« 2009年4月22日 | 2009年4月23日の投稿 |
2009年4月25日 » |
2日目に聴いたセッションで最も興味深かったのは、「ブランド、プロフィット、コスト、デザインを追求するWebコンテンツ管理とは」と題したパネルディスカッションでした。ずいぶん欲張ったタイトルですが、一言で言えば、企業のコンテンツ管理はどうあるべきか、という内容でした。
パネラーは、ソシオメディア株式会社 代表取締役社長 篠原氏と、楽天株式会社 編成部 清水氏でした。モデレータは、日本オラクルの渡邊 担当シニアマネージャーでした。
始めに渡邊氏からオラクルが考えるCMSについて、説明がありました。以下は、要約です。
これまでの横並びでWebサイトを持つという意識から、Webサイトを広告チャネルとしてフルに活用しようという方向へ変わってきています。
Webサイトは、顧客1人あたりのコストが安いです。いかに競合より早く発信できるかが重要な、スピード時代になっています。企業価値を向上させるツールでもあります。
シングルソース・マルチユースですべてのコンテンツを統合しなければいけません。ターゲットに応じたサイト作りが必要です。企業の不祥事の対応や期限切れコンテンツを削除するなど、リスク管理を考えなければいけません。
オラクルは、OpenとFlexibleがキーになると考えています。
Openは、様々な言語や開発環境などに対応することです。Flexibleは、柔軟性のあるアーキテクチャや、コンテンツとデザインの分離を意味します。iPhoneなどでどこからでも入力できるようにすることを含みます。
続いて、パネルディスカッションになりました。以下は、興味深いと思った発言の抜粋です。
コンテンツとは、人が人に何かを伝えるために編集したデータの集まりである。
CMS(Contents Management System)はシステムではなく、考え方・概念と捉えた方がよい。
ECM(Enterprise Contents Management)は、大企業だけのものではない。小さい企業を含む企業のコンテンツを管理するのがECMである。
CMSは、Webだけを管理するためのシステムではない。Webを管理するのは、WCM(Web Contents Management)である。
企業全体を取り巻く情報に目を向けるべきだ。
コンテンツ管理は、コンテンツのライフサイクルを生成・管理すること。(既存データの)収集、管理、発行(発行先はWeb、マニュアル、企業パンフレット、シンジケーション)の3つで構成される。
ブランディングにはWebサイトのユーザインタフェースが大事。40サイトがある楽天では、UIガイドラインを作って、編成部がグループのサイトを監査している。
データベースのデータを正規化すると同様に、同じものをあちこちに置かないようにする。データはデータベース、コンテンツはCMSで一元管理する。
コンテンツ管理でたいへんだったのは、中身のコンテンツをきれいにすることだった。コンテンツの整理と部品化は時間がかかる。楽天では、定義・収集・整理・加工・入力に2年かかった。
シングルソースにしておくことが重要。伝えるべきコンテンツに魅力があり、使い回せる状態になっていること。
現状のコンテンツの分析フェーズを考慮する。誰のためにどういう用途で使われているかを把握する。
情報アーキテクチャ(情報を整理する仕組み)を持つ。分類のやり方や順番に目を向ける。DITAを参考にするとよい。DITA(Darwin Information Typing Architecture)は、技術情報を制作・発行・配布するためのXMLに基づいたアーキテクチャの標準規格。
ROIを考える前に、売上や手間などの目標をKPIとして定めるべき。
貯めるべきはコンテンツであり、システムではない。CMSを導入した結果、デザイン、ユーザインタフェース、ワークフローを変えにくくなるようではよくない。
変更に強いCMSを選ぶべき。将来の乗り換えを想定して、構造化されたコンテンツを切り出す方法を考えておく。
DAM(Digital Asset Management)、DRM(Digital Rights Management)、自動組版などを組み合わせるかどうかの全体ITプランを持つ。
Webサイトの構築はデザイン面に目が向きがちですが、実は普通のシステム構築と同じだと理解しました。CMSソフトウェアを導入しただけでは、コンテンツ管理はできないということです。なんだ、そういうことだったのかと、目からウロコの思いでした。たいへん参考になりました。
