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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン! 物語完結のカギは速水真澄のIT化・前編

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はじめに

この記事を書いている際に、スティーブ・ジョブズ氏の訃報を聞きました。IT・テクノロジーが、場合によっては人の人生を変え、大きな影響・幸運を与えることがあります。ジョブズ氏はそのようなことを成し得てきた人物だった、と感じています。偉大なるイノベーターであった、ジョブズ氏のご冥福をお祈りしたいと思います。

さて今回は漫画『ガラスの仮面』シリーズの3弾目、「物語完結のカギは速水真澄のIT化」について考えてみようと思います。『ガラスの仮面』のあらすじは、Wikipediaのものが一番わかりやすいのでオススメです。

参考:ガラスの仮面 (Wikipedia)
※以下のページの「あらすじ」の項目をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E4%BB%AE%E9%9D%A2

今回の記事も物語の結末や核心となる部分に触れています。この記事は「『ガラスの仮面』のネタバレになっている記事でもかまわない」という方を対象にしていますのでご注意ください。

速水真澄のIT化の始まりはいつか

さて、現時点では最新号となる「別冊花とゆめ」2011年11月号までを読んだ限り、『ガラスの仮面』は53巻前後で完結するのではないか、と考えています。

「作者・美内すすえ先生は急速なラストスパートをかけ、2011年7月末に発売された単行本47巻から残り5・6巻で終わるのではないか」という仮説です。

その根拠として

  • 速水真澄の急速なIT化
  • 夏目漱石『明暗』

の存在があります。

私が最新刊までを確認した限りでは、速水真澄のIT化が始まったのは、単行本の41巻の後半部分に水城秘書が「パソコンで資料を送ったこと」を述べているのが初出ではないか、と考えています。(注)
注:『ガラスの仮面』紅天女8 単行本41巻(白泉社)ラスト部分を参照

水城秘書は「速水社長が梅の里にいる間に、仕事の書類をパソコンで送った」という内容を発言しています。おそらくメールで資料を送ったのではないか、と推測ができます。

単行本41巻は1998年に発刊されましたが、掲載内容は雑誌「花とゆめ」に1989年頃までに連載された内容を改稿していたようです。

Windows95の発売後、一般のユーザもパソコンでメールやインターネットを利用するようにありました。水城秘書が速水社長に仕事の資料をメールで送るということは不自然ではありません。

梅の里で携帯電話は使用できたのか?

1998年頃は携帯電話が一般ユーザにも急速に普及し始めた時期でした。しかしi-modeは1999年2月に開始とのこと。当時はSMSが主に利用されていたようです。

もし速水真澄が携帯電話経由でインターネットを利用したと仮定した場合、梅の里はかなりの山奥なので、携帯電話は圏外になる可能性が高いと推測できます。むしろ自動車電話経由の可能性のほうが高いかもしれません。

速水真澄が梅の里付近の宿にノートパソコンを持参。モデムや電話線を利用して、ダイヤルアップでメールの送受信を行っていた、と仮定するのが自然ではないでしょうか。

当時の携帯メールでは、仕事の資料を添付するのは困難ではないかと考えています。添付ファイルを受信するとなると、パソコン同士の通信と考えるのが自然ではないでしょうか。

単行本41巻ではダイヤル式の固定電話が登場し、プッシュホンではありませんでした。しかし、続きとなる単行本42巻では携帯電話が突然登場し、速水真澄と北島マヤの間を引き裂くアイテムとして活用されていきます。

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この記事の題名も「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン!」になっているのは、携帯電話が『ガラスの仮面』において、紫のバラと同様に重要なモチーフとなっているからです。

詳細については「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン!-物語完結のカギは速水真澄のIT化・後編-」で述べることとし、もうひとつの根拠、夏目漱石の明暗を取り上げたいと思います。

プロはすごい

ITとはまったく関係がなさそうな文豪・夏目漱石。しかし、ITmediaオルタナティブ・ブログに夏目漱石の孫である夏目房之助さんが夏目房之介の「で?」というブログを書かれていることを考えれば、不思議なつながりを感じます。

