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伊藤洋志著「ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方 」を読みました。

伊藤氏は、戦後日本の高度経済成長は仕事の多様性を切り捨てて業種を絞り込むことで実現したと位置づけ、その絞り込みが曲がり角に来たのが現在の日本の姿と捉えています。長い歴史の中では、大部分の人が組織に所属して単一の仕事をやるという生活様式こそが、むしろ特殊であるという立場です。

この本の中で繰り返されるキーワードは「バトルタイプ(戦闘型)」と「非バトルタイプ」です。

すなわち、これからの仕事は、働くことと生活の充実が一致し、心身ともに健康になる仕事でなければならない。

しかし、現在「新しい働き方」として提唱されているのは、これからさらにグローバル化が進み競争が激しくなる。だから世界に通用する高いレベルで能力を磨き、自分自身を広告的に宣伝し、稼げる仕事をしていこう、おおよそこんな考え方が大半ではないか。

グローバル社会で全世界を相手にした殴り合いの競争をして健康が実現できるのは、かなりのバトルタイプ(戦闘型)だけだ。

非バトルタイプ向けに伊藤氏が提案するのは「ナリワイ(生業)」です。ナリワイは、派手な資金調達をしてでかい仕事をめざす恐竜ビジネスモデルではなく、複数の小さな仕事を組み合わせて生活を組み立てていく微生物ビジネスモデルの自営業です。

「ナリワイ」は「生業」だから、生活でもあり仕事でもある。労働かと言われれば、やっていて楽しいということも大事な条件なので、単なる労働ではない。「ナリワイ」はあくまで、人生を直接充実させるような仕事を指す。

そしていきなりナリワイだけで生計を立てるのは難しいかもしれないという一方で、会社勤めでもナリワイを持つことは可能であり、それができれば収入を完全に会社に依存していたときとは全く違う景色が見えるはずと提案しています。また、ナリワイは会社で働く人だけでなく会社組織にとってもメリットがありそうです。

私は、ナリワイをやることによって、会社でも働きやすくなるのではないかと思っている。なぜかというと、ナリワイをやると、小さくても自力で一つの事業を立ち上げ、運営する経験が積める。これによって、会社で分業化された状態でも、他の部署のことが想像できるようになる。ナリワイ実践者が会社に増えれば、上司はもちろん部下であっても、運営の大変さや特徴への理解度が上がっているはずなので、運営しやすい組織になっているはずである。

日本のニートやフリーター対策は、職業訓練などで正規雇用をめざすものがほとんどです。自活力のある小さな自営業を始める方法を教えるということも日本の活力を高めるために必要なのではないかと思いました。

一般的なビジネス書であれば前振りの後は「稼げるビジネスの始め方」のような内容になるのかもしれませんが、この本のおもしろいところは、第2章が「人生における支出を点検し、カットする」となっているところです。

これは単にケチケチ節約生活をするのではなく、ナリワイの基礎鍛錬として「支出を面白くカットする」ことが目的です。

自分なりに不必要なお金を使わないような掟を設けて、その中でいかに痛快で豊かと思える生活を送るか、ここがナリワイ的生活の基本戦略だ。また、それは単に節約するということではない。もはやお金を浪費して何か快楽を買う、というのはむしろつまらないのである。いかにお金を費やさずにやるか、こっちの方が面白い。

具体的な動きとして著者が挙げているのが、外食でなく家でのむ「宅飲み」や車を持たない人です。若者に車を買ってもらうにはどうすればいいかという議論がありますが、若者自身は車を買わずにどうやって楽しむか、を考えているのかもしれません。考える出発点が変わってきている可能性があります。

そして3章以降いよいよ「ナリワイをつくろう!」「ナリワイをやってみる」と続きます。

この本はハウツウ本ではありません。読んでそのまま実行するのではなく、結局は自分で考えることになります。その参考になる興味深い事例が紹介されています。続きは本書をお読みください。

会社勤めはよく犬に例えられます。犬とバトルタイプの相性は良さそうです。一方、ナリワイは猫のイメージがあります。この本は猫的な暮らし方を考えている方にお勧めします。

なお、伊藤氏の師匠にあたる藤村靖之の著書「月3万円ビジネス」と合わせて読むと理解が深まると思います。どちらも気軽に読める内容です。夏休みの読書にどうぞ。

テクネコ

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加藤和幸

加藤和幸

株式会社テクネコ 代表取締役。
ITを売る側と買う側の両方の経験を活かして、CRMとCMSのコンサルティングを中心に、お客様の”困った”を解決します。

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