国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の研究員12人が執筆した本『未来を創る情報通信政策―世界に学ぶ日本の針路』がNTT出版から発行されました。情報通信政策とIT産業の未来を考える人に、ぜひお読みいただきたい一冊です。
<目次>
序章 グローバル時代の情報通信産業と政府の役割(関口和一)
■第1部 ICT利活用推進の鍵を探る■
第1章 ICT利用先進国デンマークに学ぶ
――行政、医療、教育の情報化(猪狩典子)
第2章 情報モラル教育からデジタル・シティズンシップ教育へ(豊福晋平)
第3章 子供に携帯を保有させるべきか
――6カ国国際比較からの示唆(田中辰雄)
■第2部 次世代インフラ基盤の実現にむけて■
第4章 ネットワーク中立性における共同規制の役割(渡辺智暁)
第5章 次世代ブロードバンド・アクセス網
――フランス・ドイツ・オランダからの示唆(アダム・ピーク)
第6章 全国ブロードバンド網に反映される
オーストラリアの通信自由化10年のジレンマ(上村圭介)
第7章 情報通信政策と政府の関係――台湾の独立行政委員会・
電波オークション・国際競争力強化から考える(庄司昌彦)
■第3部 イノベーションと新市場創出■
第8章 クラウドコンピューティングを超えて
――その上でどのようなビジネスを構築するか(中島洋)
第9章 アジアのオープンリージョナル化と情報通信産業
――グローバル時代の産業政策には何が求められるのか(砂田薫)
第10章 電子書籍と国際標準化(楠正憲)
終章 インターネットの未来(土屋大洋)
総務省から「平成22年版 情報通信白書」が公開された。http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/
白書は、第1部の特集と、第2部の統計データで構成されている。第1部の特集タイトルは「ICT利活用による持続的な成長の実現」で、(1)地域の活性化と絆の再生、(2)グリーンICT、(3)ICTによる経済成長と競争力強化、の3つのトピックが取り上げられている。地域、環境、経済の問題解決に向けて、ICTを戦略的に活用していこうというメッセージが込められている。
私も編集委員の一人として白書に関わったが、委員会では地域SNS、医療情報化、デンマークのICT活用など、さまざまな事例をもとに意見交換が行われた。そして、それが最終的な編集内容にも反映されている。また、一般公募のコラムには、コミュニケーションにまつわる感動的なエピソードが紹介されている。同じく一般公募のイラストもレベルが高く、楽しい。これらを見ていると、人間や社会のためにICTがあるという当たり前のことを、あらためて認識させられる。ぜひ、ご一読ください。
管直人首相が、強い経済、強い財政、強い社会保障の「第三の道」を提唱している。
もともと「第三の道」を提唱したのは、英国ブレア政権の理論的支柱となった、社会学の大家アンソニー・ギデンズである。ギデンズと渡辺聰子・上智大学教授の共著『日本の新たな「第三の道」』(ダイヤモンド社、2009年)によれば、英国は、国家による手厚い社会保障からサッチャーが主導した市場主義改革まで、振り子の大きな揺れを経験したあとで、第三の道という中道政治が選択されたという。ちなみに、日本はどちらも中途半端にしか経験していないので、著者たちは、市場主義改革と福祉改革の両方を同時に進めるべきだと主調している。まさに、その主調に沿った改革が現政権で実施されようとしているように見える。
日本政府の「第三の道」路線がモデルとして参照しているのは、経済と社会保障の両立に成功した北欧諸国のようだ。以下、デンマークの事例を紹介しつつ、日本が学ぶことができる点について考えてみたい。
