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4月25日にインフラ輸出関連のセミナーをやらせていただきます。今準備を進めているところですが、参加申込をなさった方々のリストを見ると、おそらくは、スマートシティ関連の方々が多いのではないかと思っています。それに関連してメモを。

スマートシティに限らず、何にせよインフラは、比較的大きな初期投資を必要とし、投資回収を確実にするためには、そのインフラが生むキャッシュフローをより確固たるものにデザインする必要があると思います。スマートシティ一般の事業モデルは、以前に取り上げたマスダールシティや韓国の新松島(ニューソンド)のように、不動産開発プロジェクトのそれであり、居住棟の販売や、オフィスビルの賃貸料によって収益を得ます。この場合、スマートシティのレベルを上げようとして、新しいタイプの二酸化炭素排出削減方策や、スマートグリッド系の方策を導入すると、その分だけ投資がかさみ、結果的に個人や企業などの利用者に回る負担が大きくなります。
景気がよい時期なら、そうした負担の大きい不動産物件を購入したり借りたりする顧客は多いでしょうが、景気が悪化するとそういうわけにもいかず、居住棟が売れ残ったり、テナントビルががらがらということになりがちです。それに近い状況がマスダールシティでは見られます。中国のエコシティプロジェクトでもそれに近い状況が見られるという報道を、どこかで読んだことがあります…。

このような従来形の収益モデルでは、おそらくは、成功するスマートシティプロジェクトはごく限られるのではないかと考えています。

そこで、1つ前の投稿で記した藤井教授の提案にあるような、環境対応を高めてキャッシュフローを生む力をアップさせたスマートシティというデザインにしてはどうかと考えます。もっとも経済効率が高いのは、売電でしょう。スマートシティの敷地内で発電を行い、余剰電力を売るのです。
環境対応をそのまま字義通りに受け止めれば、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電などの再生可能エネルギーによる発電に目が行ってしまいますが、発電単価とスペース効率という意味で、やや現実的ではないように思います。(もっともアドオンで太陽光発電を組み入れるのはよいことです。)
天然ガスによるガスタービン発電、ちょうど、現在でも工場の自家発電で行われている形のものですが、これを、スマートシティの一角で行うのはどうでしょうか。例えば、数千人が居住する居住区画で、住民全体の電力消費をまかなった上で、さらにそれと同じ程度の電力を電力会社などに売るということは、不可能ではないと思うのですが。無論、専任の管理者は必要になりますが。

天然ガスによるガスタービン発電は、石炭や石油に比べれば二酸化炭素排出も少なく、発電効率も高いです。また、いわゆる熱電併給が可能になります。すなわち、地域の給湯をまかなうシステムとしても使えるようになります。

スマートシティの一角で行われるガスタービン発電が、仮に、一世帯当たり毎月1〜3万円程度の売電収入をもたらすのであれば、スマートシティ内の様々な新テクノロジーへの設備投資の返済原資として使えるようになります。そして、新しい方策が複数組み込まれた住環境であるにも拘わらず、住民の負担は従来形の住環境と同じいう風にできます。

スマートシティ一般にマイクログリッド的な方策の組み入れが検討されています。どうせマイクログリッド技術が組み込まれるのであれば、発電を積極的に行って、その部分への投資の元をとるぐらいのアプローチがいいいと思います。

追記すると、インドなどの発展途上国では、中間層の所得向上もまだまだといったところがあり、日本にいてデザインするスマートシティは多くの人にとって高嶺の花になると思います。スマートシティで投資がかさんだ分を、やはり売電モデルによって吸収し、住民の負担を軽減する措置は有効ではないかと思います。むしろそれを行うことによって、一般的な集合住宅よりは売りやすい物件になるのではないかと思います。

dimaizum

4月18日付日経朝刊の経済教室欄「復興財源を考える」シリーズ5の上智大学藤井良広教授による「民間資金の活用、環境債で」を非常に興味深く読みました。

震災復興のための財源を捻出する目的で国債を増発するのではなく、新設する賃貸集合住宅などのインフラにおいて新しいタイプのキャッシュフローを生む枠組みを埋め込み、そのキャッシュフローを財源とする新しいタイプの債券、環境債を機関投資家や年金基金に購入してもらうのはどうかという提案です。

インフラ事業一般では、営業が始まったインフラから上がるキャッシュフローを配当や返済の原資としてインフラファンドが出資したり、銀行によるプロジェクトファイナンス(融資)が行われたりします。有料道路、発電所、鉄道、上下水道事業、港湾などみなそうです。
この「インフラが生むキャッシュフロー」は、震災復興の目的で建設される集合住宅、港湾、鉄道、物流施設、生産設備、発電所などのインフラ設備でも期待できるものです。インフラ一般に収益の変動が少なく、将来におけるキャッシュフローを予測しやすいため、インフラファンドの場合は15〜25%程度の年リターンを期待して投資します。銀行によるプロジェクトファイナンスの場合でも、融資期間が超長期にわたることもありますが、想定される利率はかなり高めです。それもこれもインフラのキャッシュフローを生む力が評価されてのことです。
インフラは往々にして独占的なポジショニングを持っているため、競合との価格競争に巻き込まれにくい、新規参入が起こりにくいという特性があります。そのため一般的な市場で行う事業活動に比べてキャッシュフローが多くなるのです。

藤井教授の提案は、そこに環境経済の視点を付加しています。具体的には、省エネや節電の設備に投資することで得られた経済効果を投資家にリターンとして渡す枠組み(いわゆるESCOがこの枠組みの典型です)、太陽光発電などの分散発電の余剰電力を売電してキャッシュフローを得る枠組み、削減された二酸化炭素のクレジットをキャッシュフロー化する枠組みを組み合わせることにより、機関投資家などにとって価値の高い投資対象になるとしています。具体的には、それらのキャッシュフローを償還原資とする環境債を発行し、並行してその債券が流通する市場を整備すればよいと述べています。同種の債券市場の枠組みは米英でも「気候債」として整備されつつあるとのこと。

このようなインフラが生むキャッシュフローに着目したアプローチには大きな可能性があり、震災復興にも役立つと思います。

[関連投稿]
震災復興には海外資本にも開放したインフラPPPの枠組みを

dimaizum

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プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

株式会社インフラコモンズ代表取締役。
国内の太陽光、木質バイオ、石炭火力の発電案件。海外の天然ガスに関係した案件の上流部分のアレンジメントを行っている。その他、リサーチ分野として、スマートグリッド、代替的な都市交通、エネルギーの輸出入。電力関連の近著も。

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