インフラ投資ジャーナル/Infra Japan
Report on Japan's infrastructure topic on weekend.
日曜日の日経朝刊一面で「スマートメーター 東電、1700万世帯に導入 国際入札でコスト抑制」という記事が出ていました。これは世界のスマートグリッドプレイヤーにとっても大きなインパクトがあるニュースです。
いくつかポイントを。
○前例のない国際競争入札であるということ
電力会社は通例、電力計の調達を長年取引のある電力計メーカーとのみ行います。これは計量法が要求する電力計の仕様や品質が厳格であり、それを満たすのに複雑なプロセスが必要であるということ、10年に1度の交換が計量法で要求されており、調達と交換がいわばルーチン化されているため、新規の事業者との取引開始になじまないことが背景にあります。
今回の国際競争入札はこの慣行を打ち破るもので、新しい時代が来たなという印象があります。欧米のメーカーが入ってくる可能性がありますし(東芝が買収したランディス・ギアも候補の1つ)、場合によっては、中国のメーカーも入ってくるでしょう。従来では考えられなかった世界です。
記事によると、今回の調達で想定されているスマートメーターの単価は1万円程度。日本のスマートメーターの単価は2〜3万円とされているため、これを大きく引き下げるには国際競争入札しかないということのようです。欧米などで機能をそぎ落としたタイプのスマートメーターは1万円程度で取引されているようです。
○デマンドレスポンスが想定されているらしいということ
今回のスマートメーター導入では、いわゆる「デマンドレスポンス」の実現が想定されていると推察されます。
その理由は、スマートメーターの用途が単に遠隔で電力消費量を読み取るAutomatic Meter Reading (AMR) 機能だけであれば、わざわざ1千億円単位のコストをかける必要もないからです。人手による電力計検針のコストは巷間で考えられているほど大きくはなく、スマートメーター設置コストのごく一部しか吸収できません。大きなコストをかけるからには、東電の電力供給全般(=収益性)に大きな意味のある方策の実現が目されていると考えるのが順当。電力会社にとっては、ピーク電源への投資、ないし高額なピーク電力の調達が回避できた時に初めてスマートメーターが大きな意味を持ちます。それはすなわち「デマンドレスポンス」の仕組みが確立した時、という流れです。
なお、スマートメーターが電力会社の収益に与える影響については、以下の投稿を参照。
やっぱり難しい?米国電力業界のスマートメーター活用
従来、日本の電力会社におけるスマートメーター活用は上記のAMR機能ぐらいで、それ以上のいわばスマートグリッドらしさを感じる用途については、取り組みはなされないだろうという見方が優勢でした(従って、結果的には導入が進みません)。
これは、スマートメーターを起点にして家庭内の電力利用の「中身」に入って行こうとすると、これまで電力会社が手がけたことのない「需要家の行動にコントロールを加える」という領域に踏み込む必要があり、どこまで踏み込んでいいものか判断が付きかねるという状況があったからでした。従来は、電力会社は需要家が必要とする電力を必要とされるがままに送り届けるのが責務という行動原理で動いており、その枠の外で思考することが必要になります。
今回の原発事故とその後の電力需給逼迫により、電力会社も需要家の需要抑制(デマンドコントロール)を考えざるを得ない状況に立たされており、それではということで、スマートメーター導入と並行して、これまで現実的に検討されたことのない「デマンドレスポンス」の実現を図ってみようとなったと推察されます。
○どういう国際プレイヤーが登場するのか?
米国やイタリアではすでに数千万台規模のスマートメーター導入が進んでいます(厳密には国によって背景がかなり異なります)。すなわち、大きな市場になっており、複数の有力プレイヤーがいます。こうしたプレイヤーが今回の国際競争入札にどのように参画してくるのか、非常に興味深いです。
ただ、計量法でかなり厳格に管理されている電力計の世界に海外プレイヤーが入ってくると、その厳格さに面食らってしまうというところがあるかも知れません。高品質、壊れないことが当たり前の日本の工業製品の世界。しかも10年間も使うわけですから、この要求に応えるには至難の技です。
おそらく、現実的に欧米のスマートメーターメーカーが東京電力の要求する仕様や品質を満足させる製品を提供するためには、日本の既存の電力計メーカーと提携する必要があるのではないかと考えています。「秤」は経済の基本。日本は長い時間をかけて、日本なりのかなり細かいルールを作ってきています。
追記:
後から気づきましたが、現在、政府や経産省による電力自由化論議のなかに出てくる「小売の自由化」が家庭分野にも及んだ時、何が起こるか?ということを考えると、スマートメーターを設置して消費者をつなぎ止めておくことには、大きな意味があります…。
According to business paper Nikkei (Jan 22, 2012), Tokyo Electric Power Company (TEPCO), the largest energy provider in Japan and the operator of Fukushima nuclear power plant, is commencing an open procurement of 17 million smart meters, whose estimated amount is USD 2.2 billion at minimum, between 2012 and 2018. Previously, suppliers of such a large procurement were limited to domestic companies having close relationship with TEPCO, but the power provider will allow global suppliers to join this time.
Due to the severe accident of Fukushima nuclear, TEPCO owes numerous liabilities of damage compensation of more than USD 40 billion in total, and comes near to excess of debt. To avoid its bankruptcy, Japanese government decided to step in TEPCO's management after injecting enough capital using newly established organization "Nuclear Damage Liability Facilitation Fund" (NDLFF).
Currently, NDLFF and TEPCO are making a revival plan to keep the service level of of power providing while incorporating solvency for liabilities. The company needs a lot of measures to get operational efficiency.
In Japan, power meter is strictly regulated by Measurement Act. Any power providers should replace power meters equipped at customer's house every 10 years. Every power meter unit has to be certified based on governmental rule without exception. Thus, procedures of shipping and buying power meters became very complicated. That is one of the reasons Japanese electric power companies, whose operational areas are monopolized by law, love to deal with just one supplier of power meter. Previously, estimated unit price of Japan made smart meter is around USD230 - USD340. For this procurement, around USD120 is anticipated because of needed operational efficiency.
New policy of 17 million power meter procurement seems open and fair for global suppliers as well as domestic ones. From mid February this year, TEPCO will reveal requirements of power meter to potential suppliers after exchanging non disclosure agreement. First tender for 300 million units is scheduled in October this year.
Since Japanese world of power meter has very specific rules and traditions, global vendors had better to consult with Japanese vendors before making a proposal. Requirements for accuracy, durability and failure rate are extremely rigorous.
Japanese government is planning to sell rights of airport management and operation of 27 government owned airports including Haneda (Tokyo) and New Chitose (Sapporo). Government thinks there are large rooms to improve profitability of these airports after examining best practices of international airport business, but such an improvement is enabled only by private sector. Legislation for the government to sell these rights is underway.
Within 2012, “market sounding” which means request for proposals on business model or on type of concession for each airport is scheduled to start. These proposals are treated as “non-binding” ones used only for collecting ideas, while the proposing entity will not be bound with the proposal in bidding process afterwards. Whether foreign players can participate in or not is uncertain so far, but a policy will be clear very shortly.