昨年11月、私は国際大学GLOCOMの猪狩典子研究員、豊福晋平研究員と一緒に、デンマークの行政・教育・医療の情報化についてヒアリング調査に行ってきた。デンマークは、「効率」と「平等」の両立に成功した、人口550万人の小国だ。教育や医療は無料で受けられる代わりに、国民は重い税金を負担している。ギデンズと渡辺の著作にも紹介されているが、デンマークモデルとしてヨーロッパ諸国の関心を集めたのは、「フレクシキュリティ」とよばれる、流動性も安全性も高い労働政策である。日本と比べ、法人税が低く、解雇制限も緩い。それが外資系企業にとってはデンマークに進出しやすい条件になっている。また、労働者の方は、解雇されても、前職の収入とほぼ同程度の手厚い失業保険と再訓練の機会が提供されるため、失業しても生活の心配をせずに再チャレンジを図ることができる。むしろ、転職によってキャリアアップを図るのが普通となっているので、労働の流動性はきわめて高く、それが行政の効率化や産業のイノベーションを促す要因として働いている。
そもそも、私たちがなぜデンマークを調査対象に選んだのかといえば、世界経済フォーラムの「ICT国際競争力ランキング」で、2006年から2008年まで3年連続で1位に輝いたからである(2009年は、1位がスウェーデンで、デンマークは3位)。しかも、日本ではなかなか進まない行政・教育・医療といった公的サービス分野におけるIT利用がとても進んでいる。米国のように、グローバルに活躍するIT企業があるわけでもなく、日本ほどの高速ブロードバンドが整備されているわけでもない。それなのに、なぜ、デンマークがIT利用先進国となったのか、とても不思議だった。
デンマークは、教育と医療により多くの支出を振り向けつつ、同時に財政基盤を強化するために、行政の徹底した効率化を進めてきた。電子政府は、ワンストップの市民サービスを実現するだけでなく、行政コストの削減も大きな目的となっている。だから、行政機関が新たなに情報システムを導入する場合は、公務員の削減を前提として進められることが珍しくない。実際、国税庁をはじめ多くの公務員の削減がIT利用と並行して実行されてきた。日本では、失業に伴って生活を破綻させるリスクがあるため、セーフティネットが強化されない限り、この点はなかなか真似することができないだろう。
一方、デンマークのIT利用から日本が参考にできる点として、以下の4つがあげられる。
(1)官庁の縦割りの解消する電子政府推進体制:⇒行政の効率化とワンストップサービスの提供を実現するには、まず縦割りの弊害を解消しなければならない。デンマークでは、IT政策の最高意思決定機関として、国と地方自治体を横断する形で組織した「STS(Steering Commitee for Joint Cross Government Cooperation)」があり、その配下に推進チームの「デジタルタスクフォース」が置かれている。デジタルタスクフォースの事務局は財務省の中にある。情報システムへの投資効果を評価したり、過去のシステム構築のケーススタディを蓄積したりしているため、失敗しそうなプロジェクトを早く見極めるなど、IT経費の無駄遣いの排除に力を入れている。このように、予算を握っている組織事務局であるため、全体調整の力を発揮しやすいというメリットもある。日本も縦割りの解消については、そろそろ真剣に考えるべきだろう。
(2)小さく始めて横展開する:⇒電子政府でも何でも決して大掛かりに推進しているわけではない。むしろ特定の現場で開発して効果を発揮した情報システムを、横展開していこうという発想が強い。たとえば、政府から助成を受けた民間の医療情報システムの開発プロジェクトがあったとして、それが優れたものであれば、他の病院にも広げていくことを助成の条件とするといったことである。そのほうがバラバラのシステムを各地で導入するより、全体的なコスト削減にもつながる。
(3)開発・運用でユーザー自らが責任を持つ:⇒行政機関に情報システム担当の組織をつくるなど、ユーザー自身が責任を負う体制をつくっている。日本の行政機関のように、ITの専門家を置かず、外部のシステムインテグレーターに丸投げして責任を負わせるというようなことはしていない。
(4)ITをプロセスイノベーションのために導入する:⇒これは日本でも生産工場をはじめとしてすでに行われていることだが、デンマークは農業や環境対策においても、ITの融合によるプロセスの改善に力を注いでいる。