私がすごいと衝撃を受けたのは、夏目さんが2011年8月12日にオルタナティブ・ブログに書かれた以下の記事です。

参考:マンガ史関連の新刊二冊

上記の記事の後半部分で紹介されている、小長井信昌『わたしの少女マンガ史 別マから花ゆみ、LaLaへ』(西川書店)の中に、漫画『ガラスの仮面』の著者・美内すずえ先生のエピソードも掲載されているそうです。

参考:小長井 信昌『わたしの少女マンガ史―別マから花ゆめ、LaLaへ

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※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。

人気がある本らしく在庫切れしていたので、まだ入手できていませんでした。が、ウェブで情報を検索したところ、白泉社社長の小長井さんが編集者だった時の話題が、盛りだくさんとのこと。

「ガラスの仮面」の連載を「花とゆめ」に開始するときの、打ち合わせのエピソードが掲載されているとウェブのレビューで見かけました。どんな打ち合わせ内容だったのか非常に気になっています。

私が漫画『ガラスの仮面』シリーズの記事を書きはじめたのが2011年8月8日でした。数日後、夏目さんの記事(2011年8月12日)を拝見して、プロとアマチュアの差を思い知った次第です。評論と感想文は大きく次元が違うのです。

『明暗』がゆっくり進行していた理由

さて、なぜ夏目漱石の『明暗』が『ガラスの仮面』と関係があると考えたのかというと、「物語の展開」の仕方が類似しているからです。

美内すずえ先生が『明暗』を意識して執筆しているのかは不明ですが、私が類似していると判断した根拠をあげてみたいと思います。

漫画『ガラスの仮面』は53巻前後で終わるのではないかと書いた根拠の一つは話の展開・進み方です。読者の中には「『ガラスの仮面』は同じようなエピソードが繰り返されマンネリ化したのでは? 」とウェブ書き込んでいる方もいらっしゃいました。

例えば、

  • 単行本44巻の最後で、北島マヤが魂の片割れについて質問をするため、月影先生がいる邸宅に行く。そうしたら、同じ事を質問しようと考えていた速水真澄にばったり会う。
  • 単行本46巻の最後で、北島マヤは鷹宮紫織(速水真澄の婚約者)の使用人に渡された手切れ金1000万円の小切手を鷹宮紫織に返すため、ワンナイトクルーズのアストリア号に行く。そうしたらワンナイトクルーズとは知らされずに、鷹宮紫織に呼び出された速水真澄とバッタリあってしまう。

の例です。

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「都合よく主役二人がばったり出会うのが何回もあるのは実際にはありえない」という読者の指摘は正しいのです。ですが、『ガラスの仮面』は物語だと捉えると、興味深い注目ポイントとなります。

他にも「既視感」「類似性」を感じるエピソードはいろいろあるのですが、これは作品がマンネリになったのではなく、美内すずえ先生が意図的に行っていると考えられます。ここで重要なのが『明暗』の話の進み方です。

夏目漱石『明暗』は作者の死によって未完に終わった作品です。大正5年に「朝日新聞」に188回連載され、未完の作品として大正6年に岩波書店から発売されました。

『明暗』では同じようなエピソードが同心円上に展開し、少しずつ少しずつ進行していきます。人間の心理描写や行動を緻密に描くために、あえて直線的なストーリー展開ではなく、円のように少しづつ確信に迫っていく手法をとったようです。

夏目漱石『明暗』がもし未完にならなかったら... 追記 2011.10.6

参考:夏目 漱石 『明暗 (新潮文庫)

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※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。

以下の部分は私の推測が多い話題のため、本文から切り離し追記とします。

『ガラスの仮面』は40巻以降、4通りのストーリーがあります。はじめに雑誌に連載したものは、登場人物の言動がはじめの設定とどんどんかけ離れてしまったため、整合性を取るために改稿が繰り返されたのではないか、とファンの間では言われていました。