Privatization was successfully conducted in Japanese railway sector and telecommunication sector, but for the airport, there is no preceding case realistically. Largest international airports, namely Narita and Kansai, were privatized in terms of corporate personality, but Japanese government holds the majority of the share. As Kansai airport is suffering huge debt, about USD 15 billion, it will be merged with Itami airport which earns a sound profit, and finally, the merged company is planned to be “re-privatized” in a certain PPP format. Privatization of airports is a sort of never-ending theme for Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism.
Of 27 above, there are 12 airports which have more than 2 million passengers annually. All of 12 airports, except for Naha airport of Okinawa, are enjoying black ink figures in terms of EBITA. However, most airports except for Haneda and Chitose have less than JPY 2 billion (about USD 18 million) as black figures. So that, management knowhow of private sector to improve profitability is keenly requested.
Who can provide such a knowhow? Since Narita International Airport Corporation is government owned entity and Kansai International Airport has above-mentioned situation, there is no private airport operation company in Japan. I am not sure that Japanese government may think possibility of inviting international airport players such as BAA and Fraport, but it is very likely. From 2014 to 2020, Japanese government will conduct all the bidding process for 27 airports.
Details of the plan are revealed in the report of "Discussion group on airport management and operation" initiated by Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism.
Contact of this blog author : dimaizum(at)gmail.com
昨年末から新聞などで報道されている電力改革関連の動きについて記してみます。
■2ヶ月で終了した電力システム改革タスクフォースの活動
経産省は昨年11月上旬から12月末にかけて「電力システム改革タスクフォース」を設け、有識者からヒアリングを行って、電力システムをどう改革していったらいいかの道筋を確認する作業を行いました。
通例、この種の活動は「○○研究会」という名称で設置され、月1回ペースの会合を1年〜1.5年程度行って報告書を出すのが習わしですが、今回はわずか2ヶ月で6回の会合を行ってまとめを出すという突貫工事だったのが特徴です。「タスクフォース」という名称に「急ぎのプロジェクト」というニュアンスが込められているように思います。
活動概要は経産省サイトのこのページにまとめられています。
従来の「○○研究会」の場合は、比較的詳細な議事録が公開されることが多いですが、今回はかなりセンシティブな内容についてもやりとりがなされたものと思われ、議事録は公開されていません。
計7名の有識者とエネルギー業界関係者が招聘され、各氏の電力改革の主張を経産省がヒアリングした後で、最終回の12月20日に以下の有識者が再び呼ばれて議論が交わされました。
大阪大学招聘教授 八田達夫氏
東京大学社会科学研究所教授 松村敏弘氏
(財)日本エネルギー経済研究所 電力グループマネージャー・研究主幹 小笠原潤一氏
東京大学教授 横山明彦氏
電力の自由化、発送電分離、スマートグリッドについて見解をお持ちの方々ですね。
こうして終了したタスクフォースの議論内容の報告という位置づけで公表されたのが、いわゆる「論点整理」です。
上は経産省が公表した「本体」。以下はそれを報じたもの。
日経:電力小売りの完全自由化検討 家庭向けも対象に(2011/12/27 リンク不能)
電気新聞:経産省、電力システム改革で論点整理案(2011/12/28)
毎日新聞:電力改革:東電資本注入 国主導改革狙う 新規参入拡大、競争促す(2011/12/28)
サンケイ:発送電分離へ政府が4案 「一般家庭にも市場自由化の恩恵」(2011/12/28)
■論点整理の中身
年末年始に出た関連の記事では、発送電分離の「会計分離」「法的分離」「機能分離」「所有分離」の4形態を説明したものが多かった印象があります。しかし「論点整理」ではもっと広い範囲について述べており、発送電分離のテクニカルな話ばかりにフォーカスすると議論が矮小化する可能性があります。
「論点整理」の中身で注意すべき部分を抜き出しながら、箇条書きで整理してみましょう。
○現状認識と反省点
・過去の日本の電力自由化は「部分自由化」であり、「一般電気事業者の地域独占を中心とする基本的な供給構造に変化はなく、自由化や競争は極めて不十分」だった。
・「計画停電や電力使用制限の発動という強制的・画一的な需要抑制手段によって多くの国民や企業に多大な負担と苦難を強いざるを得なかったことは反省すべき大きな課題」であり、新たな「制度設計が必要」。
・原発事故以降「次世代型の分散型エネルギーシステムへの関心の高まり」がある。
・従来の電気事業制度では「供給力の確保に主眼が置かれ、需要家の選択行動を活用して『需要を抑制することで供給力に余裕を持たせる』との視点に乏しかった」。
・「『分割された区域内における供給』に重点が置かれ、全国規模での最適需給構造を目指すとの視点に乏しかった」。
○これから目指すべき電力システムの姿
・次世代型の電力供給システムの1つの姿が「価格メカニズムを通じて需要抑制のインセンティブや供給促進のインセンティブが働く電力市場」と「競争条件の公正性を確保するための送配電部門の中立化(発送電の分離)」
・「例えば、北欧の市場では、日々の使用量を予め確定させる供給契約形態が主流となっており、日々の価格は需給状況を反映した市場価格で決まることから、需給逼迫時には価格が上昇し、供給は増加し、需要は抑制されるインセンティブが働く」
・「送配電部門は規制部門であり、競争原理が働きにくいが、送電線が混雑した場合に送電線利用料金を高くする『混雑料金』を導入することで、合理的な送電設備形成」が促される。
・「市場原理が機能するためには、様々な発電事業者、様々な小売事業者が公平に競争できる環境が必要であり、これらの事業者の共用インフラとも言える送配電部門に中立性を確保することが必要」
・「分離の程度が不十分であればあるほど、中立性を確保するための規制コストが上昇するが、一方で、分離すればするほど、発電と送配電の一体的な投資や一体的な運用が困難になることから、制度設計には十分な検討が必要」
○今後の制度設計に当たっての主な論点
・「スマートメーターやインターフェースの整備を進め、市場メカニズムを通じた需給調整機能を強化」すべきではないか?
・「小口小売分野についても、大口分野と同様、需要家が選択できる仕組みを導入」すべきではないか?
・再生可能エネルギーなど分散型エネルギーの普及を促すには「系統接続や託送に関するルールを見直すべき」ではないか?
・「電力会社同士での競争」を活発化させるには「供給区域を超えた電力供給に関する障壁の撤廃」も必要ではないか?
・「会計分離の徹底、法的分離、機能分離、所有分離などのメリット・デメリットを十部に検証したうえで、さらなる送配電部門の中立化を行うべきではないか」?
かなり端折ってますが、骨となる部分は上記で尽くされていると思います。スマートメーターに言及しているあたりは、スマートグリッド的な解法も必要だとしているということですが、おおむね、発送電分離を行い、送電部門に中立性を与えて、発電部門と小売部門の競争を促すのが良策であるという流れになっています。
■1990年代型の電力改革のリプレイではなく
さて、これで日本の電力料金は下がるのでしょうか?
