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半導体市場、初の2000億ドル突破:AI偏重から「全方位成長」へ

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英国の調査会社Omdiaが2025年12月11日に発表した最新の調査結果は、世界の半導体産業が新たな局面に入ったことを示唆する重要なデータです。市場関係者の予想を大きく上回り、四半期ベースの売上高が史上初めて2000億ドル(約30兆円)の大台を突破しました。

Omdia: Semiconductor quarterly revenue surpasses $200bn for the first time as industry-wide growth accelerates

2024年まで市場を牽引してきたのは、生成AI(人工知能)ブームとそれに関連する特定の企業の独り勝ちともいえる状況でした。しかし、今回の発表では、その成長の波が半導体産業全体へと広がりを見せていることが明らかになっています。これは、世界経済のデジタル化が次のステージへ進んだことを示唆しているといえるでしょう。

今回は、Omdiaのレポートに基づき、この成長の背景にある構造変化、AIとメモリ市場の相関関係、そして広範な産業分野への波及効果について詳細に分析します。今回は、市場データの詳細な分析、2024年との対比による成長の質の変化、主要プレイヤーの動向、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

予測を覆す「14.5%成長」の衝撃

2025年第3四半期(7-9月期)の半導体市場は、Omdiaのデータによると、同四半期の世界半導体売上高は2163億ドルに達し、前四半期比で14.5%という驚異的な伸びを記録しました。第2四半期もすでに8%の成長を見せていましたが、そこからさらに加速した形です。

通常、この時期の半導体市場は季節的な要因により、前四半期比で7%程度の成長にとどまるのが通例です。事実、第3四半期を迎える前の市場コンセンサスでは、5%程度の成長予測である中、その予想の2倍以上の成長率を達成したことになります。

半導体市場は、2023年の停滞期を経て、2024年から2025年にかけて急激な回復と成長の軌道を描いています。グラフが示すように、2025年後半にかけて成長の勢いが衰えるどころか、さらに加速している点は非常に重要です。このままのペースで推移すれば、2025年の年間売上高は8000億ドルを超えると予測されており、半導体産業がかつてない規模へ拡大しています。

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出典:Omdia 2025.12

2024年の「偏り」から2025年の「全体底上げ」へ

今回の成長においてもっとも注目する必要がありますのは、市場拡大の「質」が変化している点です。2024年も半導体市場全体としては年間売上高が6500億ドルを超え、20%以上の成長を記録しました。

2024年の成長は、NVIDIAを中心とするAIアクセラレータと、それに付随するメモリ市場によって牽引されていました。Omdiaの分析によれば、NVIDIAとメモリICを除いた市場全体の成長率は、わずか1%にとどまっていました。つまり、AI以外の分野では在庫調整や需要の低迷が続いており、多くの企業にとっては実感の乏しい好況だったといえます。

対照的に、2025年は市場構造が健全化しています。AIとメモリが依然として成長の主要エンジンであることに変わりはありませんが、それ以外の分野も力強い回復を見せています。データによれば、NVIDIAとメモリを除いた市場においても、第3四半期は前四半期比で9%以上の成長を記録。これは、スマートフォンやPC、産業機器、自動車など、AI以外の広範なエレクトロニクス市場において、在庫調整が一巡し、実需が戻ってきたことを示しています。特定の「特需」頼みではなく、産業全体の底上げが進んでいる点は、今後の安定成長を考える上で非常にポジティブな材料です。

AI推論需要が押し上げるメモリ市場の再編

市場を牽引するトッププレイヤーの顔ぶれを見ると、現在のトレンドがより鮮明になります。第3四半期の売上高トップ4社は、NVIDIAと、Samsung、SK Hynix、Micronのメモリ大手3社で占められています。この事実は、現在の半導体ブームが「演算(ロジック)」と「記憶(メモリ)」の高度な連携によって支えられていることを物語っています。

ここで重要なのは、メモリ需要の中身も進化しているという点です。生成AIの学習フェーズで大量に必要とされるHBM(広帯域メモリ)の需要が旺盛であるとともに、今回のレポートでは、従来のDRAM需要も急増していることが指摘されています。これは、AIの活用フェーズが「学習」から「推論(実際にAIを使って回答などを生成する工程)」へと広がりを見せているためです。

シニアプリンシパルアナリストのLino Jeng氏が指摘するように、AI推論のワークロードが拡大するにつれて、HBMだけでなく汎用的なDRAMの価格上昇と需要増が起きています。これは、AIデータセンターへの投資が一部のハイエンドモデルだけでなく、推論用サーバーや、将来的にはオンデバイスAI(PCやスマホで動くAI)へと波及していく予兆と捉えることができます。メモリ市場の活況は、デジタルインフラ全体の更新需要を表しており、この傾向は当面続くと考えられます。

8000億ドル市場への道と産業への示唆

Omdiaは2025年の年間売上高が前年比で約20%増の8000億ドルを超えると予測しています。この数字は、半導体が世界経済の中で戦略物資としての地位を確立したことを象徴しています。2025年の成長が、一部のセグメントに集中したものではなく、産業全体への広がりを見せていることは、企業の設備投資意欲の回復を示唆しています。

NVIDIAとメモリを除いた市場が年間9%程度の成長軌道に乗っているという事実は、製造業や一般消費財メーカーにとっても朗報です。半導体需要は経済の先行指標としての側面を持つため、これら広範な分野での需要回復は、世界経済がソフトランディングに向かい、再成長のフェーズに入りつつあることの裏付けともなり得ます。

また、この「広範な成長」は、半導体サプライチェーン全体に恩恵をもたらします。製造装置、素材、パッケージング技術など、周辺産業も含めたエコシステム全体が活性化することで、技術革新のスピードがさらに加速することが期待されます。企業経営者や投資家は、AI関連銘柄だけでなく、エッジデバイスや産業用半導体など、出遅れていたセクターの回復にも目を向ける必要があります。

今後の展望

2025年第4四半期も過去最高記録を更新することが予想されており、半導体市場の拡大基調は2026年に向けてさらに強固なものとなるでしょう。AIが「学習」から「推論」、そして「エッジ(端末)」へと実装フェーズを移す中で、半導体需要は量的な拡大だけでなく、質的な多様化も進みます。

今後の焦点は、この急激な需要増に対して、供給能力が追いつけるかという点にあります。特に先端パッケージング技術や電力効率の高いデバイスの供給は、依然としてボトルネックになる可能性があります。企業としては、単なる部材調達の確保にとどまらず、地政学的リスクも考慮したサプライチェーンの強靭化を進めることが重要です。また、AI以外のセクターの回復が本物であるか、マクロ経済動向と合わせて注視していく必要があるでしょう。

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Google Geminiにて作成

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