オルタナティブ・ブログ > 教育ICT研究室 >

グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

朝ドラ「あまちゃん」私考(追加あり)

»

「あまちゃん」が熱い

朝ドラ「あまちゃん」(NHK系)の話題がTwitterで盛り上がっています。ひうらさとる先生やこなみ詔子先生など、プロの漫画家もあまちゃんのイラストをTwitterに投稿しています。「あま絵」本も8月末に出版されるそうです。

参考:『あまちゃんファンブック2 おら、やっぱり「あまちゃん」が大好きだ!

あまちゃんは小ネタ・名作オマージュが多く、読み解くおもしろさもあります。私も「あまちゃん」の小ネタを考えてみることにしました。この記事はいわゆる「ネタバレ」(番組の内容がわかる情報)だと思いますので、ご注意ください。

映画『探偵物語』との類似

本日8/24(土)の冒頭は、水口琢磨(主人公のマネージャー) 役の松田龍平さんが主人公・天野アキの映画オーディション合格を喜び、ハグをする場面がありました。ヤフーニュースでも"ミズハグ"として取り上げられていました。

すでにTwitterでファンの皆様が指摘されているように、二人の身長差や抱きしめ方は、私が小学生の頃に父と一緒に見た映画『探偵物語』のラストと似ていました。

映画『探偵物語』は女子大生 お嬢様を演じた薬師丸ひろ子さんが主演。お嬢様を短期間だけボディー・ガードする探偵役が松田優作さんでした。薬師丸さんは「あまちゃん」の劇中劇「潮騒のメモリー」で、主人公・天野アキの母親役を演じています。

参考:探偵物語 ブルーレイ [Blu-ray]
B008GX5UBM
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。

劇中劇で薬師丸さんの娘役をしている能年玲奈さんを、松田優作さんの息子の松田龍平さんが、映画『探偵物語』のように抱きしめる。おそらく10代・20代の人はオリジナルを見たことがないと思いますが、1980年代を知っている人にはたまらない場面でしょう。

加えてTwitterでも指摘があったのは、北三陸・編で海女の熊谷美寿々(美保純さん)が水口琢磨への思いを断ち切るため、東京に帰る水口琢磨を駅で抱きしめる場面ともそっくりです。北三陸編での水口琢磨は熊谷美寿々におそらく恋愛感情はなく、主人公たちをスカウトするために北三陸に馴染むため、親密にしていたようでした。

映画『探偵物語』のオマージュが元ネタなのか、熊谷美寿々との場面の反転として描かれたのか。

「あまちゃん」の構想を考えてみた

Twitterでいろいろ意見が出ていました。筆者は、宮藤官九郎さんが脚本を書く際に、もしかしたらこんな流れで、「水口琢磨が天野アキを抱きしめる場面」(通称・ミズハグ)を考えたのかな、と思いました。

  1. 話の設定、スタート・ゴールなど全体の核になる話を考える(詳細は後述)
  2. 能年玲奈さんと松田龍平さんのやりとりで、映画『探偵物語』のオマージュ(※3)をやらせたい
    ※3 薬師丸さんと松田優作さんが長めに抱き合うシーン
  3. 大人の男性が少女に恋をし、少女の今後のために想いを断ち切る設定が生まれる
  4. 想いをここまでに留めるためのハグは、『探偵物語』同様、少女が自立し、大人になっていく場面がふさわしい
  5. ヒロインが映画の主人公に合格し、水口琢磨が感極まって天野アキを抱きしめながら男泣きするシチュエーションが決まる
  6. 北三陸編or1980年代の東京編と2008年以降の東京編では、似たシチュエーションでも結果が変わるという傾向がある。
    →おそらく「おらたちの大逆転」になるように、東京・編の"ミズハグ"を決めた後、熊谷美寿々が北三陸で水口琢磨を抱きしめるシーンを逆算して設定した?

破綻していない「物語」には共通するパターンがあります。私は中世日本文学を研究していたので専門外ですが、「あまちゃん」はソーンダイクの"物語文法"にそっている気がしました。

物語は「設定」,「テーマ」,「プロット」,「解決」という4要素からなると考えるのである。
※『グラフィック認知心理学』(サイエンス社)P,182より引用

「あまちゃん」の場合、15分ドラマを156回続ける必要があります。

事前に構想をしっかり決めておかないと物語の着地ができないまま終わるリスクがあります。企画・設定倒れにならないように、「設定」,「テーマ」,「プロット」,「解決」を事前に決めて、ブレないように所定の回数に割り振ってから書き始める必要がありそうです。

前掲書から関連箇所を抜き出すと、

  • 設定:時間,場所,登場人物などを記載した文
  • テーマ:物語の発端となる事件や主人公が達成すべき目標
  • プロット:テーマに沿って、数々のエピソードが語られる
  • 解決:物語りの最初に呈示されたテーマが、どのような結末を迎えるのか記述

となります。※『グラフィック認知心理学』(サイエンス社)P,182より抜粋

ラストまで残り一ヶ月。物語の伏線の回収がおこなわれているのも、「物語りの最初に呈示されたテーマが、どのような結末を迎えるのか記述」されるためと考えられます。

「あまちゃん」は自己再生の物語?

