敵は社内にあり!第3回:隠れた抵抗を見逃すな~隠れた抵抗こそすべてのカギ~
抵抗勢力との向き合い方シリーズ、第3回目は「隠れた抵抗を見逃すな」
抵抗は隠れている。隠れた抵抗を掘り起こし見つけてくる事が重要なのだ。今回はそんなお話。
「抵抗勢力との向き合い方」日経BP社
この本からの抜粋です。
隠れた抵抗を見逃すと「急成長」する
隠れた抵抗とはどんなものか?ピンと来ない人もいるだろう。これを見逃すとどうなるか。実際の例を見てみよう。
~~隠れた抵抗を見逃した事例~~~~~~
ごく一部のメンバーでプロジェクトを立ち上げ、プロジェクトの狙いやゴールについて議論したときのこと。その後、本格的に現状調査を始めようという段階での出来事だ。プロジェクトに新たなコアメンバーのAさんが参画してきた。現状調査を進めるうえで重要なキーパーソンだった。
Aさんにお会いし、プロジェクトの目的や進め方を時間をかけて説明した。その席でAさんはこんなことを言っていた。「うん、まあ、いいんじゃない?でも少しだけ・・・。まあ、いいのか。うん、いいですよ。頑張ってやっていきましょう!」
Aさんは少し引っかかるところがありそうだったが、私たちが丁寧な説明をした甲斐もあって、納得してくれたようだった。新しいコアメンバーがプロジェクトの主旨を理解し、前向きに取り組んでくれることが大事だったので、私はこのときホッと胸をなで下ろしたのを覚えている。
しかし、これが甘かった。3カ月後、Aさんはこんな発言をしていた。「最初からハッキリ言っているが、このプロジェクトはうまくいかない。コンセプトが悪いよ」
正直、困惑した。「最初からハッキリだって?最初の説明では納得していたじゃないか」と思ったが、それはあとの祭り。最初の段階でAさんの違和感を拾ってケアできていたら、こんな発言にはならなかっただろう。
いつものことだが、この事例は実際に起こったことをそのまま記載している。・・・この話をするたびに当時の事を鮮明に思い出す。なかなか派手に失敗したものだ・・・。
さて、隠れた抵抗を見逃すとはこういうことだ。この程度の微妙な兆候をしっかりと拾ってケアしておかないと、あっと言う間に頑強な抵抗に変わってしまう。言い換えると、この程度の兆候をしっかり拾えないとプロジェクトにとって致命傷になりかねないと言うことなのだ。
にも関わらず、そんな風に「隠れた抵抗」を重要視している人はほとんどいないのが現実だ。「隠れた抵抗」がいかに恐ろしいものか、肝に銘じておいてもらいたい。
では、どうやって対応すればいいのか。実は抵抗の兆候を拾いまくり、1つずつケアしていくしか手はない。「拾う」と「ケア」には対応が幾つかある。
兆候を拾う1:オンセッションでアンテナ立てる
僕は会議の参加者の様子を相当見ている。観察し過ぎじゃないかと思うほど見る。参加者が腕組みをしたり、首をかしげたりしていないか。つまらなそうな顔をしていないかなど、とにかく見る。そうやって少しでも不穏な動きを感じたら、すかさず尋ねる。「もしかして、この進め方は気に入りませんか?」とか、「今、怖い顔をしていましたが、この案に違和感がありますか?」という感じだ。
特に何も考えず、ただ単に腕を組んでいただけかもしれないが、常に最悪のケースを想定するようにしている。私の思い過ごしなら、それでいいのだから。隠れた抵抗に気づかず、見過ごしてしまう方が怖い。
何もなければ「いやー、大丈夫ですよ。気にしてくれてありがとう」なんて言われることもある。逆に何かあれば、「大した話じゃないんだけどね、今のところが少し理解できなくて」と結構正直に話してもらえる。
僕が普段気にしている参加者の言動を図1にマッピングした。ここに示したものは全て、抵抗の予兆と捉えていい。該当する動きがあれば、気にして拾うとよいだろう。
兆候を拾う2:オフセッションで話す
もう一つの方法は、「オフセッション」の活用だ。僕は必ず、会議が終わった後に参加者の席まで行って、雑談してくる。話のきっかけは何でもいい。「さっきの会議はどうでしたか?分かりづらいところはありませんでしたか?」と素直に聞いてもいいだろう。「いいタイミングで助け舟を出していただき、助かりました」でもいい。
