。今は、

  • Google Jamboard やロイロ・ノートなどで、それぞれ子供が意見を直接書き込むことで、すぐに意見を一覧できる。

実践をよく見ます。

これは、端末やオンライン・サービスを追加したのではなく、置き換えた例ですね。

実際、後者のほうが時間短縮になり、限られた授業時間の中でより多くの時間を話し合いなどに使うことができると思います。

―「物事を改善するためには新しいことをしなければならない。だから何かをプラスする必要がある」という思い込みが私にはありましたが、アナログで行っていたことをデジタルに素直に置き換えることはたしかに大切ですね。

―アンケートによる調査結果を通して、色々と教育現場の現状を教えてくださり大変ありがとうございました。4週に渡った短期集中シリーズでしたが、記事を読んでくださった皆様の参考になることを願っています。望月先生、読んでくださった皆様、改めてありがとうございました。

編集履歴:2023.9.11 18:06 「プロックプログラミングなので」を「ブロックプログラミングなので」に修正しました。

Comment(0)