リブート第20回「『主体的・対話的で深い学び』を促すための『板書・教材提示のバランス』」
教育現場のICT活用について伺いました(2017/03/28初公開分をリブート)
リブートシリーズ・・・2013年から不定期で掲載してきた「教育・授業・ICTに関するインタビューシリーズ」を、今に合わせて「再構成」していく企画です。
この春まで中学校で教諭をされておられた望月陽一郎 先生に教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか、お話を伺っています。
【望月陽一郎先生・略歴】
元中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経験されています。
前回(リブート第19回目)では、「文部科学省の資料にあるタイトルなどから、『アクティブ・ラーニング』という言葉に代わり『主体的・対話的で深い学び』がメイン」になってきている流れを受けて、子供たちが主体的・対話的に学ぶためにどのような工夫が必要なのかについて望月先生にお尋ねしました。
「授業でのリフレクション」を行うことにより、子供たちのリフレクション(子供たち自身の振り返り・授業を評価)からわかったことについてお話しくださいました。今回は「リフレクション」と同じく、授業の中で大事な要素の一つである「板書と教材提示」についてお聞きしました。
授業における「板書」について
―記念すべき第20回目のインタビューとなりました(2017年当時)。2013年6月から望月先生に教育現場のことをお話しいただいたのですが、大事なことを質問していませんでした。1時間の授業の中における「板書とICT機器などによる提示のバランス」についてです。これは、先生方のICT活用指導力にも関係すると思うのですが、いかがですか。
望月先生:最近(2017年当時)「板書例」を集めるサイトもありますが、実際、板書例を見るというだけではあまり参考にならないと思います。
―どうしてでしょう。私は面白いなあ、参考になるなと思いました。私の場合は、関係性を図説したい時は板書、箇条書きで大事なところを書き出したい時はパソコンのテキストエディターに入力してスクリーン表示していました。プログラミングのソースコードにコメント入れして説明することも多かったです。
ただ、学校の教科によって、板書が多かったり少なかったりすると思います。たとえば、理科だと望月先生のように実験の様子をiPadのカメラで映したりするでしょうし、算数・数学だったら問題を黒板に書いてから計算式や補足を先生が書きこんでいた印象があります。
国語ならば詩の本文とか、大事な文章を先生が最初に書き、生徒の意見などを黒板に追加して書き込んでいました。板書の仕方をいろいろ検討したら面白そうだなと思うのです。
望月先生:そういった板書のさまざまな工夫が参考になるのは、「授業の一部分」として、です。一時間の活動の流れや、先生方の発問(問いかけ)・子供たちの反応(リフレクション・授業評価)などを含めた「授業全体」です。そういう意味で板書だけを見てもあまり参考にはならないのです。
―確かにそれはそうですね。
「板書・教材提示のバランス」について
望月先生:先生方のICT活用指導力を考えるにあたって、授業の中での「板書・教材提示のバランス」について考える必要があります。
一年間の理科の授業における「ICT機器による提示」について子供たちに書いてもらった感想を、多い順に見てみると、(【 】内はそこに見えるキーワードです。)
- 教科書を大きく映して大切なところを示してくれわかりやすかった。【教科書】
- 教科書をズームしてくれたのでわかりやすかった。【拡大】
- 印をつけてくれたことで、後から振り返りやすかった。【振り返り】
- ただ言葉で聴くだけではわかりにくいので、画面があってよかった。【理解】
- 理科室の後ろからでも見やすかった。【見やすさ】
- 図形などで説明してくれたのがよかった。【図示】
- 画面に集中できた。【集中】
- 短時間で説明してくれたのがよかった。【効率化】
- 実験の説明のとき、道具の写真に直接書き込んで説明してもらえたのがよかった。【説明】
- 教科書以外の資料も見やすかった。【資料】
- その場で写真を撮って見せてくれたのがわかりやすかった。【撮影】
- 教科書・ノートに記録しやすかった。【記録】
- 苦手なグラフが、画面だとわかりやすかった。【グラフ】
- オシロスコープの大画面がわかりやすかった。(アプリ)【表示】
- 前で先生がやっていること(実験)が見やすかった。【距離】
- 画面が明るく見やすかった。【見やすさ】
- いつも出してくれている大きな時計(アナログ)が便利だった。【時間】
- 授業がスムーズに進んだ。【スムーズ】
などでした。
もちろん、
- 後ろの席のとき、見えにくかった。【座席】
- 光の反射で見えない時があった。【画面】
という困りを訴える声もありました。
子供たちの評価から見えるキーワードから考えると、「ICT機器による提示」には「見やすさ」「記録」「効率化(スムーズ)」というよさがあることが明らかになります。
―黒板に書かれたものをただ写す時間ってありますよね。
望月先生:先生が(板書を)書く時間+子供たちが(ノートなどに)写す時間が、一時間のうちにどのくらいにおさめればよいか、つまり授業設計ですよね。
―私の学生時代の話ですが、先生が重要キーワードを黒板に書き始めてから書き終わるまでに、30分近くかかるという授業が実際にありました。授業の前半30分はノートテイキングで、残りで教科書を説明するという形式で、私は書き写すのに疲れてしまいました(笑)。
