リブート第22回「子供たちが使う『学習者用デジタル教科書』の機能とは」(リブートシリーズ最終回)
教育現場のICT活用について伺いました(2017/06/01初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から2017年まで不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
この春まで中学校で教諭をされておられた望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
元中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経験されています。
前回(リブート第21回目)では、「特別教室を設置するメリット」「ICT機器(プロジェクター・iPad・ノートパソコンなど)を設置する際のコツ」について、望月先生が実際に取り組まれた事例を伺いました。
たとえば、「HDMIケーブルやBluetoothマウスをうまく使うことで、ノートパソコンをCDプレイヤーとしても使える」ようにするなど、「できるだけ使う機器をまとめてしまう(数を減らす)」ことで、授業が進めやすくなるメリットがあったそうです。
その結果として、「特別教室だと専用の設備(理科室では実験器具など)を置くことができるため、時間的な余裕ができ、リフレクションシートによる振り返りもさらに広げることができる」等の改善ができたとのことでした。
今回(第22回目)は教育ICTの原点に立ち返り、
- 学習者用デジタル教科書にあるとよい機能
- 学習者用デジタル教科書に必要な機能
を中心に伺いました。
●前回の補足について
-前回の英語教室におけるICT活用について全国的に反響がありました。読者のみなさまに追加でお話しいただけることがありましたら教えてください。
【参考】
▼リブート第21回 英語教室(English Classroom)の設置とICT活用
http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2018/06/en-ict.html
望月先生:新しい機器(短焦点プロジェクター)をそろえています。スクリーンに提示しやすくする(子供たちの席の間にプロジェクターを置かなくてよい)ための「短焦点プロジェクター」は、参考になると思います。
また、先日のインタビュー記事のリンクを、CONTETでも紹介しました。ポータルに参加している先生はそこで感想をいただけるとありがたいですね。
▼CONTET 教育情報共有ポータルサイト(全国の先生方をつなぐポータルサイト)
https://www.contet.nier.go.jp/
-望月先生、補足とまとめをありがとうございます。CONTET(教育情報共有ポータルサイト)にいろいろな情報があるのですね。
●学習者用デジタル教科書とは
-さて、今回のメインテーマである「学習者用デジタル教科書の機能」についてお話しいただけますか。
望月先生:まず、以下のふたつのデジタル教科書を混同されていたり勘違いして記事を書かれたりする方が多いので整理をします。
・指導者用デジタル教科書・・・指導者が子供たちに提示するための「デジタル教材」。教科書ではない。有償で数万円ほど。PCやタブレットから大型テレビやプロジェクターに投影して使用する。
必要なもの・・・デジタル教科書のライセンスやデータ
インストールするためのPCやタブレット
大型テレビやプロジェクター
(クラウド型であれば、有線・無線LANからインターネット接続環境)
・学習者用デジタル教科書・・・子供たちが「教科書」として使用するもの。これからは紙の教科書(国が買い上げ無償給付)と併用することができるようになった。デジタル教科書は有償(自治体などが負担とされるようである)。個人ごとのPCやタブレットにインストールなどして使用する。
必要なもの・・・デジタル教科書のライセンスやデータ
