マンガ史関連の新刊二冊
重要な本が二冊、立て続けに出た。
すがやみつる『仮面ライダー青春譜 もうひとつの昭和マンガ史』ポット出版
帯「石ノ森章太郎、ジョージ秋山、松本零士、宮谷一彦、本宮ひろ志・・・・・その渦中にいた『ゲームセンターあらし』のすがやみつるが綴る体験的昭和マンガ史」
ご存知の方はすでにいうまでもないが、すがやさんは僕と同じ1950年生まれで、ご同様にマンガ漬けで育ち、ムチャクチャ色んな場所で色んな人と交わり、おまけに驚異的な記憶力の持ち主である。当然のようにマンガ家になるべく石森章太郎のアシスタントをし、編集プロダクションで編集者をし、さらにジョージ秋山のアシにもなり、マンガ家となり、おまけに最近になって大学に入学、大学院まで進んで研究者としても活動している。そんな人のマンガ史+自伝が面白くないわけがない。何しろ、日本のマンガが大きく変わった転換期に現場にいたのだ。マンガ史の史料としても貴重なはずだ。
本書は、ご自身のブログで書かれたものをまとめたのだと思うが、最後に1950~73年の自伝年表が載っている。73年で区切っているのは、その頃にすがやさんの「青春譜」としては区切りを迎えたということだろうが、同世代としては腑に落ちる気がする。僕にとっては、73年は大学卒業の年であり、社会的な実戦配備につく頃であった。まだ読んでいないが、図版もけっこう載っていて楽しみである。でも、続編なんかも期待したいなあ。
小長井信昌『わたしの少女マンガ史 別マから花ゆみ、LaLaへ』西川書店
帯「少女マンガはこうして生まれた! マンガ編集50年の著者が語りつくした「あの頃」のこと
【巻末特別2大付録】単行本未収録! 美内すずえ作「龍路ツーリング」 別マ・花ゆめ・LaLaのマンガ家同窓会記念誌「MUMUMU」公開! 解説/同志社大学教授 竹内オサム」
本書は、白泉社社長であった著者が、自身のマンガ編集者時代の回想を中心に、竹内オサムさんの個人誌「ビランジ」に連載された「少年少女マンガ誌編集回想録」をもとに大幅加筆されたものだそうだ。連載は時々読ませていただいたが、これまたすごい記憶力で、何よりも少女マンガ史として貴重な史料となるものであった。少女マンガ史研究には必須の本となるだろうと思う。
竹内さんの解説「神様のような人」には、小長井氏が田中美智子、木内千鶴子、木村三四子、美内すずえ、和田慎二、魔夜峰央、三原順、くらもちふさこなどを発掘し、「読み切り」主義を徹底し技術指導を行って作家として育て上げたことなどが功績として触れられている。「神様」というのは、じつは原稿入れが締切一か月前という早さで、編集にとっては「神様のような人」だったというオチには笑ったが、著者の少女マンガ史への功績も大きいだろう。何しろ少女マンガ誌の黄金期を作った編集者の一人であり、多くの雑誌創刊にかかわり、集英社の子会社として白泉社ができるとき、社長命令で出向し、その後社長になった人である。いきおい観点も他社、他誌との競合や俯瞰的なものになる。そこが、ただ編集現場だけできた人の回顧とは異なるだろう。
また新人発掘と育成の苦労話にからめ貸本マンガや「COM」などとの関係にも言及され、巻末近くでは「ヤングアニマル」や「おもしろブック」についても触れられている。マンガ史全体にとっても貴重な証言を含むはずだ。こうした仕事を表に出してくれた竹内さんにも感謝したい。ところで、「ビランジ」連載の丸山昭さんのインタビュー連載は単行本化しないんだろうか?