参考:監修・選曲 宮藤官九郎『春子の部屋~あまちゃん 80's HITS~ビクター編

B00DZYCDHQ
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。

物語の冒頭では主人公の祖母・天野夏が倒れたという偽メールが届いたことで、主人公と主人公の母・天野春子は東京から北三陸にやって来ました。そして先週は天野夏が心筋梗塞で本当に倒れて、手術する場面が描かれました。

物語の冒頭では天野夏と天野春子が対立関係でした。しかし主人公・天野アキの存在が周りの人間の心情を変えていき、その結果、天野夏と天野春子の行動も変わります。物語の終局では親子が二十五年ぶりに和解するに至ります。

そう考えると、天野春子が1980年代に開通した北鉄で東京にでたシチュエーションと似たことが、「物語の解決」に向けて起こる可能性があります。天野アキと足立ユイが二人で東京に出て行くのかもしれませんし、旅立つのではなく震災後の復興のため北三陸で町おこしをしながら活躍するのかもしれません。

前述したように、水口琢磨が女性を「抱きしめる」行為でも、北三陸編と東京編では意味合いが異なりました。北三陸・編では感情を顔や言葉に出さない水口琢磨が、天野アキと交流するうちに、だんだん感情を表に出すようになっていきました。

お酒によった彼がルパン三世のモノマネしたり、北三陸・編では観られなかった、ちょっとぬけていたり、お茶目だったりする面が見えてきました。「あまちゃん」は天野アキと関わることで周りの人間が抑圧していた本当の気持ちに向き合い、感情を開放していく物語にも見えます。

おらたちの大逆転

「あまちゃん」の話の構造はおそらく「貴種流離譚」に似ているので、主人公に大きな困難があっても最後は大逆転する終わり方になるのではないかと考えています。

学術書を処分してしまったので、Wikipediaから引用します。

貴種流離譚とは、折口信夫が一連の「日本文学の発生」をめぐる論考のなかで、日本における物語文学小説)の原型として論じた概念である。 その説くところは時期によって細部が異なるが、基本的には「幼神の流浪」をその中核に据える。
※Wikipedia「貴種流離譚」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%B4%E7%A8%AE%E6%B5%81%E9%9B%A2%E8%AD%9A より引用

本来ならば高貴な生まれの子どもが川などに捨てられて、身分が貧しい人たちに育てられ、不遇な環境に置かれるが、冒険をする。自分や親を苦しめた人に復讐をしたり、冒険の後、名誉を得て成功を勝ちとったりする、類の構造だと筆者は認識しています。

「あまちゃん」は、主人公の母が人気女優の「歌の影武者」にされて歌手デビューできなかったことから物語がはじまり、2013年8月24日時点では、娘が映画の主役を勝ち取って母の屈辱を晴らす展開になってきました。母と娘では同じシチュエーションでも言動が違い、結果が変わるのが興味深い点です。

参考:天野春子(小泉今日子) 『潮騒のメモリー(初回限定紙ジャケ仕様~アナログEP風レトロパッケージ)


B00E1Q2D9A
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。

主人公が18歳の割に幼い印象ですが、天野アキが貴種流離譚の「幼神の流浪」のオマージュであれば、子どもらしさが強調されているのもうなづけます。

主人公・天野アキが東京と北三陸を行き来して成長するのが物語の縦糸。アキの影響を受けて周りの人間も感情を開放される「自己再生」物語という横糸が見えてきました。

「あまちゃん」一回目に登場した北鉄開通の場面(1980年代)は、主要人物の人生に大きな影響を与えています。登場人物が「自己再生」をしていく中、地域も再生がテーマになっていくのではないでしょうか。

今後、東日本大震災後の北三陸の物語が描かれると考えられます。東京や北三陸の登場人物たちの心模様・言動が変化した結果、初回の1980年代とは違った意味を持った北鉄に関する場面が描かれるのではないかと想像しています。

おわりに

「あまちゃん」の魅力は北三陸・編は天野夏が、東京・編は天野アキがナレーションをしています。軸となる人物が「自分語り」をしているところが、ドラマでありながら「物語り」に思えます。

「あまちゃん」は「分かる人にはわかる小ネタ」が多く、伊勢志摩さんや皆川猿時さん、荒川良良さん、など舞台で活躍している脇役のみなさまの演技が圧巻です。小泉今日子さんの「潮騒のメモリー」ほか歌や音楽も印象的です。

古田新太さんのアドリブにひるまず応える能年玲奈さん、宮本信子さんのわざとじゅばんがみえるように着物を着る、松尾スズキさんのいい声など、それぞれの演技の工夫も見どころです。

水口琢磨が主人公を好きかどうかは明確には脚本に書かれていないと公式サイトで知りました。俳優さん達の行間の解釈もドラマの見どころです。筆者は主人公と周りの人たちの「再生の物語」と解釈しましたが、はたして今後どうなるのか楽しみです。

>>「朝ドラ「あまちゃん」東京編は、映画『探偵物語』のオマージュなのか?」につづく

関連記事

  1. 朝ドラ「あまちゃん」私考(追加あり)(ITmedia)
  2. 朝ドラ「あまちゃん」東京編は、映画『探偵物語』のオマージュなのか?(追加あり)(ITmedia)
  3. 朝ドラ「あまちゃん」は壮大な"メタフィクション"である?論(ITmedia)
  4. 朝ドラ「あまちゃん」私考 最終回を迎えて(ITmedia)
  5. ドラ"あまちゃん"の天野アキと水口琢磨の物語は、最終回までにどうなったのか?(ITmedia)

変更履歴:2013年8月25日 21:10誤字脱字を修正。1980年台→1980年代、思うからです→思いました。2008年以降のを追加。同日、21:24 見出し「映画『探偵物語』との類似」を追加。同日、21:28 見出し「おらたちの大逆転」を追加。2014年1月29日23:25に内容を非表示にしました。「考察を出版してはどうか」という話が出ているためです。出版が決まり次第、詳細をお知らせします。どうぞ、よろしくお願い致します。2015.03.31 15:05 記事の内容を再表示しました。

Comment(0)