基調講演が終わると、21部屋に分かれて並行して行われるセッションが始まります。3日間のセッションの総数は、200を超えます。朝から夕方まで通しで参加すると、昼食の時間がないくらいです。
その中から、「プロにきく!失敗しないSiebel CRM導入 - プロジェクト成功のための秘訣」を聴きました。1日目に参加した中では、このセッションが一番興味深く、私にとって役に立つセッションでした。
Siebel CRM導入プロジェクトの秘訣となっていますが、Siebelにしか使えない話ではありません。他のCRMパッケージの導入や一般的なシステム構築プロジェクトにもあてはまる内容でした。
スピーカーは、日本オラクル カスタマーサービス統括本部 行本真吾氏です。以下は、要約です。
Siebel CRMの導入プロジェクトが失敗する問題エリアは、以下の5つに分類されます。
戦略・経営的
戦略との不整合。部分最適化。各組織の不明瞭な責任。
ガバナンス
不十分なプロジェクト計画。成果物の不足・品質不足。不明確な体制と責任。定量化されていない進捗状況(例 進捗率90%がずっと続く)。
テクノロジー
過度のカスタマイズ。アドオンが増える。拡張性の方針やポリシーがない(要求を積み上げた結果、スパゲティ状態になる)。パフォーマンスの考慮不足。
ビジネスプロセス
ビジネスプランがない(全体効果が出ない)。部分最適化(ある部門/あるユーザのためのシステムになってしまう)。不明確なビジネスプロセス(勝手な運用で効果が出ない)。KPIの定義ができてない。
人的
経営層のかかわり不足(最初だけ関与して、後はメンバーにお任せ状態)。業務部門主導/IT部門主導(業務部門主導が過ぎると要件がふくらみすぎる。IT部門主導が過ぎると必須要件が抜ける。バランスが重要)。旧来のユーザインタフェースにこだわってしまう(次のシステムも前と同じ画面にしようとこだわり過ぎると、外部システムに依存してしまう)。業務部門の参画不足。プロジェクトの要員不足(要件がふくらんでも要員が増えない)。
5つの原因の割合はほとんど同じで、それぞれ20%ずつだそうです。実に8割がテクノロジー(技術的な要因)と無関係なところに原因があることになります。いやー、全くその通りです。どこも同じ悩みをかかえているものですね。
このようなトラブルに陥らないようにするための秘訣を説明していただきました。
戦略・経営的
ビジョンが必要。長いスパンでの展望・目的の共有化。評価可能な目標・メトリクス。各組織の権限・責任の明確化。
ガバナンス
レビューの指標・条件・体制の明確化。フェーズ移行条件の明確化(内容がどこまでできたら次へ進むかを決める)。意志決定の指針・ルール。コンフリクト発生時の優先度の設定(例 納期、機能性、利便性のどれを優先するか決めておく)
人的
経営層のかかわり強化(例 定期的に経営層に報告する)。組織の見直し・最適化。ユーザに対する価値の明確化(企業全体にとってのメリットやユーザにとってのメリットをユーザに明確にする)。ユーザサポートの仕組みとフィードバック(この問題はこうやって解決しますと説明する、ユーザに参画意識を付ける)。チェンジマネジメント推進者の設置(企業全体として推進者が見ていく)。
ビジネスプロセス
戦略・目的との一貫性。メトリクス・KPIの設定(測定可能であること、例 収益や顧客維持率)。全体最適なビジネスプロセスの改善・最適化。パッケージのベストプラクティスの最大限利用(パッケージの機能を最大限使う)。
テクノロジー
製品機能の充分な理解(オラクルパートナーだけでなくユーザも理解が必要。例 Siebelのデータベースモデルやオブジェクト概念、等)。高度なカスタマイズを減らす(なるべくパラメータ設定でできる範囲で)。早い段階から常にパフォーマンスを意識する。各種情報の活用(オラクルWebサイトなど、技術者個人以外の情報を活用)
CRM導入の目的は、以下の3つの1つまたは複数です。
課題の解決
例 システム乱立の解決。属人的な業務の改善。グローバル対応。コンプライアンス・セキュリティー対応。
顧客満足度の向上
提案力向上。企業としての応答時間短縮・応答率向上。サービス対応。顧客満足度向上。
収益率の極大化
アップセル・クロスセル。
以下のような場合、失敗するリスクがあります。
当初の目的以外に重点が移ってしまう
例 ユーザのために無理に一画面に全てのデータを納めるようにしてしまう。
CRMではなく業務システムになってしまう
例 契約管理システムになってしまう。
フロントシステムになってしまう