そもそも、日本の電力料金が諸外国より高いのは、日本で化石燃料をほとんど産出せず、石炭、LNG、原油などを海外から買ってこなければならない、しかも、島国であるためパイプラインによる輸送ができず、LNGタンカーに見られるように、高いコストをかけて運んでこなければならないという事情があるからです。
日本の電力料金を下げるには、高い化石燃料の発電比率を落として、安い燃料の比率を上げるというのがもっとも正攻法。発電事業の試算を少しやってみるとわかりますが、燃料コストが発電事業の採算に与える影響たるや、すさまじいものがあります。生み出す電力量kWh当たりのコストが1円違うだけで、年間の営業利益が大きく上下します。
こうした背景があることから、日本では従来から安い燃料、すなわち原子力への取り組みが長い期間にわたって行われてきました。現在の電力が直面しているのは、この安い燃料が失われたなかで、放っておけば、追加で購入が必要になるLNGや石炭の燃料コストが跳ね上がるという現実です。原発がすべて止まれば、追加で必要になる燃料コストが2兆円とも3兆円とも言われるなかで、どうやれば電力料金を低く維持できるのか。
そういう視点で見ると、今回の論点整理は、90年代からあった電力改革でやり残された部分を2010年代に入って再び吟味し、その完全実施を図ることに主眼が置かれており、高い燃料をたくさん買わなければならない現実には答えていないように思えます。
論点整理のなかで「なお、発送電分離や自由化を行った欧米で、必ずしも電気料金は低減しておらず、むしろ上昇しているケースも多いが…」という記述があります。なるほど、電力自由化を行うと、新規参入が進んでプレイヤーが増えるというメリットはもたらされますが、市場メカニズムがより明確に働くため、下がる時は下がるけれども、上がる時もタイムラグをおかずに野放図に上がります。
国全体のエネルギー需給において、安いエネルギーを構造的に調達する工夫がない限りは、原油、ガス、石炭の値段が上がれば、電力料金もすぐさま上がるという世界になるように思えます。
発送電の分離も平時であれば相応のメリットがあるのでしょうが、再生可能エネルギーの新規電源が多数ぶら下がることが想定されている現時点で「理想的な発送電分離」をしっかりと行おうとすれば、送電部分への兆円単位の設備投資が必要になります。これも電力料金の上昇要因です。それ以外に再生可能エネルギー固定価格買取で上昇する部分もあります。
こうしたことを考えると、1990年代に構想された発送電分離を主軸とする電力自由化を今行うのは、ほんとうに得策なのかと思えてきます。論点整理で上げられたいくつかの選択肢について、しっかりとしたモデルを作って費用便益分析を行うなり、電力料金のシミュレーションを行うなりして、価格に与える真の影響を確かめてから着手するのがよいと考えます。
個人的には、2010年代入った今行うべきは、1990年代には考えられなかった電力需給およびエネルギー需給の構造の改革ではないかと思います。すなわち、日本が島国であるという制約を取り払って、電力であれば超高圧の直流海底送電ケーブルによってロシアや中国から低コストの電力を輸入してくる。化石燃料であれば、やはりロシアや中国・韓国からパイプラインを引いてガスなどを日本に運んでくるといった、東アジア全域を視野に収めた電力・エネルギー需給の最適化です。こうした「燃料の大元」が安くなる構造をビルトインすると、日本のエネルギー・電力価格はほぼ確実に下がります。これを行うための新規参入者が出やすくるなるような規制改革、支援政策が必要ではないでしょうか(実際にこれを行おうとすると、既存の制度が電力輸入やパイプラインでのガス輸入を想定していないために、制度上のハードルがものすごいと思います)。
北海やバルト海を越えた海底送電ケーブル網の計画が進んでおり、すでにパイプライン網が海を越えて張り巡らされている欧州のことを考えれば、宗谷海峡や対馬海峡を越えた海底送電ケーブルやパイプラインはまったく非現実的ではありません。事業性についても、欧米ではプロジェクトファイナンスによって総事業費の大部分をまかなうファイナンスが成立していますし、日本で実施する場合にも内外のエネルギー価格差、電力価格差を考えれば、十分に採算が合います。新規事業者だけでなく、まさに電力会社がこれに取り組むというのもよいでしょう。
そのような「国を開く」電力改革が進展することを期待しています。
先日やらせていただいたセミナーでは内容構成を欲張りすぎたため(3カ国×3セクター)、それぞれの国の個別セクターについてはごくおおまかなところしかお伝えできませんでした。フォロー情報ということで、インドの都市鉄道のなかでももっともボリューム感のあるムンバイの状況について、全体像を調べて見ました。
■ムンバイ都市鉄道ビジネスへの参入機会
ムンバイでは複数の都市鉄道プロジェクトが動いており、よく整理してかからないと、どれがどれだかわからなくなる状況があります。背景を確認してみると、インドの大都市の鉄道プロジェクトはその都市を与る自治体が独占的に実施するわけではなく、「プロジェクトを動かす権利を持つことができる公的事業体」がいくつかあって、各事業体がいわば縄張り争いをして事業権を勝ち取るような状況があることがわかりました(Tram Actという法律が下敷きになっているようです)。
そのため、ムンバイ中心部の「ムンバイメトロ」(Mumbai Metro)はMumbai Metropolitan Region Development Authority(MMRDA)を中心としたコンソーシアムが事業権を得、ムンバイ郊外の新都市であるナビムンバイのナビムンバイメトロ(Navi Mumbai Metro)は同新都市の都市開発を行っているCity and Industrial Development Corporation of Maharashtra Ltd(CIDCO)が仕切るという状況が生まれています。日本の首都圏で東京メトロと都営地下鉄が併存しているのに近いと言えば近いです。ただ、日本と違うのは両社が競り合う関係にあり、新規案件の計画が出てくると「この案件はウチのものだ」と、権益を奪い合う図式が見られることです。
このような都市鉄道プロジェクトにおいて日本を含む外国企業がビジネスを行う余地としては、事業権を獲得するコンソーシアムに参加(出資)して「内輪のプレイヤー」となり、鉄道運営や車両納入などを自ら手がける形態と、事業主体から出る公開入札に応じる形で車両納入などを受注する形態とがあります。
また、都市鉄道の新線建設プロジェクトとは別に、ムンバイ都市圏ではアジア最古の都市鉄道網であるムンバイ近郊鉄道(Mumbai Suburban Railway)がインド国鉄(Indian Railways)によって運営されており、これが毎日724万人を運んでいます。3路線、465路線キロ、138駅から成るいわば老朽化が進んだインフラであり、こちらでも更新プロジェクトが進行中です。外国企業の参入機会は、おそらくはインド国鉄による車両調達の公開入札という形になるでしょう。
■ムンバイの公共交通利用者
ムンバイ都市圏の人口は約1,800万人。通勤者の88%が鉄道かバスを使って通勤しています。
古くからあるムンバイ近郊鉄道のラッシュは文字通り殺人的なもので、無理な乗車が原因となって命を落とす人が1日平均10数名もいるという記述を各所で見かけます。以下の動画にその混雑ぶりが表れています。
Youtube動画:How to get on a train in Mumbai
上述のように1日の乗客は724万人。ピークの時間帯には定員1,700名の9両編成に4,700名が乗車するそうです。
