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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

新計画では在来線も走る秋田新幹線方式を想定 - カリフォルニア高速鉄道はどこに行こうとしているのか?(下)

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カリフォルニア高速鉄道の動きを把握するには、Google Newsで検索して記事を引っ張り出し、めぼしいのを片っ端から読むのもよいのですが、実は「地元の新聞」の記事をしかるべきキーワードで引き出して、時系列で並べ直して読むのが効率的です。この場合の地元の新聞とは、San Jose Mercury NewsSan Francisco Examiner、そしてカリフォルニアの州都サクラメントのSacrament Beeあたり。サンフランシスコには地元紙がまだありますが、範囲を広げるとフォローが大変になるので2-3紙で留めておきたいところ。Sacrament Beeは州政府庁舎のお膝元でやっているだけあって、州知事や州議会がらみの動きを丁寧に追っており、ある決定的なタイミングで誰が何と発言したかというような内容を確かめるのに最適です。あとの2つの新聞も自州の巨大プロジェクトですから、関連の動きを漏らさず伝えています。ウォッチするのをやめて1年ぐらい経った後で経緯を把握するのに、こうした地元の新聞を活用すると便利です。

ご存知のようにカリフォルニア高速鉄道の新しい事業案が4月2日に発表になりました。そこに行く前に、前回投稿の続きということで、今年1月以降の動きをざっと確認します。

■新たなレポートが従来の事業計画を批判

1月中旬の加州高速鉄道局CEO Roelof van Ark氏の辞任と前後して、Jerry Brown州知事が同局に送り込んだDan Richard氏のChairman就任が発表されました。Dan Richard氏がどのような活躍をするのかは3月中旬になるとわかってきます。

1月24日には、カリフォルニア州会計監査官のElaine Howle氏が同高速鉄道の資金調達計画と採算性に疑義をはさむレポートが発表になりました。同高速鉄道計画について否定的な見解を提示したレポートはLegislative Analyst's OfficeによるものCalifornia High-Speed Rail Peer Review Groupによるものに続いて3本目ということになります。

Sacrament Bee: Audit accuses high-speed rail of risky financing, contract splitting(2012/1/24)

Sacrament Beeの報道から以下が指摘されていることがわかります。
・2011年11月版の事業計画では、乗客数の予測が加州高速鉄道局CEOの「お手盛り」によるもので正確さが疑わしい。
・加州高速鉄道局は職員が少なく、外注先およびその孫請けのコントロールで手一杯(要求されている職務を果たせるのか?)。
・同局は発注にあたって競争入札を避けるために、例えば310万ドルのITサービスを13の契約に分割して1つの業者に発注しており、これは州法違反。
・カリフォルニア高速鉄道計画は不確かな資金源に依存しており、ファイナンス全般がはなはだ厳しくなっている。

不確かな資金源とは、主には、すでにオバマ政権が拠出を確約している連邦政府からの交付金35億ドル以外に、さらに多くの連邦政府からの交付金を当てにしていることを指しています。確かに連邦議会で決まってもいないものを建設予算として組み込んでいるのは、ややおかしな話です。

別な記事では、1年間に3,680万人の乗客が利用するなどということはありえない、ロサンジェルス・サンフランシスコ間を空路で移動するのは年間320万人、ロサンジェルス・オークランド/サンノゼ間は170万人、計490万人しかいないではないかと指摘しています。個人的には「新しい高速鉄道ができれば、新たに乗ろうという人もたくさん出現するはず」(事前にはわからなかった需要が新規に生まれる→スマートフォンが一例)と思うのですが、こういう論調で展開されると「なんて非現実的な試算か」ということになってしまいます。

このような形で、2011年11月に出された修正版の事業計画も手厳しく批判されてしまいました。

■3月中旬の公聴会で新チェアマンが総事業費縮小を確約

再三指摘されてきた資金面の不安を払拭すべく、Jerry Brown知事は同年1月末に、新しい資金源として新たに設定する炭素税の年間10億ドルの収入が使えること、そして総事業費はある程度縮小する可能性があることを発表します。

Sacrament Bee: Jerry Brown says cap-and-trade fees will fund high-speed rail(2012/1/29)

