栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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2007年12月16日の投稿

2007年12月20日 »

もうみなさんこの話は飽きてしまったかもしれませんが、14日に彦根市と原作者側との調停が行われ、ひこにゃん問題については一応の解決を見たようです(ソース)。

ソースにはあまり詳しい情報が載ってないのですが、以下のように書いてあります。

市が「ひこにゃん」の使用を許可した商品内容などを年1回の割合で男性に通知し、一定の監修機会は事後ながらも与える。市の商標権や男性の著作者人格権を侵害するような事例が見つかれば、互いに報告し、対応を協議する。

監修料を支払うのかどうか、監修の対象は絵柄だけではなくキャラクターの性格付け(好物は肉とかの件)にも及ぶのか等はわかりません。ただ、監修が事後的ということで、作者が禁止権を行使するのは実質上できないのではないでしょうか?さらに、

三図柄と異なる図柄であれば、男性が絵本づくりなどの創作活動を自由に行えることも確認した。

ということなんですが、これは、ひこにゃんが人気者になった後に原作者がひこにゃん類似のキャラクターを使った絵本やキャラクタ商品を営利目的で出版していた件のお話しです。2ちゃんのスレで誰かが作者のキャラクタ商品の現物の写真をアップローダーに上げているのを見ましたが(C)表記で作者の名前と絵本の出版社の名前が書いてありました。これは、本来的にはめちゃくちゃです。著作(財産)権を譲渡した後で、(C)表記してもしょうがないですし、著作人格権は作者に残るとは言っても、著作物を利用できる権利は既に作者の元にはないのですから(この話はなぜかテレビではカバーされないんですよね、作者=善、彦根市=悪というシナリオにこだわっているからでしょう)。

ここで、現状(キャラはひこにゃんそっくり)の絵本を例外として継続的に販売して良いと言っているのか、ひこにゃんに似てない程度に改変すればOKと言っているのかはちょっとわかりません。

まあ、彦根市側がある程度折れてひこにゃん引退という最悪の事態は避けられたと言うことで(仮に裁判に持ち込んでもその間はひこにゃんが使えない可能性もありますし)、結果オーライとは思うのですが、個人的には、裁判で何らかの決着をして著作者人格権の濫用に関する判例を作ってほしかったところです。

ところで、実務上は、こういう風に後になって著作者人格権の行使(多くの場合、裏の目的あり)をされないように、契約において、(翻案権等も含めた)著作財産権の譲渡に加えて、著作者人格権を行使しないという特約を結ぶのが通常です。

たとえば、2ちゃんねるでも投稿するときに、いろいろ確認項目が表示されますが、その中には、

投稿者は、掲示板運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を一切行使しないことを承諾します。

なんていう項目があります。また、「電車男」みたいな話があった時に投稿者の一人が「俺の投稿を勝手に編集したのは同一性保持権侵害」などと言い出すのを防ぐためです。

追記: 別のソース(毎日新聞)によれば、「作者の金銭請求は取り下げ」、「『肉が好物』などと性格付ける『翻案権』(ママ)は作者と市のどちらにあるかは『不分明』とし、あいまいにした。」ということです。ほぼ、作者側の要求取り下げに近いと思われます。なお、毎日新聞の記事にある「『肉が好物』などと性格付ける『翻案権』」という記載は完全な間違い。翻案権とは平面イラストをぬいぐるみ化する等の権利のことです。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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