インストールするためのPCやタブレット(個人ごと)
(クラウド型は、有線・無線LANからインターネット接続環境)
これまでは、学校ごと・自治体ごとに「指導者用デジタル教科書」を購入し授業で使っているものの、すべての学校で使われているわけではなく、どちらかというと少数の学校で使用され改良が進められてきた感じです。
「学習者用デジタル教科書」を使うには、子供たち一人一人の端末が必要なこともあり、全国的に見てもまだ実験・試用段階に近いといえますね。
-確かにこの違いを踏まえてから話を始めないといけませんね。
●紙の教科書の使い方からデジタル教科書を考える
望月先生:デジタル教科書について考えるには、紙の教科書について再度見つめなおしてみなくてはなりません。理科の授業で子供たちがどう使っているかを見ていくと、
・タブレットから大型テレビに提示して大切なところを説明する場面
・・・子供たちは自分の教科書にチェックを入れている。
これは、「手元にあるものを拡大投影する」活用によるものですが、子供たちのリフレクションシートの記述などから見ると、「どのページにチェックを入れたのか」を後で探すのに困っている子供が少数見られることがわかりました
そこで今年度(2017年当時)始めてみたのが、「付箋」を使うポートフォリオです。
・「付箋ポートフォリオ」・・・理科室のグループ机ごとに付箋を配布。どこにチェックしているかわかるようにしたいとき付箋をつける。
最初は私が付箋を配布していましたが、最近(2017年当時)では最初に「付箋配ります」という子供や授業終わりには「持ってきました」という子供が出てくるなど、授業の中で定着したのがわかります。
このように付箋が「紙の教科書の使い方」で有効であれば、付箋機能が将来的に「学習者用デジタル教科書」にもあるとよいということになると思うのです。
-付箋はアナログ(物理的に存在する紙の付箋)だったのですね。デジタル教科書内の付箋のことかと思っていました。
望月先生:リフレクションシートの感想には、
- 太い付箋がよい。書き込みもできるから。
- いろいろな色があるとよい。
- かわいい付箋だとやる気が出そう。
- 紙の付箋よりプラスチックの付箋がよい。紙だとちぎれてしまうことがある。
などがあり、子供たちがいろいろなアイデアを考えてくれました。
ここで付箋の授業での活用を整理すると、
- 教科書画像を拡大して大切なところを示す。
(ポイント1:子供たちの手元にあるものを示すとよい) - 板書はまとめ・構造化するところだけにする。
(ポイント2:考える時間の確保ができる) - 教科書のどこにチェックしたか、付箋をつけさせる。
(ポイント3:付箋を自分でつけることで、見直しできるようになる)
提示(デジタル)、チェック(アナログ)、付箋(アナログ)というハイブリッド活用です。こうして見ていくと、単に「動画を組み込める」とか、「意見を共有できる」とか従来から言われているいかにもデジタルという機能でなく、子供たちが「自分で教科書を活用できる」機能を学習者用デジタル教科書に装備できると思います。
〇子供たちが使いやすい教科書という視点から考える「学習者用デジタル教科書」に必要な機能
・先生が提示するものと自分が持っている教科書画面が「同じ」であること。
・大切なところに「マーキング(線を引いたり、囲んだり)」できること。
・どのページに大切なことを書き込んだか、「付箋をつける」ことができること。
・・・いろいろな色、付箋に書き込み、かわいいキャラクター
これらがあると、紙の教科書と同じように使える「学習者用デジタル教科書」になる(よい意味で)のではないかと思うのです。
-追加の解説をありがとうございます。以前、望月先生にお話を伺いました「教育現場における『提示の工夫』」「板書・教材提示のバランス」とも関連する内容ですね。
---以下以前の記事より(抜粋と望月先生の補足修正)
-iPadを使って、どんなものを見せているのか、教えていただけますか?
