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プロジェクト管理のための代表的なソフトウェアと言えば、マイクロソフトProject 2007(以下、Project)です。Projectをインストールして最初に起動した時に表示されるのが、ガントチャート(バーチャート)です。

画面の左側には、WBS(Work Breakdown Structure)を構成するタスクを入力します。WBSとは、プロジェクトで実施する作業を細分化し、階層構造で示したものです。右側のカレンダーにタスクの開始と終了がバーで表示されます。あるタスクが終わらないと次のタスクが始められない場合は、タスクの依存関係を指定することもできます。依存関係が変わると、Projectは開始と終了を自動的に再計算してくれます。

例えばシステム開発のプロジェクトでは、「10月1日が本番稼働だから、4月が要件定義、5~6月が設計、7~8月が開発、9月がテストと移行準備…」等、大きなフェーズを最初に入力した後で、ブレークダウンしたタスクのスケジュールを入力している方が多いのではないでしょうか。

期限や使える人員に十分な余裕があるプロジェクトは、あまりありません。多くの場合、入力が終わってみると、タスクの前後関係の制約で、完了が納期のはるか後ろになっているのではないでしょうか。結局、「このタスクはこんなに日数がかからないはず」という希望的観測を元に、各タスクの日数を減らして納期に間に合うように調整していませんか。

深沢隆司著「ベースラインで成功するプロジェクトマネージメント」は、ガントチャートを使って計画を立てることが、プロジェクトを失敗させる原因になるとしています。計画を立てる段階でガントチャートで考えると、あいまいな目標、根拠のないスケジュール、非現実的な資源・環境になってしまう事が多いのです。

著者は、プロジェクトが計画通り進まないものであるということを認めた上で、だからこそ「計画」という活動が重要だと主張しています。計画を作成する時のツールして著者が薦めるのは、ガントチャートではなく、プロジェクト・ネットワーク図です。ネットワーク図は、「つじつまの合う順序関係で計画を作成する」という作業や思考を行うためのツールとして優れています。一方、ガントチャートはカレンダー上での実行時期や期間等については見やすいので、社内や顧客に”見せる”ためのツールに向いています。

バー・チャートのみで計画作成を行なう場合の問題点は、私の感じる限り2つあって、その1つは前項のとおり「計画活動そのものについての理解がなくても、それらしい計画に見えてしまう」ということです。見栄えがよすぎるのです。

そしてもう1つは、まさに「用途」についてです。どうしてもアクティビティ(注 Projectではタスク)間の順序関係を熟慮することがむずかしい表現方法なのです。

ネットワーク図であれば、あるアクティビティに直接続くアクティビティは何かということは一目瞭然です。バー・チャートでは、順序関係をいくら矢印で表現したとしても、わかりにくいものとなってしまいます。

本に書かれている進め方を要約すると、以下の3つです。

  1. アクティビティをモレなく詳細に定義する。
  2. チームリーダーといっしょに、アクティビティ毎に必要なリソースと日数を緻密に検討する。
  3. ネットワーク図を使ってアクティビティの前後関係を調整して、クリティカルパスを短くする。

このようにしっかりした計画を立てることで、プロジェクトの期間を短縮できるだけでなく、現場の技術者が無理な計画の尻ぬぐいで心を病んでしまうこともなくなると言っています。

WordやExcelと違って、Projectはソフトウェアの機能を理解しただけでは使いこなせないソフトウェアです。初めてProjectを使う方は、WBSとは何だろうとか、タスクをどの程度の粒度にすればいいだろうか等、悩むと思います。

この本では、著者の20年以上のプロジェクトマネージメントの経験とPMBOKのフレームワークを元に、無理のない計画を立てるノウハウが紹介されています。PMBOKの本と言うと抽象的で読んでいて眠くなることが多いですが、この本は実際の経験が伴っているだけあって説得力があります。ITのシステム構築に限らず、プロジェクトの計画を立てる立場の方にお薦めします。

この本に書かれていることを実践しようとした時に残念なことは、ネットワーク図を書くためのいいソフトウェアツールがないことです。

著者のお薦めは、MacintoshでOmniOutliner ProShared Planを使う方法です。Shared Planは、ネットワーク図を書くツールです。アウトラインプロセッサ機能がないので、OmniOutliner Proと組み合わせて使います。

この方法の弱点は、OmniOutlinerのWindows版がないことです。また、OmniOutliner ProとShared Planの間のデータのやり取りで、1行ずつコピー&ペーストするしかない所が、あまり美しいやり方とは言えません。

MacintoshではなくWindowsでいい方法はないものかと試行錯誤した結果、私は、MindMangerとProjectを組み合わせて使っています。

MindMangerはマインドマップ系のソフトウェアです。アウトラインプロセッサ的な使い方に向いています。MindMangerでタスクのリストを完成させた後で、MPX形式でエクスポートして、Projectで読み込みます。これなら、コピー&ペーストする手間はかかりません。ただし、Projectのネットワーク図は、タスクとタスクのサマリー等がいっしょに表示されるため、タスクの前後関係を考える用途では少し使いにくいです。タスクだけ表示する機能がProjectに追加されると、便利だと思います。

欲を言えば、マインドマップ形式、ネットワーク図、ガントチャートを自由に行き来できる専用のプロジェクト管理ソフトウェアが出てくることを期待したいところです。

テクネコ

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加藤和幸

加藤和幸

株式会社テクネコ 代表取締役。
ITを売る側と買う側の両方の経験を活かして、CRMとCMSのコンサルティングを中心に、お客様の”困った”を解決します。

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