敵は社内にあり!第5回:頑固な抵抗に対処する~7つの常套手段を総動員~
抵抗勢力との向き合い方シリーズ。第5回目は「頑固な抵抗」について解説したい。
これまで「隠れた抵抗」「表に出た抵抗」の対処の仕方を解説してきた。
レベル別に見ると、主に抵抗レベル1~2への対処が中心だった。基本的なことだが、これらをしっかりやるだけで相当抵抗を解消できる。
実は、抵抗レベル2までに押さるのが抵抗と向き合うコツなのだ。レベル3以上になると途端に対応が難しくなるからだ。隠れた抵抗を拾い上げ、表に出た抵抗に丁寧に対応すれば多くはレベル2までに押さえられるだろう。
とは言え、レベル3~4の抵抗に直面することもやっぱりある。
5回目の今回は、レベル3~4の「頑固な抵抗」への対応策を見ていこう。まずは「Lv3 何が何でも反対」への対応だ。
【レベル3「何が何でも反対」に対応する】
このレベルになると、合理性を欠いた反対が横行する。
会社全体では効果が高い施策について「大変になる部署があるから、やりたくない」という全体感を欠いた主張もある。めったに起こらないリスクを挙げて「リスクが大きいから、実行すべきでない」と強硬に主張する場合もある。
もっとひどい屁理屈としか言いようのないことで、変革に反対する方もいる。
以前、施策の是非を検討するシーンで「理由は説明できないが、とにかく嫌なんだ」と面と向かって言われたこともあるし、「全体としてはいい変革だと思いますが、この部分はやるべきではないと思います」と、その方の部署が担当するところだけ変革を拒否されたこともある。
今の業務に思い入れがある、とか、現在のシステムを全部設計してきたプライドがある、とか、改革を推進する人が嫌い、とか、いろんな事情によって、「とにかく反対」状態になっているのだ。
これらに丁寧に反論していくのは非常に骨が折れるが、変革プロジェクトとしては我慢のしどころだろう。
理性的な判断力を取り戻してもらうために、様々なしがらみを超えて客観的な判断をしてもらうために、僕がよく使う7つの工夫を紹介しよう。
①自分のことではなく、他人事としても考えてもらう
人はとにかく変化や不確実なことを嫌う。
心理学や行動経済学の実験では、「将来手に入ると期待されるものよりも、現在持っているものを大事にし過ぎてしまう」という、人間の不合理な性質が実験により何度も確認されている。
人間はそもそも合理的には判断できない生き物なのだ。だから、現在の業務やシステムに問題があったとしても、実際以上に価値があるように感じてしまう。そして変化への一歩が踏み出せなくなる。
今の立場から離れて考えて貰うために、こんな問いかけをしてみると良い。
「今、この業界に新規参入する会社が、ゼロからこの仕事を設計するとして、やっぱり同じようなやり方をしますかね?」
これはなかなか効く。自社のしがらみを一旦取っ払って考えることができるので、現状維持から抜け出すきっかけが作れる。実際、「いやー。だったらこんな業務にはしないよ」と言ってくれることも多い。そうなればすかさず、「なるほど、どうしてでしょうか?」と掘り下げていけばいい。そのあとで大抵は「でも、ウチの現状では無理だな」と言われるが、話のきっかけとしては良い。
他にも「ライバルのA社さんだったら、同じようにやりますかね?」、「仮に組織の制約がなかったとしたら・・・」「仮にあなたが社長だったら・・・」など、仮定を無理矢理おいて考える事を促すことは有効だ。
②「現状の悪さ加減」ではなく「将来どうするべきか」に話を向ける
「現状に課題がある」と言われると、すごい拒否反応を示す人がいる。長年第一線で頑張ってきた方ほどその傾向が出る。いままでやってきた努力が否定されるような気がするのだから当然といえば当然である。私達は、現状調査や課題分析の時にとても気を遣う。「今の状況が問題であるか否か」で時間を使うより、「将来に向けて改善の余地があるのかどうか」を語る。相手が現状にこだわりを持っている方なら特に。
これまで積み上げてきたものが問題か、そうでないかの押し問答をするのは時間の無駄で意味が無い。現状がどんな経緯で作られたのか、いかに妥当な判断だったのかをひたすらに説明されるのが落ちだ。過去の話は極力少なめに。「いま発生している問題は、このプロジェクトをキッカケに解決しなくて良いのか?」「このまま放っておいていいのか、改善に向けた検討をすべきなのか」問うのだ。
一方で強烈な自己反省がプロジェクトの原動力になるケースもある。本来はこちらの方が健全だが、生え抜きの社員だったり、現場業務への思い入れが強い方ほど受け入れるのが難しいのも事実である。
状況を見ながら使い分けたい。
③数字で語る
実は、感情論から脱出し客観性を取り戻すには、「数字で語る」のが一番手っ取り早い。なぜなら数字には感情が乗らないからだ。
現状調査の時に数字で語るちょっとしたコツがあるのだが。以前の連載「数字で現場を納得させる改革術 第一回」で解説したので詳しくはそちらを参照してもらいたい。
とにかく徹底的に数値化しておくと何かと使えて後が楽だ。
④不満を見える化する
頑なな批判をする人が多かったプロジェクトでは、「不満や懸念点を洗い出す」ことだけを目的に、会議を2 時間もやったことがあった。不満や不安は、洗い出して誰の目にも見えるようにしておかないとどんどん膨張していく。