ムンバイ近郊鉄道の駅の便宜が得られない地区ではバスが公共交通の主役です。そのバスに乗るにもこの通り、大変な苦労が強いられます。
Youtube動画:Catching the Bus in Mumbai
ムンバイの公共バス最大手事業者のBEST Undertakingは4,680台の車両を保有し、1日480万人の利用客があります。比較対象ということで東京都営バス(都バス)を見ると車両は約1,500台、1日の利用客は56万人強です。この数字がそのまま使えるとすれば、ムンバイでは1台当たり1,000人強、都バスでは1台当たり380人前後の乗客を運んでいます。通勤時間帯のムンバイのバス車内の混雑度は相当なものでしょうね。
ムンバイ近郊鉄道とBEST Undertakingバスの利用者を合わせると約1,200万人。
国交省が2007年に行った大都市交通センサス調査によると、首都圏の鉄道利用者数は約4,000万人。これには及びませんが、近畿圏の鉄道利用者数1,300万人とほぼ同じ規模があり、依然としてかなり大きな都市交通需要です。
■ムンバイが抱える地理的なボトルネック
ムンバイの公共交通のラッシュが大変な背景には、ムンバイが地理的なボトルネックを抱えているということがあります。以下がムンバイの地図(出典:Google Map)。参考までに同縮尺の東京の地図をその下に掲げます(出典:Google Map)。
ムンバイの西側にある半島の先端が英国の植民地時代から栄えた繁華街。そのやや北に現在の商都ムンバイの中心があります。この近辺に多くの企業が集まっているため、朝の通勤時にはムンバイ郊外からここに向けて混雑が発生します。特に東側にある計画的な新都市ナビムンバイのあたりから通う人は地峡のようになっているターネーを通過せざるを得ず、ここがかなりなボトルネックになります。
ムンバイ全域で交通渋滞がひどいという報告がありますが、このターネーの交通渋滞もかなりひどいようです。
Youtube動画:Traffic jam in Thane
その他、ムンバイの交通渋滞のひどさを伝える動画には、以下のようなものがあります。
Youtube動画:Longest Traffic Jam - Mumbai.
Youtube動画:Traffic in Mumbai after Rain
■3つの大きなプロジェクトが動きつつある
ムンバイの鉄道とバスの大変な混雑状況と自動車の交通渋滞の抜本的な緩和のためには、大きくは以下の3つの方策が必要です。
- ムンバイ近郊鉄道の駅がカバーしていないエリアに都市鉄道の路線を建設する。
- 新都市ナビムンバイ地域に新路線を建設し、ムンバイ旧市街を結ぶ路線も設ける。
- ムンバイ旧市街から新都市ナビムンバイ(特に建設中のナビムンバイ国際空港)に向けて、いわばバイパスのように海の上を渡る路線を建設する。
各々に対応したプロジェクトはすでにスタートしていて、1に対応したものが「ムンバイメトロ」、2が「ナビムンバイメトロ」、3が「ムンバイ・トランスハーバー・リンク」(Mumbai Trans Harbour Link)です。
なお、上の地図に見えている半島部分とナビムンバイを結ぶ橋は、ムンバイ・トランスハーバー・リンクとは別物のようです。これの詳細はまだよくわかりません。
これらができあがれば、1,200万以上いる通勤者のかなりの割合が新路線を利用するようになることが見込まれます。
ムンバイメトロの総投資額は、最初の区間の運行が始まろうとしているフェーズ1(2006〜2015年)にフェーズ2(2011〜2016)、フェーズ3(2016〜2021)を合わせると、こちらの記事によれば3,600億ルピー(5,400億円)。
ナビムンバイメトロの最初の区間の総投資額は、こちらの記事によれば約1,000億ルピー(約1,500億円)。
ムンバイ・トランスーハーバー・リンクの総投資額は、車両用レーンを含む橋全体で、こちらの記事によると880億ルピー(約1,320億円)。
3つのプロジェクトを合わせると約8,200億円という非常に大きな規模となります。
これらのプロジェクトがどのような進捗状況にあり、すでに関わっている外国企業はどんな顔ぶれか、今後日本企業が受注する機会はどのへんにありそうか、融資する主体(世界銀行など)や投資する主体から見て"Viableな"(採算が取れる)プロジェクトと見なされているかどうかということについては、機会を改めてまた書きたいと思います。
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
昨年のこの時期はこってり仕込みをした「新春夢想」を以下のように5本掲げさせていただきましたが、今年の三が日はゆるゆる過ごしました。
以下の新春夢想、今見ても、中身がまだまだ「夢」っぽいですね^^;。ということで再掲。
[新春夢想] 関西空港の営業権をPPPで海外資本に譲渡
[新春夢想] 発電ビジネスを組み合わせて入居コストを下げるスマートシティ
[新春夢想] 福岡空港をPPPにより拡張、ローコストキャリアのハブにする
[新春夢想] 公的年金資金で官製インフラファンドを設立してアジアに投資する
[新春夢想] 在来線を走れる秋田新幹線E3系をコスパの高い高速鉄道として海外に売る
■拙著「電力供給が一番わかる」刊行のお知らせ
さて、そろそろ店頭に並ぶタイミングですので、拙著のお知らせをさせていただきます。
2009年夏から私的なスマートグリッド勉強会(現在はスマートコミュニティ勉強会と改称)の世話人をやらせていただいていることがきっかけとなって、「スマートグリッドも含めて電力供給全般の理解ができるような本を書いてみませんか」というお話が参りまして、夏から秋にかけてうんうんうなりながらまとめていた本がようやく形になりました。
技術評論社さんから「電力供給が一番わかる」という書名で出ています。
今週末ぐらいから書店に並ぶようです(大きな書店の電力実務書の棚にあると思います)。立ち読みが難しい方のために、最終稿のゲラを4見開き分、末尾に掲げましたので、それをご覧になって中身をご判断下さい。目次情報もあります。
■本書の狙い
本書の狙いは、一言で言うと、電力業界以外の方がスマートグリッド、スマートシティ、再生可能エネルギー発電事業に携わる際に、どうしても必要になる電力系のキーワードをセットにして一冊に収めたかった、というところです。これ一冊に目を通すことで、スマグリ系の情報だけに接しているだけではどうしても理解できなかった、電力業の核の部分が理解できるようになると思います(以下の目次参照)。
ソフトバンクさんのように、他業界から再生可能エネルギー事業に参入される方にも同じことが言えます。
■数珠つなぎに必要になる知識
以前の勤務先でスマートグリッドのリサーチをしばらく行い、その後、上記のスマートグリッド勉強会で関連の知識のアップデートを続けていくなかで、スマートグリッドを理解するには、かなり広範囲な知識が必要であることがわかってきました。例えば次のような具合です。
例1:スマートグリッドは、電力の需給の課題をITの仕組みを使って解決するものだと言えますが、電力の需給は「同時同量」や「電力系統」に関する基礎的な理解がないと、どうにもイメージしにくいものです。また、日本固有のスマートグリッドのニーズを理解するには、日本の「電気事業制度」の基本事項に加えて、各電力会社の系統の連系の仕方が欧州のように「メッシュ型」ではなく「くし型」であり、「連系可能量」に制約があって、「太陽光」や「風力」のように出力変動の激しい電源を系統に接続することが難しいという大前提を踏まえる必要があります。その上でないと「定置型蓄電池」のスマートグリッド的な活用のよさが見えてきません。「ダイナミックプライシング」や「デマンドレスポンス」の役割もそうした事柄を踏まえて初めて、「あ、そういうことか」とわかってきます。