確かにあまりに膨大な量の板書を書き写すのは時間的にもったいない、と思います。先生の板書が授業のメインになってしまうと、子供たちが考えたり話し合ったりする時間はどう確保すればよいのでしょうか。
子供たちの頭の中をアクティブに
望月先生:板書しても書かなくてよいという場合もあるかもしれません。しかしその場合、先生が板書しているものを書かなくてよいのか、ノートに写したほうがよいのかを、誰が判断するのでしょう。先生が指示するのかそれとも子供たちに判断させるのでしょうか。
―板書を多く書くと先生は説明しやすいものの、子供たちにとっては情報量が多くなりどこに注目したよいのか、わかりにくいかもしれませんね。大事なところだけ書くくらいでちょうどよいかなあ?と思った次第です。
板書するのが授業のメインになってしまうと、子供たちに向き合う時間も少なくなってしまいますね・・・。まとめて書くか、話しながら適宜書き増やしていくかで、子供たちの授業への印象も変わりそうです。
子供たちがノートに書き写した後、後で振り返り、子供たちが「授業の中で何が大事だったか」わかるような板書であってほしいです。先生が板書を大量に書きすぎる、もしくは要点がわかりにくい板書だと、後で子供たちがわからなくなりそうな気がします。
望月先生:板書とICT機器による提示を組み合わせることで、「簡潔で見やすく」「記録として振り返りができる」「効率的(スムーズ)な」授業を設計することも、「授業づくり」といえると思うのです。
板書以外の方法について
―望月先生は「リフレクションシートから見る『主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)』の視点」の回で、以下のようなことをお話しくださいました。
④KP法(紙プレゼンテーション)、テレビでの提示、iPadの活用について 多い順
・教科書でチェックするところがテレビに映されるのでよく確認できた。
・大きく教科書やプリント、器具などを映してくれるので説明が分かりやすかった。
・宇宙の分野で、アプリで宇宙空間が大きく映しだされていてよくわかった。
・黒板が先生で隠されてしまうことが少なくよく見える。
・KP法は時間短縮になる。
板書以外の方法(KP法<紙プレゼンテーション>・テレビでの提示・iPadなど)を活用されることで、子供たちの理解を促す取り組みをされています。子供たちの頭の中に授業内容が残りやすいように「板書や教材の掲示をする際、どのようなことを意識されているか」。ここまでのまとめを兼ねて、改めてお話しいただけましたら助かります。
望月先生:最近(2017年当時)話題になっているアクティブ・ラーニングという手法やプログラミング教育などについても、「一時間の授業」について単元全体を見通してどのようにデザイン(設計)していくかという「授業づくり」として考えることが大切だと思います。
そういった授業デザインの中に、「板書」もあれば「ICT機器による提示」があるので、議論をしていく時には、全体を俯瞰してみることが大切になると思うのです。板書例だけを見るのではなく。授業を始めたばかりの若い先生方にそう言いたいですね。
―今回も大切なお話をありがとうございました。
おわりに
私は数年前(2017年当時)にある大学で「国語科教授法」で板書の書き方の練習をしたことがあります。すでに定年退職された先生(確か教員歴40年近く)に、
- 字がうまいか下手かよりも、教員が文字を丁寧に書いているかが大事(丁寧に書いていると、子供たちが読みやすいから)
- 国語科の場合は縦書きなので、黒板に文章をまっすぐ書けると良い(文章がまっすぐに書かれていると、子供たちは見やすいし、しかも美しく見える)
- 詩を書き写すときは段落の間の空け方も意識する(音読するときの間がわかりやすいように)
- 紙を黒板に見立てる → 何を・どこに書くかを事前に紙に書き、整理しておくと良い
等のことを教えていただきました。
小中高の先生方の板書の例は本やインターネット上に多数、事例が紹介されています。見とれてしまうほど美しい字で、しかも矢印の一つ一つも絵のように美しい板書の多く存在します。先生方の真摯な想いが板書から伝わってきました。適切に整理し、まとめられている板書だと、写真を見ただけでも授業内容が頭に入ってくる印象を受けます。
ただ、「時間をかけて美しい板書を書く」行為がメインになってしまうと、「子供たちが活動する時間が少なくなってしまう」ということも生じるだろう、と感じました。素早く丁寧で、美しい板書が書けるだけの熟練したスキルがあれば、素晴らしいことに思います。ただし、そこに至るまでにそれなりの時間・経験が必要そうなので、バランスの取り方が難しいのだろうな、とも思いました。
望月先生の事例のように板書以外の方法(KP法・テレビでの提示・iPadなど)もうまく併用しながら「授業を構成するスキル」の重要性を実感しました。子供たちの「主体的・対話的で深い学び」を促すための板書・教材の提示について改めて考える必要があると、自戒の念を込めて思いました。
そして、3月半ばという時期(2017年当時)、高校受験は一段落したものの、卒業式、新年度に向けての準備があることを考えると、教育現場は大変お忙しいのではないかと思います。そのような中でインタビューにお答えくださった望月先生、記事を読んでくださった皆さまに感謝の念が堪えません。今回も大変ありがとうございました。
>>リブート21回「英語教室(English Classroom)の設置とICT活用」(6月1日公開予定)につづく
Reboot Produced by Yoichiro Mochizuki
参考記事
先導先生 - DiTT(デジタル教科書教材協議会)
※望月先生の45の取組みが紹介されています。