そして話のなかで、会議中には遠慮して言えなかったことや分かりづらかった部分がないかを確認する。会議の時間は限られているし、議論の流れを妨げないようにと気を使って発言を控えている人も多い。
正式な会議では発言のハードルが高くなるけれども、それ以外の場なら大したことがない話でも気軽にしやすくなる。これを私は「オフセッション効果」と呼んでいる。こうしたちょっとしたことや些細なことを拾い上げるのが、隠れた抵抗を拾うことにつながる。
兆候を拾ったら次は「ケア」しなくてはいけない。こちらも2つある。
ケアする1:共感する
ケアの基本は、よく聞いて共感することだ。モヤモヤしていることも誰かに相談したら、それだけで解決するかもしれない。誰しも経験があると思う。ため込むのが一番よくない。思っていることを吐き出してもらうだけで全然違う。そして話を聞いたら共感して欲しい。「そうですよね」「確かにわかりづらかったですね。すみません」でいい。大事なのは、気持ちよく吐き出してもらう場を作ることだ。
何か話を聞くと、すぐに自分の正当性を主張したくなるがそれはダメだ。相手の話を「聞いたフリ」をして反論の糸口を探す行為だ。相手にもすぐに見抜かれる。「ああ、この人、私の話なんて聞いてないんだ」と。
しっかり相手の話を理解すること。心の底から共感する事が第一歩になる。
ケアする2:共有する
兆候が拾えて、共感できたら、後は共有すればいい。
プロジェクトで発生する抵抗の原因は、大半が情報共有不足によるものだ。「知らない」ことが生む疎外感はすごく強烈。疎外感は不信感につながり、不信感は抵抗へと変わる。現場担当者に業務のヒアリングに行くと、私はほぼ毎回こんなやり取りをする。象徴的なシーンを紹介する。
私「・・・というわけで、業務の課題を洗い出すためにヒアリングをさせていただけないですか?」
担当者「いいんですけど、どうせシステムをちょこっと改修するだけの話でしょ。システムの使い勝手なら、定期的に情報システム部に聞かれていますけど」
私「いや、そうじゃないんです。今回は業務の在り方から抜本的に見直しをする計画なんです」
担当者「へえ、初めて聞きました。てっきりシステムの話なのかと。確かに業務は見直すべきだと思います。ただ、毎回ヒアリングをするだけして、何も変わっていかないんで、今回も聞くだけ聞いて終わりなんじゃないですか」
私「今回はそうならないように、○○な進め方をします。うかがった内容は、一覧表にまとめて優先順位を付けて対応しますよ」
担当者「なるほどね。そういう説明を今まで誰もしてくれていないんだよね。それならちゃんと問題点を話しておかないとな。業務を変えるチャンスだし」
このタイミングで情報共有ができていなかったら、この担当者はプロジェクトを敵視したまま、抵抗勢力になっていただろう。ここで大事なのは「説得」ではなくて「共有」ということだ。決して説き伏せるのではない。必要な情報をただただ、丁寧に伝えるだけ。説得しようとすると上手くいかない。
コミュニケーションは難しい。相当意識してコミュニケーションしないと不足してしまう。私が直接話に行けば良いケースもあるけど、上司から話してもらわないといけないケースも有る。部門間で話してもらった方が良いケースも有る。部下から上司に、というケースだってある。
コミュニケーションパスは複雑だし、見えづらい。だから、事前に設計してしまおう。ケンブリッジではコミュニケーションプランと呼んでいるのだが、いつ、誰から誰へ、どんな媒体で、どんな内容を伝えるのか、細かく設計してしまう。コミュニケーションは事前に設計する。これが共有不足を防ぐ唯一有効な方法だ。
隠れた抵抗への対応方法を見てきたが、正直、多くのプロジェクトで「隠れた抵抗」が軽視されていると思う。
ここを放って置くから上手くいかなくなる。「隠れた抵抗」という言葉がプロジェクトの常識になってくれるといいのだが。