例2:日本における「再生可能エネルギー」の行方を概観するには、「固定価格買取制度」のような制度面に加えて、「太陽光」「風力」「地熱発電」「バイオマス」の仕組みに関する理解もほしいところです。また、欧州では陸上風力もさることながら「洋上風力発電」が盛んに行われているのに、なぜ日本ではそうではないのかということもわかれば、なおよいと言えます。
その他、「原発事故以後」に、電力供給の基本的な構造がどのように変化したか、資源小国である日本が従来から頼ってきた「LNG・天然ガス」や「石炭」が日本にとってどういう意味を持ち、それに対して、各再生可能エネルギー発電はどういう位置づけになるのか、というような、既存の発電燃料との対比も不可欠です。再生可能エネルギー発電の動向だけを見ていると、日本の電力需給という大きな図式での方向感が得られないのが普通です。
といった具合に、電力に関係した世界では、1つの事柄を理解するのに数珠つなぎに色々な事項の理解が必要になってきます。しかし、われわれ電力業界の外にいる人間にとっては、その数珠つなぎで必要になる事項をインプットしようと思っても、あちこちに散在している資料に目を通す必要があって、効率的な勉強ができにくいという状況にありました。
そのため、本書では、そうした数珠つなぎで必要になる事項を各方面から拾って、前提となる知識がない方にもわかりやすいように記してみました。これ1冊で「展望」が開けるように書いたつもりです。
現在、議論されようとしている「発送電分離」についても、日本の数多くのメーカーが取り組んでいる「スマートシティ」についても同様で、そのコンテキストを理解するには、日本固有の電力事情をインプットしておく必要があり、結局、本書で取り上げているような諸事項をざっと理解しておくことが早道となります。
ということで、ご関心がおありでしたら、ぜひ立ち読みなどをお願いします。
とはいえ、大きな書店がお近くにないとか、書店で見つけられなかったという方のために、以下に4見開き分をサンプルとして掲げます。
■ページ見本
■「電力供給が一番わかる」目次
第1章 電力供給の基本
1 同時同量
2 発電と送電と配電
3 日本の電力系統
4 東日本と西日本の周波数
5 原発事故以前の電源構成と事故以後の電力供給
6 再生可能エネルギーの課題
第2章 日本と海外の発電と送電
1 電源別発電コスト
2 商社が取り組む海外の発電
3 中東で盛んな発電+海水淡水化
4 新興国の発電所建設ラッシュ
5 欧州のメッシュ型送電網
6 2003年アメリカ北東部大停電
7 中国の超高圧長距離送電
8 日本の電気事業制度
9 活発にならない日本の電力ビジネス
第3章 スマートグリッドの基本
1 スマートグリッドとは
2 スマートメーター
3 スマートメーターが普及するアメリカ
4 ダイナミックプライシング
5 課題も残るスマートメーター
6 日本スマートグリッド不要論はなぜ出たか
7 スマートグリッド実証実験
第4章 スマートグリッドの活用
1 HEMS
2 BEMS
3 デマンドレスポンス
4 ビークル・ツー・グリッド
5 定置型蓄電池の種類
6 スマートグリッド的な定置型蓄電池利用
第5章 再生可能エネルギー発電の基本
1 再生可能エネルギー発電の動向
2 固定価格買取制度
3 太陽光発電の基本
4 風力発電の基本
5 太陽熱発電の基本
6 地熱発電の基本
7 ごみ発電の基本
8 バイオマスの基本
第6章 これからの電力需給を考えるためのキーワード(1)
1 LNGとシェールガス
2 ガスタービン発電
3 ガスコンバインドサイクル発電
4 コージェネレーション
5 今後も重要な石炭の位置づけ
6 クリーンな石炭発電(1) 超々臨界圧
7 クリーンな石炭発電(2) IGCC
8 スマートシティを理解するポイント
第7章 これからの電力需給を考えるためのキーワード(2)
1 洋上風力発電
2 UHV(超高圧送電)
3 HVDC(高圧直流送電)と海底送電
4 可変速揚水発電
5 企業の自家発電
6 発送電網分離
7 日本のスマートグリッドのゆくえ
ムンバイメトロの関連を調べていてたまたま見つけた記事で、ムンバイの都市開発を取り仕切っている公的機関Mumbai Metropolitan Region Development Authority (MMRDA)が12月12日から、ムンバイ都市圏のモノレール、メトロ、バスで統一的に利用できるICカードの総合的なシステムの設計、施工、ファイナンス、オペレーション、トランスファーを行う事業者の事前資格審査申込を受け付けていることを知りました。
PPPの仕立てなので、設計・施工を自ら調達した資金で行い、ICカードを売って得られる収入で長期的に回収するスキームのようです(あるいはサービスを丸ごと提供して、サービスフィーをムンバイ市側からもらうスキーム?)。想定事業費は約50億円(350crore)。サイズは小さいですが…。
それから、12月12日から始まった募集の締切が、応募要項を読むと何と2012年1月3日です。すみません、こういうタイミングで見つけてしまったもので。
事前資格審査通過の条件の1つは、1日100万件のトランザクションを処理する交通ICカードシステムの経験がある事業者であること。日本の大都市圏の公共交通ICカードシステムを手がけたことがあるメーカーさんなら、難なく条件をクリアすると思います。その他の条件などについてはRFQのドキュメントをお読み下さい。
RFQドキュメントはMMRDAサイトのTenders and Noticesセクションにある"RFQ for Integrated Ticketing System (ITS) Project"をクリックして、社名など必要事項を入力すると、数分後にメールで自動的に送られてきます。ドキュメントは68ページあるしっかりしたものとなっています。Applicationは社名などごく常識的な項目に記入すればいいだけです。5万ルピーの申込金を支払う必要があります。
次回はこの種の案件情報が見つかったら、もっとすばやくお知らせできるようにがんばります。
数日前の報道によると、現在インドを訪問中の野田首相が本日、海水淡水化などの共同事業について発表するということなので、関連の数字や動向をまとめてみました。
■日本企業にとってのインド水市場
水は日本のインフラ輸出政策の中でも特に力が入っているセクターですが、インドの場合、日本企業が入っていってもなかなか採算が取りにくいだろうということが言えます。先日の投稿でも少し触れましたが、以下のような現実があります。
- インドでは都市人口2億8,000万人のうち、上水道の便宜を受けられるのは50%国全体で、浄水施設から出た水のうち、40〜50%は漏水ないし盗水により失われている
- 水道メーターの未設置および故障により、メーターで計量されているのは配水量の24%
- 地方議会の反対などにより水道料金を改訂できずに現在に至っている自治体も多い
- 水道事業にかかるコストのうち水道料金でカバーされているのはインド全体で20〜30%
(2009年, Asian Development Bank and Government of India, "Toolkit for Public Private Partnership in Urban Water Supply for Maharashtra"による)
簡単に言えば、水道料金の徴収がしづらく、徴収できたとしても設備投資に見合う料金水準にできるかどうかはわからないという市場環境です。こちらのWikipediaでも「1m3当たりの上水道・下水道料金が0.1米ドルであり、オペレーション・メンテナンスコストの60%しか回収できない水準だ」と記されています。回収できない分は地方自治体が税金で補填しています。