東日本大震災で中断していたプロジェクトが再度動き出したときのこと。施策は中断前にだいたい固めていたのだが、1年近く中断していたため、検討メンバーの大半が入れ替わってしまった。そのせいもあり、固まりかけていた施策プランに対して、懸念や不満の声が続出した。
このままでは一丸となって施策を実行できない。そのため、不満や懸念を自由にぶちまけてもらう会議を開いた。それぞれの立場から40 個ほどのリスクが出され、整理して優先順位を付けた結果、「今後、対応していくべきリスク20 個」が会議の成果として残った。これが、この時点でのリスクの全てということになる。
こうした見える化は、発想の転換を促す。「アレもコレも問題だ! 絶対成功しない」という後ろ向きなマインドから「この20 個さえ解消できれば、いい施策になるよ」という前向きなマインドに変化する。さらに、どこか"お客様"モードだった新メンバーも、加入前に検討していた施策について深く議論することで、腹に落ちたようだった。
もちろん、マインドの変化だけでなく、今後起きるであろう問題に先んじて手を打つことができた。挙がったリスクに対して1つずつ真摯に対策を講じ、リスクを最小化していった。
この会議を開かずに、不安や懸念が新メンバーの頭の中だけにしまわれていたら、どれだけ効果が期待できる施策であっても、絶対に支持されなかっただろう。
⑤将来を見据えて念を押す
この課題を5年放って置くとどうなるのか?を示す方法だ。「5年後にはこんな状態になるが、それでも今改革せずに先延ばすのか?」と問いかける。何かを変えるリスクは語られても、何もしないリスクはなかなか語られないものだ。
⑥反対意見を撤回しやすくする
一度「反対」と宣言してしまうと、引くに引けない状況に追い込まれてしまう。
自分の行動(反対)を正当化するために、反対につながる情報だけを集めたり、反対につながる情報を重要視したりしてしまう。宣言が強ければ強いほど、大勢の前で「反対である」と宣言すればするほど、その傾向は強くなり、頑なな抵抗勢力になってしまう。
こうなったら、宣言を撤回しやすい雰囲気を作るしかない。
「あの時と、前提が変わりましたからね。今の状態だと賛成してもらえるんじゃないかと、ちょっと期待しているのですが」
「あの時は、この情報をちゃんとお伝えできてなかったんですね。すみませんでした」
などと、一言添える。議論に勝って相手をやり込めるのが目的ではないのだから、間違っても「おや? 反対って言われてましたよね? ご意見を変えるってことでいいですか?」なんてやらないようにしたい。
⑦代役を立てる
それでも無理なら代役を立てる。
手を尽くしてもなかなか信頼されないこともある。時間がなくて信頼を勝ち取れないこともある。そんな時は、既に信頼を得ている別のメンバーに窓口になってもらう。同じ話でも説明する人が違うと、全然受け取られ方が違う。必ずしも自分が信頼される必要はない。
あるプロジェクトでは企画部門の方が業務改革のリーダーだったが、現場の方からは「俺らより業務のこと知らない奴じゃ、話にならんやろ?」
という目で見られているようだった。なぜか最初から喧嘩腰である。
この時は施策プランを説明したり質問に答えるのは、プロジェクトリーダーがつとめたが、施策のメリットを強調したり、現状から脱却することの大切さを説明するのは、別のプロジェクトメンバーが担当した。その方は以前にその部署にいたので、「現場を分かってくれている同志」と映るからだ。
「だれが話そうが、良いプランは良いプラン」というのは、なかなか通じない。組織を動かすには「だれの口から話されるか」も中身と同じくらい重要なのだ。
【レベル4「潰しに掛かる」に対応する】
次は最後のレベルに対する対応だ。このレベルでは露骨な反対運動が行われる。公式の場では何も言わなくても、裏で「アレは上手くいかない」「俺は最後まで反対する」と言って回る人もいるし、役員、経営陣にあることないこと吹き込むケースもある。
正直、ここまで来るとできることは限られるのだが、数少ない対処方法を見ていこう。
①各個撃破する
「おれの周囲はみんな反対している」と嬉しそうに言う方がいる。自分の行動を他者の言動に合わせる、または近づけることを「同調効果」というのだが、反対の後ろ盾があると、深く考えずに反対してしまうことがある。
こういった場合は一人一人と膝を付き合わせて、しっかり話をしよう。
会議のようなオフィシャルな場ではなく、席に行って個別に話すと「○○さんが大反対しているでしょう? 僕は彼ほど反対じゃないんだけどね。懸念は一つだけだから」といった流れになることが多い。ここまで話ができればしめたもの。きちんと懸念を払拭して、賛成側に付いてもらおう。
反対派が大勢を占めていると辛いが、個別訪問が進んで賛成派が大勢を占めてくれば、賛成側の同調効果を期待することもできる。本当の抵抗者を切り分ける作業、と言ってもいい。
②最後はトップダウン
最後は、Topの力を全面的に借りるしか無い。
Topからガツンと言ってもらうのはもちろんのこと、場合によっては人事権を発動してもらうことも必要かもしれない。数人の抵抗勢力のために、全社として重要な取り組みを潰させるわけにはいかない。
だが、それには日頃からTopにプロジェクトの意義や効果をきちんと伝えて、味方になってもらう必要がある。
以上、頑固な抵抗への対処方法を見てきた。対応方法の少なさを見ても分かる通り、レベル4になってしまったら、手遅れと考えてよい。ここまで来ると全面対決を避けるのは難しくなってしまう。何としてでもこの手間で食い止めよう。