例 既存システムのフロントシステムを構築することが目的になってしまう。
その他
例 過度なユーザインタフェースの要求をする、既存システムのデータモデルやプロセスを踏襲する、等。
テーマがCRMであることを忘れてしまうと、以下の弊害が起きる原因になります。
- プロジェクトの長期化
- コスト増大
- パフォーマンス低下
- 教育や展開が困難 -- 一人のユーザが使いこなすのが難しくなる
結果、以下のようなことになります。
- 費用対効果が悪い
- ユーザが疲弊する
- 部分最適の繰り返しになる
- アップグレードが困難になる
このようなことにならないようにするには、将来の展望を描き、フェーズドアプローチ(フェーズ分けして実装していく)にすることが重要です。 iHelpやTask Base UI等のユーザ支援機能を活用することも大切です。
注)SiebelのiHelpは、画面毎に業務の流れを表示して、入力すべきフィールドやボタンの色が変わる。
いかがでしょうか。私自身のこれまでの経験と照らし合わせて、納得することの多いセッションでした。
基調講演の2人目は、日本ヒューレット・パッカード株式会社の小出代表取締役でした。
HPとオラクルは、データウェアハウス用のOracle Exadata製品ファミリーを共同で開発しました。日本では1月に発売開始になったばかりです。今回のOracle OpenWorldでは、NEC、日立、富士通の3社がDiamondスポンサーになっています。HPはさらに別格のMarqueeスポンサーです。
HPと同じハードベンダーであるSUNをオラクルが買収したことで、HPは微妙な立場になってしまいました。小出社長もそのへんのところは了解済みで、講演の冒頭で「『こんな状況になって、小出さん、本当に基調講演やるの』と周りから言われました。」と言って、会場の笑い(苦笑)を取りました。まずはつかみはOKです。
以下は、要約です。
HPはワールドワイドでオラクルのベストパートナーです。オラクルとは30年のアライアンスの歴史があり、HPとオラクルを使っている14万の顧客が世界中にいます。
日本ヒューレット・パッカードは、2002年にCOMPAQを統合し、2008年にはEDSを統合しました。社員数は5,800名、売上高は4,456億円です。
HPの製品は、ブレードサーバーのシェア50%以上、PCサーバー(x86)の38.2%、Unix/Linux/Windowsサーバーの32.7%を占めています。オラクルデータベースの41%がHPのインフラです。また、オラクルアプリケーションの46%がHPのインフラです。
HPの戦略は以下の3つです。
- お客様の役に立つテクノロジーソリューションの開発
- 業界標準をリード
- 業界でトップの地位を確立
HPはこれまで多くの企業を統合してきました。その経験から、人事アプリケーションはワールドワイドで95%まで共通化できる、ことがわかりました。HPでは、人事システム(IT)とビジネスプロセス(人事施策)を統合して、インドに集約しました。PeopleSoftを使った1つのポータルシステムで、全世界、13カ国語をサポートしています。
パソコンの管理やプリンターの管理で、コストを削減しました。
2005年のITコストは、売上の4%に相当しました。しかもITコストの60%は運用維持に使われ、10%は管理されていないITに使われているシャドーコストでした。従業員のパソコンの機種を統一し、集中的に管理するようにした結果、IT改革によりコストを半減することができました。日本ヒューレット・パッカードの約6,000人の従業員のうち、IT要員は数名しかいません。データセンターに統合されました。
サイロ(プロジェクト毎の個別インフラ)から、シェアードサービスにする必要があります。次世代データセンター(Next Generation Data Center)で重要なのは、仮想化、自動化、省電力化です。
仮想化
シェアードサービス推進の手段です。
自動化
1人のオペレータが管理するサーバーの台数は、2005年には25台でしたが、2008年には330台になりました。クラウドでは自動化が必要です。自動化することで、人為的ミスを圧倒的に削減できました。
省電力化
クラウドを構築するデータセンターは、省電力化されて高効率なファシリティーである必要があります。
仮想化、自動化、省電力化は、他のセッションでも聞きました。クラウドコンピューティングと次世代データセンターのキーワードになると思います。
« 2009年4月22日 | 2009年4月23日の投稿 |
2009年4月25日 » |