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シロクマ日報の小林さんに教えていただいた<テレワーク 「未来型労働」の現実>を読みました。

テレワークという言葉には「ラッシュの電車に乗らずに自宅で悠々仕事」のバラ色のイメージがあるのではないでしょうか。果たしてその実態は、という本です。

まず著者はテレワークについて以下のように定義をしています。

そこで筆者は「情報通信機器の活用を前提に、従来の職場空間とは異なった空間を労働の場に含みながら、業務としての情報の製造および加工・販売の全部または一部を行う労働の形態」をテレワークの定義として用いている。「従来の職場空間とは異なった」という部分は、曖昧であるが、自宅の書斎や第三空間(職場と家庭の間にある空間、たとえば移動中の交通機関や喫茶店、取引先の事業所内の空間など)を指している。

この定義では私もテレワーカーということになります。一方、情報通信機器を活用して情報の製造および加工・販売を行うということで、自宅であってもモノ作りをする職人さんはテレワーカーではありません。

次に著者はテレワークを4つのタイプに分けています。(一部抜粋です。)

1.在宅勤務型
企業や役所などに雇われている従業員が、職場のオフィスだけでなく、自宅でも働くタイプ。まったく勤務先へ出社しない「完全在宅勤務型」や、週に何日かを在宅で働く「部分在宅勤務型」などのタイプがある。政府やマスコミが推進するいわゆるテレワークとほとんど同義語。

2.モバイルワーク型
営業系の社員などが移動中の乗物内や喫茶店、顧客先などで事務処理をこなすタイプ。

3.在宅ワーク型
自宅で仕事をするが、企業に雇われるのではなく、請負契約によって働くタイプ

4.SOHO型
SOHOとは小規模オフィスや自宅などで行う事業を指す。企業としての法人格を持っていることが条件になる。自宅にオフィスを設置するという観点から、テレワークに含めて考えられることが多い。

著者によると、テレワークは雇用形態によっても分けられます。1と2は企業に雇用されて働くタイプであるため「雇用型テレワーク」、3と4は請負または自営なので「非雇用型」テレワークとしています。そして、調査の結果、4のSOHO型はいわゆるテレワークと異なるということで、この本ではふれられていません。

著者は在宅勤務型とモバイルワーク型について、自宅での労働時間が無報酬の「自宅残業」になってしまう懸念があること、際限ない持ち帰り仕事でワークライフバランスが崩れてしまうおそれがあることを指摘しています。仕事を自宅に持ち帰って午前3時まで働くこともあったキヤノンの研究員が自殺した件について、労基署が過労自殺を認めたのは記憶に新しいところです。

在宅ワーク型については、「電脳内職」とも呼ばれる時間あたりに換算してあまりに低い報酬と、それでも働く人がいる社会的状況について懸念しています。

著者は社会学博士だそうですが、この本は事実や調査結果を細かく積み重ねてあり、悠々自適の在宅勤務や高い報酬の在宅ワークの事例もきちんと紹介されています。著者の強い主張や意見というのはほとんどありません。読み手の議論や判断に必要な情報を客観的に提供することを目的としているように思われます。テレワークについて議論するなら読んでおくべき本でしょう。

ただ、私は在宅ワーク型をテレワークに入れることに違和感を感じました。

在宅ワークについて著者は以下のように述べています。

主婦たちをおもな担い手とし、「電脳内職」とも揶揄される家内労働にすぎない在宅ワークを、テレワークに含めることに反対するテレワーク推進論者や研究者も少なくない。
しかし、在宅ワーク勤務やモバイルワークと同様、在宅ワークも情報通信機器とインターネットの一般化なくしては成り立ちえなかった労働形態である。また在宅ワークは在宅勤務やモバイルワークに先がけて普及し、テレワーカーの内にしめる在宅ワーカーの比率は圧倒的である。
在宅ワークに近未来的な明るいイメージがないからといって、それをテレワークから除外しようとする発想には共感できない。なぜなら冒頭で述べたように、テレワークの明るいイメージに惑わされることなく、テレワークに従事する人たちの現実の姿を伝えることこそが、本書の目的のひとつだからである。