以上の4点をまとめると、なぜITを利用するのか、という点で日本とデンマークではアプローチが大きく異なっているように感じる。日本は、技術志向が強く(だから日本社会は常に最新の技術開発を促すという側面もあるが)、ITの導入・整備に重点を置きがちである。だから、日本では、ブロードバンドやパソコンの普及率や組織における最新技術の導入状況が重視される。それに対して、デンマークは経済や社会、組織の問題解決という視点からツールとしてITを活用することに重点を置いている。そのため、人件費の削減やサービスの向上が重視される。
さらに、市民IDと電子署名といった電子的なインフラが整っていること、小学校からITを利用した教育で国民のスキルが高いことも重要な要因となっている。
*国際大学GLOCOMのウェブサイトで、「ICT利用先進国デンマーク」の連載を開始しましたので、ご覧ください。http://www.glocom.ac.jp/column/denmark/
勤務先の国際大学GLOCOMで、機関誌『智場』115号を発行しました。
国際大学GLOCOMは2009年10月20日、「ICT、社会変革、オープンなネット参加」を主テーマとするイベント「GLOCOMフォーラム」を開催しました。智場115号ではそこでの議論の詳細レポートを掲載したほか、新たに論文と対談を加えて編集しました。
主な内容は以下のとおりです。
・巻頭論文「日本の社会変革は起こせるのか?―オープンな参加、ICTの可能性」(渡辺智暁)
・パネル討論「日本のICT活用のシナリオ:制度、組織、文化からの検討」(パネリスト:ケビン・ワーバック×夏野 剛×津田大介×石黒不二代×木村忠正、司会:渡辺智暁)
・対談:「オープンな議論、オープンなイノベーション、インターネットの役割」(ケビン・ワーバック×関口和一)
・論文「Twitter政治」は民主主義を増進するか」(庄司昌彦)
・対談:「日本企業を変革するICTパワー」(山本順二×篠彰彰彦)
・「講演:ICT活用 日本の挑戦」(夏野 剛)
・「動画生中継のグーテンベルク的変化」(井上明人×庄司昌彦)
・「事例で見るICTの社会変革力」(山崎富美)
・「日本はネット・ネイティブな国になることができるか」(渡辺弘美)
・「デジタル・ネイティブの教育」(豊福晋平)
*デジタルコンテンツはGLOCOMのホームページhttp://www.glocom.ac.jp/j/chijo/115/index.htmlで順次公開します。
*紙版はアマゾンで販売しています。
最近、オンラインゲームや「セカンドライフ」のような仮想世界に関心を持つようになった。とはいえ、ユーザーとして参加しているわけではないので、この世界を理解しているとはとても言えない。ただ、勤務先の国際大学GLOCOMで若い研究者たちから話を聞く機会が増えて、それまでオンラインゲームにはまるで関心がなかった私ですら、もしかするとこれは現実の社会経済秩序を変えるような大きなインパクトをもたらす可能性があるのではないか、と考えるようになったのだ。
GLOCOMが発行している『智場』最新号(108号)の「特集:ゲーム・デヴォリューション」を読んで、その思いはますます強くなった。特集は、ゲームの歴史と産業動向、「セカンドライフ」を運営するリンデンラボの土居純氏へのインタビュー、仮想経済をテーマとした山口浩駒澤大学助教授と鈴木健GLOCOM主任研究員の講演録などで構成されている(詳細は http://www.glocom.ac.jp/j/chijo/108/)。
「レボリューション」といえば「革命」だが、「デヴォリューション」とは、手元の電子辞書を引くと、発展段階における「分化」という意味と、政治的な義務や権利の「自治権委譲」「分権」という意味の二つの意味を持つようだ。この特集は、前者の意味をこめて「ゲーム機戦争を傍目に拡張し拡散し続ける最新のゲームの世界を取り上げ」、後者の意味をこめて「多様化するユーザーたちが、プログラマーたちが、Devolutionを求めて立ち上がろうとしている。この動きが真のRevolutionになるのか」という問題意識を出発点として編集されている。
