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「歴史から明日を読む」をモットーに、ITと制度に関する話題をお届けします

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2005年12月27日の投稿

2006年1月3日 »

すでに加山恵美さんが書かれているが、わたしも個人情報の過剰保護によって国民の6割が「暮らしにくい」と感じているという読売新聞の調査に注目した。
12月27日付の同紙記事によれば、役所、警察、学校などで個人情報の出し渋りが起こり、「災害時に助けが必要な一人暮らしのお年寄りの情報が地域の民生委員に知らされない」「学校が児童・生徒の緊急連絡網を廃止した」といった安全面の問題や、「役所が懲戒処分の職員の氏名や退職者の天下り先を公表しなくなった」という社会的な不公正に対して懸念を抱く人が多かったという。
まったく同感だ。

今年4月に個人情報保護法が本格施行されて以来、社会生活だけでなく経済活動においても、人びとを困惑させたり萎縮させたりするような過剰反応を見聞きすることが増えている。
その結果、大木豊成さんが指摘されているとおり、最近ではむしろ個人情報の過保護の方が懸念されるようになった感がある。

個人情報の保護はほんらい、他人には触れられたくない私的領域つまりプライバシーを守るために不可欠な手段であるはずなのだが、それが金科玉条の目的に化していないだろうか。それだけではなく、もしかしたら、わたしたちは(個人)情報の保護にばかり神経を使いすぎて、肝腎のプライバシーやそれにかかわる人権への配慮を欠くような行為を繰り返していないだろうか。

こんなことを考えるようになったのは、「プライバシー保護と個人情報保護はまったく異なる概念である」と指摘する国際大学GLOCOMの青柳武彦教授の議論に触発されたからだ。青柳さんは「情報社会ではプライバシーを厳重に守ったうえで個人情報を自由活発に流通させるべきである」と主張し、現行法については「個人情報過保護法」であると断じている。
個人情報の活用や流通についてはわたしのほうがもう少し慎重な立場だが、プライバシーと個人情報を明確に区別して、現在起こっている個人情報保護の行きすぎを改めるべきだという意見には基本的に賛成だ。また、プライバシー権の定義が「そっとしておいてもらう権利」から「自己情報をコントロールする権利」に近年変わってきたが、それに対する批判もとても面白い。(詳細は「住基ネット研究フォーラム」サイトに掲載されている青柳武彦「個人情報保護に行きすぎ」lを参照)

ネットというサイバー空間における個人攻撃や誹謗・中傷、職場や地域社会というリアル空間におけるハラスメントなど、プライバシーにかかわる深刻な人権問題はいまも続いている。
この1年、顧客情報の大量紛失を理由に、日本企業の経営幹部がテレビカメラの前でそろって深ぶかと頭を下げる映像をわたしたちは何度も繰り返し見てきた。企業のずさんな個人情報管理を擁護する気はまったくないが、しかし、ほんとうに深く頭を下げなければならない事態はどこか別のところにあるような気がしてならない。
                                                                                                                     

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プロフィール

砂田 薫

砂田 薫

情報社会学の専門研究所、国際大学グローバル・ コミュニケーション・ センター(GLOCOM)の主任研究員です。
「情報政策の国際比較」「グローバル化とIT産業」に興味があります。

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