栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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2007年11月30日 »

最近では毎週コンスタントに観るテレビ番組といえば、テレ東の「モヤモヤさまぁ~ず」くらいになってしまいました。この番組の棒読みナレーター、てっきり日本語習いたての外人さんかと思っていましたが、なんとコンピュータ合成音声だったんですね(ペンタックスの「VOICE TEXT」)(ソースはWikipedia)

さすがにちょっと不自然なんですが、「ちょっと味がある感じで不自然」なのがすごいと思いました。本当はもっと自然に発音できるのに番組のグダグダ感に合わせて、わざと棒読み感を出しているのかもしれませんが。

Twitterに書くような話ですみません。

栗原 潔

エイベックス取締役の岸博幸氏のコラムがいろいろなところで批判されています(たとえば、小倉弁護士のブログ池田信夫氏のブログ)。

ここでは岸氏のコラムの内容には直接立ち入りませんが、もっと根本的な点について考えてみようと思います。岸氏のコラムでは、「権利者(著作権者、著作隣接権者)」という書き方で、著作権者と著作隣接権者をまとめて扱っているように思えます。そもそも、これは妥当なのでしょうか?

著作権と著作隣接権は、名前も似てますし、同じ著作権法という法律で定められています。期間を区切って(とは言っても、現代のタイム感から言えばほぼ永続的に)排他的権利を行使できるという点でも似てます。しかし、両者の成り立ちには大きな違いがあります。

著作権は、著作物の創造という人間の根源的活動を保護するための権利と言えます。著作者人格権(日本においては特に強力)という権利が定められていることからもこれはわかります。クリエイターを保護するための権利とも言えます。

これに対して、著作隣接権は、実演家、レコード制作者、放送事業者、有線放送事業者に対して与えられる権利です。

実演家については、分野にもよりますが、かなりクリエイティブな行為を行っていると言えるでしょう。たとえば、ジャズなどでは、実演家は他人の曲をただ演奏しているのではなく、リアルタイムに作曲しているとも言えます。法的解釈は別として、たとえば、コールポーターの曲でアドリブをしているジャズ演奏家は、コールポーターの著作物の二次著作物を創造していると言ってもよいでしょう。

一方、レコード制作者はどうでしょうか?もちろん、レコード制作の録音作業は充分創造的な行為であると言う人もいるでしょう。しかし、著作権法上ではレコード制作者とは「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義されています。レコード制作のプロデューサーに著作隣接権が与えられるのではなく、原盤を作成したレコード会社に著作隣接権が与えられることから、レコード会社の著作隣接権はクリエーター保護を直接の目的とした権利ではないと言えると思います。

では、(有線)放送事業者はどうでしょうか?テレビ番組を作る作業も相当にクリエイティブだと思います。実際、放送番組そのものの著作権者がテレビ局であることも多いです。ただ、野球の試合のように著作物でないものを放送する場合にも、放送事業者が著作隣接権を有する理由は何なのでしょうか?

言うまでもなく、レコード会社や放送事業者に何の権利もなければ、投資の回収ができませんので何らかの保護を提供する必要があります。ということで、レコード制作者・放送事業者の著作隣接権は資本の回収という産業政策的な側面で作られた方便とという要素が強いと言えます。(この辺の説明は、中山「著作権法」の422ページあたりを参考にしています)。

まとめると、著作権そして実演家の著作隣接権はクリエイター保護という要素が強いのに対して、レコード会社・(有線)放送事業者の著作隣接権は産業政策的な要素が強く、性質が異なるということです。

過去において、音楽の著作物を流通させる手段がレコード(CD)しかなかった時には、レコード会社の保護≒クリエイターの保護、と言ってもよかったのかもしれませんが、レコード会社をバイパスして音楽を流通する可能性がどんどん増している中で、著作権と著作隣接権をひとつにまとめて議論するのはミスリーディングであると思います。

ところで、個人的には実演家の著作隣接権については、もう少し強化してもよいのではと思っております(実演家の人格権が認められるなどのその方向性はありますが)が、これについてはまた後日。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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