いまの私の関心はまさに後者のほうにある。なかでも、ユーザーたちが自由に創発的につくりだす仮想世界のガバナンスや社会経済の秩序はどのようなものか、それが現実にどのような影響を与えるか、がとても気になっている。
RMT(リアル・マネー・トレード)という言葉を最初に教えてくれたのは、特集の編集の中心となった井上明人研究員だ。「RMTとはゲーム内で流通している仮想通貨による取引を指す」という説明を聞いても、最初はなんのことだかさっぱり理解できなかった。オンラインギャンブル用の電子マネーかと勘違いしたほどだ。どこかで現実のマネーに換金されて、儲かったり損をしたりするようなサイバー版のカジノではないかと想像した。
しかし、これはまったくの見当違いだった。あくまでゲームに勝ちたいという欲求を満たすことが最終目的なのだという。そのために「アイテム」と呼ばれている武器や装備を購入する仮想通貨が使われるようになったらしい。アイテムを増やすには長時間プレイするしかないそうで、時間に余裕がある学生や職業についていない人たちが断然有利となる。そこで、忙しくてプレイ時間をなかなか取れない社会人は、手っ取り早くRMTによってアイテムを購入し、短時間でゲームを楽しむというわけだ。
ややこしいのは、ゲームに勝つことが目的であっても、アイテム取引用の仮想通貨がオンラインゲーム内にとどまらず、現実世界のマネーと連動してきた点にある。それによって、実際にお金持ちになった人もいれば、アイテム獲得のために長時間プレイできる「労働者」(ゲームプレイヤーと呼ぶべきだろうか・・・)として雇われている人もいるという。
ここまでくると、ゲームの「アイテム」はまさに経済取引の対象となる「バーチャル財」と呼ぶのが適切な存在であることがわかる。ゲームであればアイテムも限られるだろう。ところが、セカンドライフのようなユーザー次第でビジネスでもレジャーでも何でもできるという仮想世界になると、もはや現実と変わらないほど膨大なバーチャル財が生まれてくる可能性がある。セカンドライフ自身のビジネスモデルは、同サイト内での土地販売と有料メンバーシップという単純なものであったとしても、そのプラットフォーム上でユーザーが多種多様な経済活動を繰り広げれば、いわば自然発生的に多様な財や取引ルールができてくるはずだ。
オンラインゲームを含めたネット上のさまざまな仮想世界では、すでにバーチャル財を取引する通貨だけでなく市場もできたり、資本家と労働者の関係が生まれたり、たとえばドイツに住んでいる人がアメリカに設置されたサーバを使って中国に住む人を雇ったりといった国際分業までも行われているそうだ。
経済学には不案内だが、国家が貨幣発行権を独占しないこのような自由な経済空間は、もしかするとハイエクが思い描いたような世界と共通点があるのだろうか。そして、その世界の内側に見られる光景は、富の配分が著しく不均衡で、マルクスが指摘したような労働者が資本家に搾取される構造なのだろうか。
米ソ冷戦下の「資本主義vs社会主義」の時代が終わって、国によってそれぞれ異なる「資本主義vs資本主義」の時代へ移行したといわれてきた。とすると、さらに次は「リアル資本主義vsバーチャル資本主義」の時代と呼ばれるようになるのだろうか。
それにしても、もともとお金儲けを目的にプレイするのではないオンラインゲームで、誰でも自由に参加できボランティアな活動がベースになってきたインターネットの世界で、政府や大企業によるコントロールを排してユーザー自身が秩序をつくる民主的な仮想世界で、あたかも剥き出しの資本主義が顔を出してきたように見えるのはなんとも不思議で皮肉な感じがしないでもない。
ご無沙汰しました。お久しぶりです。にもかかわらず、宣伝でたいへん恐縮ですが、講演会のお知らせをさせてください。
日本情報処理開発協会(JIPDEC)が編集している情報化白書は今年で創刊40周年を迎えました。それを記念して11月20日(月)に『情報化白書創刊40年記念講演会ー情報化の未来を創る』が開催されます。