この本では「雇用形態」と「労働空間」の2つの軸でテレワークを区切っています。私は自分自身が雇用されない独立事業者であるという立場から、雇用形態は労働空間よりはるかに重要な大きな違いであると考えます。在宅ワークが明るいイメージがどうかに関係なく、この本で言う在宅ワークは単に内職の一形態であり、たまたま道具としてパソコンやインターネットを使っているに過ぎないというのが私の認識です。

在宅ワークは給与をもらって働くパートタイマーとは違います。請負契約や出来高払いの報酬で働く個人事業主です。仕事を請けるか請けないか、いくらで請けるかは自分で決められます。逆に言えば、自分で判断や交渉をしなければ誰も守ったり助けたりしてくれないのです。よりよい条件で仕事を請けられるように常に自分自身で努力しなければいけません。

拘束時間に対して払われている雇用者の時給と、結果に対して払われている在宅ワーカーの報酬についての記述も微妙です。この本では始めのうちは、

したがって、この仕事の時間あたり報酬は、わずか六〇~七〇円という計算になる。

のように区別して記述してありますが、後の方になると、

ところが、請負制によって働く在宅ワーカーの場合、この最低賃金が適用されない。時給106円というような在宅ワークが存在するのは、請負労働だからである。

と、あいまいになってきます。

在宅ワークの報酬を単純にそれにかかった時間で割り算して「時給」としてしまうと、正しい議論ができなくなります。在宅ワークはその作業をいつやるか、何時間かけてやるかは自己裁量です。極端な例ですが、インターネットからアドレスを収集する仕事であれば、一つ一つ手作業でやるのではなく、ロボットソフトウェアに全自動で集めさせて自分は昼寝していてもいいのです。

自分が自営業であるという覚悟がなく、紹介会社から仕事が来るのを待っているだけ、しかも応募者が多すぎる単純な入力作業しかスキルがないのでは、報酬が安いのはしかたないことです。

著者は内職に適用される家内労働法による最低工賃制度を、在宅ワークにも適用することを提案していますが、同時に手作業的な作業の多くが人件費の安い海外に流出して、一般の内職で最低工賃制度が廃止される方向にあることも述べています。先日見たテレビの番組では、保険の申込書を日本でスキャナーで読み込んで中国で入力する企業の事例が紹介されていました。「上に政策あれば、下に対策あり」で、法律で規制しようとしても国内の工賃が上がれば海外に出て行くだけでしょう。

つまり、在宅ワークも世界と競争なのです。まさにフラット化する世界です。

本の最後には以下のように書かれています。

テレワークという労働形態の性質は本来中立的なものであり、テレワークだからかならず長時間労働や低賃金労働になるというわけではない。それらの問題が、激しいノルマや人件費の削減といったテレワークにとって外在的な要因に由来していることは、何度も述べてきた。

結局、企業がテレワークを採用するのは、まず第一にその企業にとってメリットがあるからです。よほどの大企業でない限り、社員の福利厚生や私生活の便宜は副次的なものでしょう。企業に雇用されてゆとりのあるテレワークをしたいのであれば、テレワーク向きの職種に付くことに加えて、多少のわがままを言っても会社に放り出されない付加価値があることが必要なのではないでしょうか。

在宅ワークも同様です。高い報酬と余裕のある納期を確保するには、誰でもできる仕事ではなく、自分にしかできない価値を提供できなければいけません。

ワークライフバランスの充実は、働き過ぎないように時間を自分で管理すること、管理できる状況にあることが必須です。そのためには自分をさらに高めてユニークな付加価値を付けることで、より高い報酬と時間的な余裕を得るしかないなあというのが、この本を読んで思ったことです。

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佐藤 彰男


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加藤和幸

加藤和幸

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ITを売る側と買う側の両方の経験を活かして、CRMとCMSのコンサルティングを中心に、お客様の”困った”を解決します。

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