望月先生:特別なデジタル教材は使っていませんし、作っていないのです。このあたりがポイントですね。ICTを活用するのに時間がかかるという誤解を受けやすいのは「デジタル教材の作成は大変」というところから来ていることが多いのです。
私は、
・教科書・ワークシートの拡大(そのまま撮影したりした画像)
を主に使っています。以前紹介したEpson iProjection(2017年現在はPanasonic wirelessPJ) というアプリを使えばその場で撮影して拡大・書き込みができるからです。
なぜ教科書の画像を使うかというと、子供たちは現在タブレットやデジタル教科書がないわけですから、特別な教材を準備するよりも、子供たちの手元にあるものを大きく映して教材として使う方が理解の助けになるからです。
授業の感想(リフレクションシート)にもよくこのことを書いてくれますね。
-なるほど。確かに「子供たちの手元にあるものを大きく映して教材として使う」のが、子供たちにとってよいですね。デジタル教科書やアプリ、動画などを映す方がよいのかと思っていました。
望月先生:動画は教科書にはないものですし、単独で映して見せた方がよいと思いますよ。
※以上、https://blogsmt.itmedia.co.jp/kataoka/2017/12/ict.htmlを補足修正
補足いただき、ありがとうございます。以前紹介した子供たちのリフレクションシートでの感想にも、関連するものがありましたね。以下、リストを再掲します。
【子供たちの感想(多い順)】
- 教科書を大きく映して大切なところを示してくれわかりやすかった。【教科書】
- 教科書をズームしてくれたのでわかりやすかった。【拡大】
- 印をつけてくれたことで、後から振り返りやすかった。【振り返り】
- ただ言葉で聴くだけではわかりにくいので、画面があってよかった。【理解】
- 理科室の後ろからでも見やすかった。【見やすさ】
- 図形などで説明してくれたのがよかった。【図示】
- 画面に集中できた。【集中】
- 短時間で説明してくれたのがよかった。【効率化】
- 実験の説明のとき、道具の写真に直接書き込んで説明してもらえたのがよかった。【説明】
- 教科書以外の資料も見やすかった。【資料】
- その場で写真を撮って見せてくれたのがわかりやすかった。【撮影】
- 教科書・ノートに記録しやすかった。【記録】
- 苦手なグラフが、画面だとわかりやすかった。【グラフ】
- オシロスコープの大画面がわかりやすかった。(アプリ)【表示】
- 前で先生がやっていること(実験)が見やすかった。【距離】
- 画面が明るく見やすかった。【見やすさ】
- いつも出してくれている大きな時計(アナログ)が便利だった。【時間】
- 授業がスムーズに進んだ。【スムーズ】
※以上、http://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2018/05/bb.html より引用。
-実際に使う子供たちの活動から、「紙の教科書の使い方、よいところ」を学習者用デジタル教科書に活かしていけると、さらによいデジタル教科書ができてくると思われます。今回もお忙しい中、ありがとうございました。
●おわりに
デジタル教科書が導入され始めた当初は、iBooks上などで動画を組み込んだデジタル教科書が注目を浴びていた時期もありましたね。私もデジタル教科書のメリットは、たとえば展開図を動的な表現で説明できるなど、アニメ的なところが良いのかしら?と思っていたことがありました。
私は以前、学習障害児向け「マルチメディアデイジー(DAISY)教科書」の作成ボランティアをしたことがあります。
▼マルチメディアデイジー教科書について
http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/book/daisytext.html
マルチメディアデイジー教科書は「通常の教科書と同様のテキスト、画像を使用し、テキストに音声をシンクロ(同期)させて読むことができる(前掲URLから引用)」デジタル化された教科書です。
「ユーザーは音声を聞きながらハイライトされたテキストを読み、同じ画面上で絵をみることもできます(前掲URLから引用)」ので、紙の教科書では文字を読みにくいお子さんにとっては学びの一助になります。
紙の教科書のメリット・デメリット、デジタル教科書のメリット・デメリットを踏まえた上で、これからも現場の先生方が子供たちの学びにつながる使い分け・活用をしてくださればと願っています。
インタビューにお答えくださった望月先生、記事を読んでくださった皆さまに感謝の気持ちでいっぱいです。大変ありがとうございました。
>>リブートシリーズ(過去の記事を今に再構成する)はこれで終わりです。次回からは新しいテーマのインタビュー記事が始まります。
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。
教育情報共有ポータルサイト
※[片岡による補足] Contet(コンテット/教育情報共有ポータルサイト)では、幼稚園から高等学校・特別支援教育に加えて、キャリア教育や学校経営・教員の資質の向上まで幅広い情報が公開されています。