情報化の先端的な動向を感じ取りたい、歴史的な視点から情報化の大きな流れを把握したい、日米韓豪における放送と通信の融合の最新事情を知りたい、という方にお勧めです。また、情報化やメディア融合について興味がある方、これから勉強してみたい方、ITの専門家として情報社会の未来について考えてみたい方、お待ちしています。
■日時: 2006年11月20日(月) 13:00~17:00
■会場: 全社協・灘尾ホール
(〒100-8980 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル)
■参加費:無料
■【プログラム】
1.主催者挨拶「白書40年にあたって」
児玉 幸治(財団法人日本情報処理開発協会 会長)
2.特別講演「情報化の新潮流」
石井 威望(東京大学 名誉教授)
3.基調講演「情報化の未来を創る~個人が主役に」
砂田 薫(国際大学グローバルコミュニケーションセンター)
4.パネルディスカッション「メディア融合の日米韓豪比較」
モデレータ:篠崎 彰彦(九州大学大学院)
パネラー :上田 昌史(国立情報学研究所)
清原 聖子(東京大学大学院)
三澤 かおり((財)国際通信経済研究所)
杉本 幸太郎(アウトロジック・インコーポレイテッド)
■講演会の詳細、参加お申込みは、以下のURLをご覧下さい。
http://www.jipdec.jp/seminar/
先週、ITジャーナリストの先輩と大阪に出張した。わたしたちはビル・ゲイツと同世代。帰りの新幹線で、えびせんと柿の葉寿司をつまみに缶ビールを傾けながら、梅田望夫著『ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』(ちくま新書)の話でひとしきり盛り上がった。
車中の話題は、ブログからソーシャルタグ、オープンなインターネットとセミクローズドな日本のSNS、さらには2001年9月11日の同時多発テロ以降の価値観の変化にいたるまであちこちへ飛んでいったが、これはビールのせいだけでなく、さまざまな論点を含んだ刺激的な本であることが一番の理由だろう。読み手の関心によって、いろいろなテーマで語ることができる。
そのなかで、Web2.0についての理解を深められたというが共通の感想だった(と思う)。
むろん、「Web2.0」ということばはこれまで何度も耳にしてきた。しかし、インターネットの「こちら側」(利用者側のフィジカルな世界)の技術進歩に付いていくことすらおぼつかないわたしにとって、「あちら側」(インターネット空間側のバーチャルな世界)で起こっている技術革新の本質を理解することはとうてい不可能だった。
単にインターネットの活用方法が変わるだけではないのか。結局はIT業界がいつの時代も必要としてきたバズワードにすぎないのではないか。
正直言って、その程度の認識しか持ち合わせていなかった。
本書は、このようなテクノロジーに疎い旧世代の読者にとっても、わかりやすくウェブ進化の方向を解説している。しかも、「もしかすると、ウェブの進化によって社会に大きな変化がもたらされるかもしれない」と考えこませてしまう説得力をもっている。だからベストセラーになったのだろう。
Web2.0を説明するために、著者はふたつの対立的な概念を採用している。ひとつは(すでに本稿でも引用した)ネットの「こちら側」と「あちら側」だ。もうひとつは「不特定多数無限大」に対する「信頼なし」と「信頼あり」だ。そして、前者を横軸、後者を縦軸でクロスさせて、区切られた4象限をそれぞれ次のように分析している(同書223頁の図を参照)。
(1)「こちら側」「信頼なし」:大組織の情報システム
(2)「こちら側」「信頼あり」:リナックス
(3)「あちら側」「信頼なし」:ヤフー・ジャパン、楽天
(4)「あちら側」「信頼あり」:Web2.0
ああ、なるほど。わたしにとって、これはWeb2.0のもっとも核心を突いた説明だった。そして、この解説を読みながら、著者が示唆している日本の未来は、山岸俊男著『安心社会から信頼社会へ』(中公新書、1999年)で描かれている「信頼社会」と共通するものがあるのではないかと思った(注)。
閉じられた内輪の社会での安定を求めるのではなく、不特定多数への信頼感にもとづく開かれた社会へと日本を変えていこうというメッセージなのではないか、と。