雑誌に連載されたにもかかわらず、単行本には収録されなかった原稿では、単行本及び現在連載中の雑誌の原稿とは異なる内容のエピソードがあります。おそらく単行本に収録されなかった原稿のまま話が進んでいった場合は、『明暗』の以下のシーンのような展開に近づいていったでしょう。

『明暗』の主人公・津田が愛していた清子が、流産の後身体を癒すためある温泉地にいることを知ります。津田は妻・お延に本当の理由を隠して温泉地に行きます。そして夜、清子に再会します。

作者・夏目漱石が執筆中に亡くなってしまったため、清子がなぜ主人公・津田の前から去ったのか、本人の口から明かされる前に未完となってしまいました。おそらく続きには、妻・お延が真実を知るために温泉地に追いかけて来る可能性が高いのですが、真実はわかりません。

未刊行原稿

雑誌に最初に連載されていた原稿では、速水真澄が北島マヤに真実の気持ちを告げようとした際に、鷹宮紫織は速水真澄の隠れ家(別荘)に行って、二人が結ばれないように策略を張り巡らします。

  • その後、交通事故にあった速水真澄が入院先の病院を抜けだして、別荘に行ったことに気が付き
  • 鷹宮紫織が別荘に現れ、北島マヤのことで詰め寄るなど、

『明暗』で未完に終わった部分以降に起こる可能性があった出来事と類似したエピソードが続いていきます。

美内すずえ先生が夏目漱石の『明暗』を意識して、未刊行になった原稿を書いていたのかは不明です。が、同心円上に進む話の展開は、類似しているのではないかと考えています。

お詫び

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論文にしたいので、「夏の大三角形」の話題が登場した部分からあとは、2013.2.25 0:55に非公開にしました。楽しみにしてくださっていた皆さま、申し訳ありません。改稿と加筆をして論文として公開できましたら、お知らせを出させていただきます。よろしくお願いいたします。


編集履歴:2013.12.23 23:16 「漫画『ガラスの仮面』の物語完結のカギは速水真澄のIT化・前編」後半を別記事「漫画『ガラスの仮面』と夏目漱石『明暗』の意外な共通点」として独立させました。『明暗』のAmazon画像を追加しました。2013.12.30 0:53 お詫びの部分を「夏目漱石『明暗』がもし未完にならなかったら...」の前から>>「漫画『ガラスの仮面』の「雨」が物語る 北島マヤと速水真澄の未来・前編」に続く」の下に移動しました。

編集履歴:2012.7.4 19:25 冒頭に『ガラスの仮面』のあらすじへのリンクを追加しました。2012.7.25 0:46 見出しを追加しました。2012.12.7 17:27 題名を「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン!-物語完結のカギは速水真澄のIT化・前編-」から「漫画『ガラスの仮面』の物語完結のカギは速水真澄のIT化・前編」に変えました。2013.1.27 22:01 誤字脱字を修正しました。前半部分の引用を削除し、一部改稿しました。2013.4.30 23:16 星空の写真を追加しました。お詫びの部分の文章を書き直しました。2013.12.23 23:16 記事後半を別記事「漫画『ガラスの仮面』と夏目漱石『明暗』の意外な共通点」として独立させました。2014.4.30 15:16 題名から「漫画『ガラスの仮面』の」を削除しました。2015.4.16 「漫画『ガラスの仮面』と夏目漱石『明暗』の意外な共通点」の部分を再び統合。本文から「>>漫画『ガラスの仮面』と夏目漱石『明暗』の意外な共通点に続く」を削除。題名に「漫画『ガラスの仮面』にまさかのスマートフォン! 」「、主人公・津田が」「。です」を追加。句読点を追加。方には」→「皆さま」「なったことを考えれば、」、「では、」→「の」、「に設定していたもの」→「の設定」、「と聴き、」→「を知ります。」、「話が未完で終わっています」→「未完となってしまいました。」に修正。「が、」を削除。

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