日本の消費者に請求されている水道料金は1m3当たり100円〜150円といったところでしょうか。インドで設備投資を行って1/3の水道料金を実現したとしても、0.1米ドルとは大きな開きがあり、現実的な商売にはなりません。
そこで消去法的に残るのが海水淡水化プラントの運営事業です。海水淡水化であれば、エンドユーザーから水道料金を徴収するのではなく、地方自治体の水道事業公営企業が大口で買ってくれるという事業モデルが成立します。この時、契約を結ぶ売水料金の水準が妥当であるなら採算が確保できます。
■インドの海水淡水化市場の規模
インドの潜在的な海水淡水化市場の規模を知ることのできる数字が見つかったので抜き書きします(Desalination: Debatable, Yet Full of Opportunities)。2009年時点のものです。
- インドにおける浄水の需要(年間) 9,000億m3
- インドにおいて実際に供給されている浄水(年間) 5,000億〜6,000億m3
- インドにおいて安全な水にアクセスすることができない人口 2億2,500万
- 2015年までの世界の海水淡水化市場 950億米ドル
- 中東における年間の海水淡水化市場 80億米ドル
- 世界の水処理市場(年間) 4,000億米ドル
- インドの水処理市場(年間) 10億米ドル
- 世界の水市場における海水淡水化のシェア 0.1%
出典が上がっていない数字なので取扱注意ですが、おおよその規模感はわかります。インドで海水淡水化市場が動き始めれば、少なくとも年間10億ドル程度の大きさになるのではないでしょうか。
ご参考:Pike Research:2016年までの海水淡水化投資は878億ドル
■インドで海水淡水化を必要としている地域
インドでは気候変動によって降水パターンが変化しており、2009年5月に世界銀行が刊行したレポート"Climate Change Impacts in Drought-and Flood-Affected Areas: Case Studies in India"(気候変動が渇水および洪水の影響を受けやすい地域に及ぼす影響:インド国ケーススタディ)によると、インド東岸のアンドラプラデシュ州(人口846万、州都ハイデラバード)とマハラシュトラ州(人口1,123万、州都ムンバイ)の2州が渇水の影響を受けやすい要注意地域となっています。
アンドラプラデシュ州の南に隣接するタミルナドゥ州(人口721万、州都チェンナイ)でも渇水がひどく、チェンナイ(人口468万)では2003年から2004年にかけて貯水池が干上がり、上水道供給サービスができなくなって給水車によってしのいだと伝えられています(Case Study of Chennai, India)。その後、チェンナイでは南アジア最大の海水淡水化プラント(造水量10万m3/日)が操業し、水不足が解消しました。
これらの州の諸都市は潜在的に水不足を抱えていると推測され、海水淡水化のニーズが大きいのではないかと思われます。チェンナイでは間もなく造水量10万m3/日の2つめのプラントが完成するほか、造水量20万m3/日の3つ目のプラントが計画されています。インド最大の都市ムンバイでも複数の海水淡水化プラントが検討されていますが、こちらはコストの問題があって進捗がストップしています。自動車産業の集積があるチェンナイの場合は海水淡水化のコストを吸収できる産業顧客が多いのに対し、ムンバイの場合はほとんどがコンシューマであり、コストを顧客に転嫁できないという事情があるそうです。
これらの地域以外にマハラシュトラ州の北に隣接するグジャラート州(人口600万、州都ガンディナガル、最大都市はアーメダバード)でも需要があるという指摘があります(Desalination: Debatable, Yet Full of Opportunities)。
■現地で受入可能な「単価」
さて、こうした潜在需要を抱えた諸都市で日本企業が海水淡水化プラント運営事業(プラント建設+設備納入+長期運営)を行って実際に採算が取れるかどうかは、売水の価格水準によると思います。参考になる数字がいくつか見つかったのでメモします。米ドルに統一しています。
●チェンナイの海水淡水化プラントを受注したインドのインフラエンジニアリング会社IVRCLとスペイン水大手Befesaによる特別目的会社Chennai Water Desalinationがチェンナイ市水道公社に請求している料金
92米セント/m3(現時点のレートで71.75円、48.74ルピー)
*チェンナイ海水淡水化事例の詳細は私が書いたこちらの記事を参照。
●インドにおける海水淡水化のコストを論じている記事にある、Narmada川から約400km離れたKutch districtに運んだ浄水のコスト
68米セント/m3(同52.99円、36ルピー)
●同記事でグジャラート州の水当局担当者が「海水淡水化は高い」と主張した際の海水淡水化のコスト
79米セント/m3(同61.82円、42ルピー)
●ムンバイの海水淡水化プロジェクトにおいて、ムンバイ政府当局者が「ムンバイで見積もった海水淡水化のコストは高い」と主張した際のコスト
1.31米ドル/m3(同102円、70ルピー)
●世界でもっとも安い水準とされているシンガポールのTuas海水淡水化プラントによるコスト
49米セント/m3(同38円、26ルピー)
●2009年にNew York Timesで報道された世界でもっとも安い水準にあるというイスラエルの海水淡水化プラントによるコスト
52.7米セント/m3(同41円、28ルピー)
●2006年刊行の世界の海水淡水化の状況をレポートした報告書の中で言及されている中東の海水淡水化コスト(多段フラッシュ方式によるもの)
50〜60米セント/m3(同39〜46円、27〜32ルピー)
これらから、インドの海水淡水化は、先行事例ではm3当たり90米セント前後で成立していますが、地方政府当局者は75米セント前後を期待していると言うことができると思います。
また、ベンチマークという意味では、世界の先端事例では50米セント前後を実現しています。50米セント台が実現できれば、上記記事で400kmもの距離を運んだ浄水のコストが68米セントとされているので、十分すぎるぐらい競争力を持ちます。
なお、ムンバイの見積が1.31米ドルときわめて高いのは、巨大都市ならではの用地取得費の高さに加えて、ムンバイが面する海では汚染がひどく、汚染物質の除去に上乗せのコストがかかるからだと、ある記事が指摘していました。
■日本企業がインドの市場を獲得するには
日本企業が作る海水淡水化プラントと日本製の逆浸透膜によってこうした単価が実現できるのかどうか、今の私は数字を持っていません。
半年前ぐらいに書いたチェンナイの海水淡水化事例の記事について、一度、ある水関係の方から問い合わせをいただいたことがあります。その方は、「48.74ルピー/m3(92米セント、71.75円)という価格水準がどうしても納得できない。どのように計算してみてもこれでは赤字になる」ということをおっしゃっていました。こちらはチェンナイ事例がどのようにしてその水準を実現しているのか詳細な事実を持たないため、「資料ではそのように記載されている」と伝えるほかなかったですが。
色々な要素を勘案すると、今のままではオールジャパンでインドに海水淡水化プラントを作っても、現地で要請されているような単価を実現するのは難しいのではないかと思います。インド市場に合ったプラントの仕様、インド市場に合った低価格の逆浸透膜を用意することによって初めて、大きな可能性を持つインドの海水淡水化市場が獲得できるのではないでしょうか?