山岸理論によれば、「安心社会」とは、村落共同体や終身雇用の会社共同体をつくりあげた日本のように、人間同士の関係が安定していてわざわざ相手が信頼できるかどうかを考えなくても安心して暮らせる社会を指している。ここでいう「安心」とは不確実性がないと感じられる状態を意味している。
一方、「信頼社会」とは、アメリカのように、人間関係が流動的で不確実性があったとしても相手を信頼しようとする傾向が強い社会を指している。「信頼」ということばは、相手の「能力」への期待と「意図」への期待の両方を含んだ意味で使われている。
とするならば、崩壊しつつあるとはいえ伝統的に「安心社会」を形成してきた日本は、不特定多数への「信頼なし」の技術開発に適合的だったのではないか。実際、日本企業は「信頼なし」のIT開発を得意とし、これまでにアメリカへのキャッチアップをほぼ達成してきた。一方、「信頼あり」のほうは今のところそこまでの成果を上げていない。
また、ウェブの進化が「あちら側」「信頼あり」へ向かっているのだとすれば、不特定多数が利用する検索エンジンやポータルサイトを通じて、人びとの「能力」や「意図」をデータベース化しようとする技術開発のベクトルが働くことも、ごく自然な流れのように思われる。
ここまで考えて、『ウェブ進化論』が示唆する日本の未来は、藤原正彦著『国家の品格』(新潮新書)が理想として描く日本の姿とは対極にあるのではないかと気づいた。現在の日本では、まったく異なる進路を予感させる本がともにベストセラーになっているわけだ。わたし自身がまさにそうであるように、これからの日本社会の変化をよく見通すことができなくて、キョロキョロしている人が案外多いのかもしれない。
*注:『ウェブ進化論』を読んで『安心社会から信頼社会へ』を思い浮かべた人は他にも絶対いるはずだと思い、グーグルで「ウェブ進化論 信頼社会」で検索してみました。やっぱり、あった! ブログ「極私的脳戸」です。
2月14日(火)に熊本市のKKRホテル熊本で「平成17年度地域情報化セミナー in KUMAMOTO」が開催され、わたしもスピーカーのひとりとして参加いたします。
主催は総務省九州総合通信局と経済産業省九州経済産業局。セミナーの統一テーマは「住民視点での電子自治体構築と地域経済の活性化」で、入場無料です。
セミナーの詳細:http://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/jyoho/060214sem/annai.htm
このセミナーの特徴は、電子自治体の最新動向として注目されている二つの事例が報告される点にあります。ひとつは、阪神大震災での多大な犠牲と被害を乗り越えて全国トップレベルの電子自治体をつくりあげた兵庫県西宮市で、情報政策部長の吉田稔さんがお話になります。同市は、住民の安心・安全を守るために地図情報システム(GIS)を活用されていますが、できるだけコストをかけずにシステムの開発・運用を行っていらっしゃるようです。
もうひとつは、いままさに全国的な盛り上がりの兆しが出ている地域SNSについて、そのリーダーシップをとっている熊本県八代市の取り組みを行政管理部情報推進課の小林隆生さんがご報告されます。
この2市の事例は、単に新しい技術を活用したユニークな情報化として注目されるだけではありません。役所内部での部門間協力、住民・地元企業・行政の共働、そして市町村レベルでの自治体間連携など、日本社会の縦割り構造を乗り越えていく地域発の改革の動きとしてわたしは注目しています。
お二人の講師はおそらく実務者にたいへん有益な情報を提供されるだけでなく、現場の熱気や迫力が伝わってくる感動的なお話をされると思います。残念ながら、わたしにはとうていその真似はできません(人前で話すのは緊張して苦手ですし・・・)。
ただ、月刊コンピュートピアで電子自治体の取材を続けてきた経験と、情報産業や情報政策の動向と歴史の研究を通じて考えてきたこと、その二つを足し合わせた観点から自分なりの考えをお話させていただく予定です。
もしご都合がつけば、バレンタインデーに熊本でお会いしましょう!