おそらく、新たにChairmanに収まったDan Richard氏の元で2011年11月版事業計画の見直しが進められていたようで、その中身を把握した上で総事業費縮小に言及したようです。

この間も連邦議会、州議会の議員による論争は続いており、逐一報道されています。また、「もう一度、この計画で州債を使うことについて州民投票をやるべきではないか」という主張も見られます。議論を続けていると時間ばかりが過ぎ、連邦政府が35億ドル交付の条件としている2012年中の着工ができなくなるので、この時期、推進派はかなり気を揉んでいたようです。

こうしたなかで潮目を変えるイベントが開催されました。3月13日にシリコンバレーの劇場で上院議員が主催した公聴会には、加州高速鉄道局の新ChairmanであるDan Richard氏が登壇し、初めて多くの人々の前で自らの考えを語りました。彼はそのなかで「総事業費はもっと安くなる」ことを確約しています。その他、彼の言葉から2011年11月版の事業計画が修正中であることが明らかになり、同計画に向けられた懸念はある程度和らぐ結果となりました。

San Jose Mercury News: High speed rail chief: Bullet train won't cost $100 billion(2012/3/14)

■新事業計画では着工区間をロサンジェルス近くまで延伸

そしてつい先頃(2012年4月2日)、カリフォルニア高速鉄道の新しい事業計画が公表されました。カリフォルニア高速鉄道事業計画のバージョン3ということになります(正確には2008年以前に1つ作られており、バージョン4となりますが、弊ブログで説明している文脈ではバージョン3として記しています)。
これまでの計画では最初の着工区間がMerced-Fresno間の130マイルであったところ、「そんな田園地帯に高速鉄道を通しても誰も乗らないではないか」という批判に配慮して、Mercedからロサンジェルス近くのSan Fernando Valleyまで延伸し、300マイルを最初の着工区間としました。また、既存の鉄路を流用することにして総事業費を約1,000億ドルから680億ドルまで圧縮しました。一部区間の営業開始は2022年、全区間の営業開始は2028年を予定し、前計画より5年前倒しで完成することをうたっています。

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出典:California High Speed Railway Authority

San Jose Mercury News: New California bullet train plan a grand finale to years-long drama (2012/4/3)
Sacrament Bee: Financing still murky for revamped $68B rail plan (2012/4/3)

上の記事を読んで初めてわかりましたが、このカリフォルニア高速鉄道はカリフォルニア州の歴史のなかで最大の公共事業なんですね。従って州民やメディアの関心も高く、州議員、連邦議員の議論も熱を帯びるわけです。

この新しい計画についても批判を向ける議員は複数存在し、2008年の州民投票にかけた事業案とまだ乖離がある、独立採算で運営できる内容にはなっていない、という懸念を表明しています。

Sacrament Bee: Questions remain despite revised Calif. rail plan(2012/3/30)

このバージョン3の発表をもって着工に至るというわけではなく、Jerry Brown知事はこの計画を議会に諮り承認を得て、2008年の州民投票で使えることになった州債のうち、23億ドルを着工資金として確保する必要があります。
なお、前投稿の末尾で焦点としていた加州高速鉄道局を州政府内の運輸局(Caltrans)に移すという話ですが、この新計画の発表を期に立ち消えになった観があります。ただ、計画がゴーということになれば指摘されている人員不足があることから、Caltransに吸収される可能性もなくはなないです。

■秋田新幹線(ミニ新幹線)と同じ方式を想定

この記事の以下を読むと、どうも在来線と専用軌道の双方を走る車両を使うようですね。

The so-called "blended" system would still move travelers from Los Angeles' Union Station to the Transbay Terminal in San Francisco in two hours and 40 minutes at speeds up to 220 mph, as voters were promised when they authorized the bullet train system four years ago, Richard said.

Eventually, riders will not have to change trains when riding between San Francisco and Los Angeles, he said.

加州高速鉄道局のサイトで公開されているバージョン3の事業計画のなかを確認すると、エグゼクティブサマリーのp4で明確に在来線と専用軌道を併用すると書いてありますね。つまり、JR東日本が秋田新幹線で運用しているミニ新幹線タイプの車両が想定されているということです。

新版事業計画の中身をじっくり読むと色々と興味深いことが判明しそうですが、今日は時間切れでここまで。

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