幸いに、インド国内でも、海水淡水化プラントを手がける企業はいくつかあるようですし、逆浸透膜を製造している企業もあります(将来の市場は巨大ですからインド国内勢も着々と準備を進めています)。当面は、そうした企業を、買収とは言わないまでも提携をして、それらの企業の製品を要所要所に投入するアプローチが現実的ではないかと考えます。住友商事がインドの水テクノロジー企業と提携したという先行事例もあります。買収・提携の対象になりうる水関連の企業はスペインにたくさんありますし、中東にもいくつかありそうです。
そうしたところから「現地仕様で作るノウハウ」を得て、将来的には家電業界や自動車業界が取り組んでいるように、現地で設計、現地で生産という体制を取るのがよいのではないでしょうか。
海水淡水化の世界市場はインドに限らず、中国でも大きなポテンシャルがありますし、中東では産油国以外はまだ手つかずです。これから立ち上がる大きな世界市場でシェアを取るという考えに立てば、現地で設計、現地で生産という体制が賢明な方策ということになると思います。
日本国内での製造が仮になくなったとしても、インフラビジネスそのものが本来は特別目的会社による配当収入を収益源とするビジネスですから、配当という形で大きな実りを刈り取ればよいわけです。これは他のインフラ分野にも言えることです。
前回述べたように、EOI(Expression Of Interest)から落札まで2−3年かかるのが外国政府によるインフラPPP案件。それに対して民間が進めるインフラ案件は、もっとスピーディな動きが期待できます。ということで、日本企業は海外の民間ベースの案件にも目を配るべきだと思います。
民間系インフラ案件の例には、用地をすでに保有している不動産デベロッパーが実施する都市開発および工業団地開発や、特定国の政府から特定企業が勅許を得て行う大規模開発案件があります(なお、都市開発も工業団地開発も日本政府のインフラ輸出支援施策の対象になっています)。
後者の一例が、タイ最大手建設会社イタリアンタイデベロップメント(Italian-Thai Development, ITD)がミャンマー政府から75年にわたるコンセッションを得て開発しているダウェー深海港とそれに隣接する大規模工業団地です。ここに日本企業が受注できそうなインフラ案件がいくつか含まれているように思います。先ほど、このプロジェクトの全体像を説明する投資家向けの資料を見つけたので、それを元に説明します。
■ダウェー開発プロジェクトの概要
ダウェー開発プロジェクトの概要については今年の6月に弊ブログでまとめたことがありますが、非常に興味深い案件なので、アップデートしながら改めて中身を確認してみましょう。
まず、インドシナ半島のメコン川流域に関係するベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、さらに中国の5カ国は、アジア開発銀行が作成した大メコン圏(Greater Mekong Subregion)という経済発展シナリオを共有し、3年ごとにGMSサミットを開催するなどして、政治・経済の相互交流を深めています。
大メコン圏では人とモノの行き来がスムーズになるように、すでに東西、南北の幹線道路が複数ルート存在し、いわゆるアジアハイウェーの一部を形成しています(以下の地図を参照)。しかし、タイ・ミャンマー間については、バンコクのはるか北部にあるピサヌローク(Phitsanulok)からミャンマー最大の都市ヤンゴンへ抜けるルートか、もっと北部の山あいのルートがあるぐらいで、産業の大動脈とも言うべきホーチミン・バンコク間のルートは、タイ・ミャンマー国境に近いタイ側の都市カンチャナブリで行き止まりという状況にあります。付記すれば、カンチャナブリは映画「戦場にかける橋」で知られるクワイ川のある町です。
このルートをカンチャナブリからミャンマー西岸の漁村ダウェーまで通し、さらにダウェーに深海港を建設してインド洋に出られるようにしようというのがダウェー開発プロジェクトです。深海港建設だけではポテンシャルを発揮しきれないということで、深海港に隣接した大規模工業団地も計画されています。以下がそのプロジェクトの概要。
・イタリアンタイは75年間のコンセッションをミャンマー政府から得て、ダウェーに深海港と船荷用ヤードを建設。完成後は港湾運用とメンテナンスを行う。並行して石油化学工場、精油所、製鉄所、発電所、バンコクからの道路・鉄路との接続、石油パイプラインから成る大規模工業団地を建設、運用する。
・深海港は2万〜5万トンの船が25隻同時に接岸できる22の埠頭を備える
・第1フェーズの事業費80億ドル。全フェーズでは580億ドル。
・250平方キロの敷地に2つの工業地区を造成。付設する発電所の発電容量は4,000MW。
全フェーズでは約4兆5,000億円という非常に規模の大きなプロジェクトです。
■大きなポテンシャルを持つエネルギープロジェクト
ダウェー深海港→カンチャナブリ→バンコク→プノンペン→ホーチミンとインドシナ半島を東西に横断する物流ルートが持つ意味は、実は私自身も先ほどまではよくわかっていませんでした。
これまで理解していたのは、日本、韓国、中国の輸出品目がベトナム東岸の港湾で陸揚げされ、難所マラッカ海峡をバイパスする形でダウェー港に抜けてインド洋へ出ることで、それらの工業国に有利な物流環境が生まれるということでした。この区間にかかる日数が数日短縮されます。これはこれで喜ばしいことです。
しかし、地図をじっと眺めているうちに、東から西へという工業製品の流れだけでなく、西から東へと流れるモノもあるなということがわかってきました。中東産油国などからやってくる原油やLNGの流れです。これらがマラッカ海峡を通過せずに、ダウェーで陸揚げされることによって何が起こるでしょうか?