勤務先のGLOCOMが六本木ヒルズのすぐそばなので、平日はいつもヒルズの中を通り抜けています。1月16日のライブドアへの突然の家宅捜索にはびっくりしましたが、あれからまだ2週間も経っていないのに事態が次から次へと急展開する、そのスピードの早さにも驚いています。
ライブドア事件についてはまだ頭の整理がつかないので、とりあえず今感じていることをメモしてみました。
■ 誰のため何のための会社?
逮捕されたライブドア前社長の堀江貴文さんは、「会社にとって一番大切なのは株主」「時価総額で世界一をめざす」と語っていた。しかし皮肉にも、今回の事件は、そのような経営方針の会社でひとたび問題が発生すると、従業員よりも顧客よりも早く、株主が真っ先に逃げ出して会社に大きなダメージを与えるという現実を見せつけた。取り残された従業員と顧客にとっては、困惑や不安あるいは怒りが交錯しているのではないだろうか。
ライブドアの今後の経営についてはまだまだ流動的だ。フジテレビが安定株主となって支えるのか、場合によっては買収するのか。あるいは逆に冷たく見放すのか。ライブドアは昨年ニッポン放送の株取得でフジテレビに大きなゆさぶりをかけたが、今は逆にフジテレビがライブドアの命運を握る立場になっている。
ただ、ライブドア新社長にマネジメント経験の豊富な平松庚三さんが就任したことで、フジテレビとの関係が好転する兆しも出てきたようにみえる。平松さんは、従業員のモチベーションやプライドを尊重し、強いリーダーシップを発揮しつつ、思い切った判断を下すことができる経営者だと思う(何を隠そう、10数年前の一時期、わたしは平松さんの部下だった)。
ライブドアの経営体制が一新した今こそ、株価依存の危うい経営から脱却してもっと顧客や従業員を大切にする会社へと生まれ変わるチャンスだろう。リーダーの個人的主張を通じて社会に影響を与えるのではなく、事業を通じて社会に貢献できる会社へと再生できればいい。がんばれ、ライブドア社員。
■ IT企業のM&A
IT業界では、M&A(合併・買収)を繰り返して会社を成長させることは決して珍しい話ではない。M&Aが急増したのは1980年代後半の米国のコンピュータソフトウェア業界だった。1990年代になると大手コンピュータメーカー同士のM&Aも活発になり、自動車産業と同様、コンピュータ産業もグローバルな業界再編・淘汰の時代に入ったことを感じさせられたものだ。
そうしたなかで、もっとも数多くのM&Aを実現させた経営者は、おそらくコンピュータ・アソシエイツの創業者チャールズ・ウォンさんではないだろうか。ウォンさんに限らず、米国のIT企業経営者の多くは、既存事業の強化や補完性を重視したM&Aを繰り返してきた。決して株価を上げることだけを狙ったM&Aではない。IT企業にとって製品やサービスの技術力は生命線だが、技術開発へ新規に投資する資金と時間を考えれば、すでに技術を保有する会社を買収したほうが早く市場に進出できるという経営判断があるからだ。
会社にとって顧客が一番大切と考える経営者は、既存の製品やサービスとの補完性を考慮したM&Aを計画するだろう。また、従業員が一番大切と考える経営者はM&Aに対して慎重で保守的な態度を示すか、あるいは事業を継続させる手段としてM&Aを選ぶか、いずれかだろう。とすれば、ライブドアのM&Aは顧客のためでも従業員のためでもなかったことはたしかだ。
■ カジノ資本主義の警告システム
金融取引のマネーゲーム化が国際的に進行し、もはやギャンブルの場と化してしまった。そのような経済体制を英国の経済学者スーザン・ストレンジが「カジノ資本主義」と名づけたのは1986年のことだ。それから15年後の2001年に米国でエンロン事件が、20年後の2006年に日本でライブドア事件が発生した。