すなわち、マレー半島をぐるっと回ってバンコク以西で精製していた石油製品がまさにダウェーで生産可能になります。また、LNGをダウェーで陸揚げすることにより、パイプラインでタイ内陸部、ミャンマー国内などへ運ぶことも可能になります。さらにはダウェーで陸揚げしたLNGを使って大規模な発電を行えば、電力不足で悩むミャンマー国内などに送電をすることも可能になります。
イタリアンタイデベロップメントがダウェー深海港に隣接する工業団地をなぜ計画したか、また、その工業団地になぜ石油精製プラントがあり、4,000MW(原発4基分)もの大規模な発電所をなぜ併設するのかが、これでようやく納得できたという次第です。そのままでは素通りしてしまうエネルギー資源の流れをダウェーで堰き止め、そこで付加価値を付けて、ミャンマーやタイ、さらに大メコン圏の諸都市に送り出そうというわけです。石油化学製品は中国へも陸送される可能性があります。
プロジェクトの全容を説明した資料では、ミャンマー海域にガス田があることもわかります。そこで産出されるガスは天然ガスのままパイプラインで運ばれるか、量がさばききれないようであれば液化してLNG船で輸出に回ることになるのでしょう。
ダウェー開発は物流インフラプロジェクトというよりは、東アジア有数の規模を持ったエネルギーインフラプロジェクトだということが明らかになってきました。
■日本企業にとってどういう好機があるか?
この大きなポテンシャルを持った案件に対する日本の関与については、報道や政府の発表で以下が伝えられています。
・経団連のミッションが2月にタイでITDのプレゼンを受ける。
Japanese keen on Dawei work(元記事は2011年2月18日)
・ITD傘下のダウェー開発会社CEOが6月にアジア各国を巡るロードショーの一環で日本を訪問。
日経:ミャンマー南部の大型開発、日本勢に川上投資期待 開発会社社長(2011年6月20日)
・工業団地内の製鉄所建設において日本企業の関与が伝えられる。
Bangkok Post: Ratch, ITD do Dawei deal(2011年11月15日)
・11月にインドネシア・バリで開催された第3回日本・メコン地域諸国首脳会議において、野田首相が「連結性の観点からミャンマーのダウェーの連結性や経済特区の開発等を内容とする総合開発調査の実施」を新たに決定した。
外務省発表:第3回 日本・メコン地域諸国首脳会議(2011年11月18日)
ということで、相応の仕込みは進んでいるようです。
さて。私の見立てでは、この案件にはまだまだ日本企業の参画余地が含まれているように思います。具体的にはこの資料の末尾にある以下のサブプロジェクトです。
(上掲表中のフェーズ3)
3.3 鉄道 約297億バーツ
3.4 送電線 約111億バーツ
3.5 石油&ガスのタイへのパイプライン 約538億バーツ
*バーツを2.5倍すると円になります。
これらの案件については、ITDから完工までを請け負ういわゆるEPC契約ではなく、中長期にわたってオペレーションを請け負ってそこから使用料収入を得るインフラビジネスとして受注することも可能なのではないかと考えます。言うまでもなく、日本政府のインフラ輸出支援策にあるJBICのプロジェクトファイナンスを前提とした形の受注です(バンカブルでなければなりませんが)。フェーズ3は2016年に建設スタートなので、おそらくはまだ受発注が決まっていないはず。まだまだ仕込み時だと思います。
前投稿で書いたように外国政府が取り仕切るインフラPPP案件は、受注まで2−3年かかります。こちらについてはITDと話をすればよいだけなので、比較的早期に決まる可能性があります。海外インフラ案件第1号を獲得したい企業さんにはよいのではないでしょうか?
さらには、4,000MWの大型火力発電案件。これについては上のプロジェクトリストには含まれておらず、おそらくは別建てなのでしょうね。規模からすると5,000億円以上を要する超大型案件です。現在、得られる限りの報道ではどこが受注したとも書いていません。タイ国に最大手発電会社がありますが、おそらく資金調達は無理なはず。日本企業の出番です。ミャンマー海域で産出する低コストの天然ガスを使うことができれば燃料費も抑制でき、物価水準が低い国への売電でも採算が合う可能性があります。アプローチしてみる価値は十分にあると思います。
先日、インドネシア、インド・グジャラート州、オーストラリアの「案件情報」に焦点を当てたセミナーをやらせていただきました。
この時、情報を整理していて気づいたのは、インフラ案件は何も外国政府が行うPublic Private Partnership(PPP)に限らないという、ごく当たり前のことでした。PPPは海外インフラ案件の1形態に過ぎず、視野を広く取れば「PPPではない政府系案件」や「民間が主導するインフラ案件」も見えてきます。日本政府のインフラ輸出政策の目玉とも言うべきJBICによるプロジェクトファイナンスは、PPP以外のインフラ案件であっても、現地でSPCを設立して長期のインフラ事業を行う限りは対象になるはずですから、受注を図る企業はPPP以外にも目を配ってチャンスをつかむべきです(対象分野はこちらの投稿にあります)。
また、インドネシアに何度か行くうちに「インフラPPP案件の受注には実に時間がかかるものだ」ということがよくわかってきました。案件情報が公開されて(EOI)から落札者が決まるまでに3年はかかります。これはインドネシアの場合です。PPP先進国であるオーストラリアの場合は、万事先進国なりのスピードが期待できるわけですが、それでも輸送セクター(重厚長大案件なので時間がかかる)で平均20ヶ月程度かかっています(KPMGがオーストラリアのPPPの課題をレポートした"Review of barriers to competition and efficiency in the procurement of PPP projects"による)。これはかなり早い方だとこのとです。
EOIから落札者決定まで、日本にいてぼんやり待っていればいいかと言うと、そういうことは絶対にありませんから、現地で誰かが張り付いて、政府側の進捗があり次第必要なアクションを取らなければなりません。自社案件であれば、事業計画にゴーが下った後は事業立ち上げチームがフルスピードで動けばいいわけですが、外国政府のインフラPPP案件では、チームを作ったはいいが2−3年は相手政府の出方待ちという状況が続くということです。なかなか歯がゆい時期が続きます。
これは案件をハンドリングする外国政府にとってもPPP案件は「重たいもの」であり、万事に時間を要すということが背景にあります。いわゆるCapacity(人的なPPP案件の処理容量)が十分な政府はそう多くありません。
こういう現実に対する解法としては、1つの国で複数の案件の準備を同時並行で進めて、チームの仕事が途切れないようにするか、インドネシア、インド、オーストラリアなど近隣国の特定セクターのPPP案件を1つのチームがハンドリングするようにして、やはり仕事が途切れないようにするのがよいかと思います。PPPは、いわば"PPP語をマスターする"といった感じの特殊な知識を必要とする仕事であり、PPPの習熟に相応の投資が必要ですから、相手政府の出方待ちでチームが遊ぶような状況はもったいないです。






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