ライブドアの逮捕された旧経営陣に対して、マスコミは「錬金術」という言葉を使ってルール無視の金儲けを厳しく批判している。たしかにそのとおりだとしても、彼らだけを特別な不道徳者とみなして処罰すれば問題が解決するというわけではないだろう。
かつて債権ディーリングで巨額の損失を出した銀行員がいたが、ゲームやギャンブルという側面を否定できないならば、一種の中毒に陥って自分自身でブレーキをかけられなくなった人が出ても不思議ではない。
素人の素朴な疑問にすぎないけれども、むしろ、なぜライブドアのM&Aや決算報告に関わった会計士や税理士、株式を上場させた東京証券取引所、さらには金融取引を監督する立場にある官庁など、第三者的立場で企業経営に関わりをもつ専門家たちが事前に警告を発したりブレーキをかけたりできなかったのだろうか。
いきなり家宅捜索、事情聴取、逮捕ではあまりにも衝撃的すぎる。あるいは、彼らはそのような警告を再三受けていたにもかかわらず、無視し続けたのだろうか。
プレイヤーのモラルもさることながら、カジノを運営する側にも不正を抑止するような仕組みづくりが求められると思う。サッカーだって、イエローカードという警告システムがあるではないか。
■ 若者たちのライブドア・ショック
ライブドア・ショックは、株式市場よりも、堀江前社長にエールを送った若者たちへ与える影響のほうが大きいかもしれない。
ライブドアへの家宅捜索のニュースをテレビで見た瞬間、わたしは自民党が圧勝した昨年の衆院選を思い出していた。投票日の9月11日の夕方、いつもの美容院へ出かけ、20代半ばの男性美容師さんにカットをお願いすると、彼は「今日は早起きして、店に出る前に投票してきましたよ。自民党に勝ってほしいから、今回だけは絶対に選挙へ行かなきゃと思って。ホリエモンが当選すれば面白いですよね」と愉快そうに話しかけてきた。
わたしが非常勤で勤務している大学の学生をみても、昨年のフジテレビとライブドアの攻防ではライブドア・シンパのほうが多かったと感じている。既存の社会秩序に反旗をひるがえし、既得権にしがみつく古い体質の業界に次々と風穴をあけていく堀江さんの破壊的なパワーに、若者たちは声援を送ったのだ。今回の事件を彼らはどう受けとめたのだろうか。
それにしても、選挙で堀江さんを応援した「改革派」の自民党幹部よりも、堀江さんがもっとも嫌ったはずの古い体質を代表するような政治家のほうが、逮捕後の彼を気遣う発言をしている。なんとも皮肉なことばかりだ。
このブログをお読みいただいている皆様、あけましておめでとうございます。
ブログを始めて3ヶ月余り、いつまで経っても初心者のままだなあと反省してしまいますが、ともかく継続が大切と思い、今年もできるだけ投稿を続けていこうと思います。どうぞよろしくお願いします。
年末から年始にかけて、伊豆下田の温泉宿に引きこもり、ひたすら食べて、眠って、湯につ かって、本を読んでいました。おかげで、身体は重たくなってやばい状態ですが、ずうずうしくも神谷美恵子と丸山真男を隣のおばちゃん、おじちゃんと勝手に思いこんで、たっぷりと対話を楽しんできたので、いつになくいい休暇になりました。
2006年の興味のひとつに、ネットとテレビの融合がどこまで進むかがあります。でも、ネットとテレビから一時離れてみることも、とても贅沢な時間の使い方です。
このことをわたしはGLOCOMの先輩から教わりました。「休暇中はネットから離れます。メールもいっさい読みません」。なるほど、カッコいいなと思い、真似したというわけです。
では、皆様にとって今年が良い1年となりますように。



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