栗原潔のテクノロジー時評Ver2:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 栗原潔のテクノロジー時評Ver2

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2007年8月10日の投稿

2007年8月11日 »

ヒマがあるとちょくちょくロードショーの映画を観に行ってます(平日の夜にお台場のメディアージュで割引料金で観るのがお気に入りパターン)が、本編が始まる前のCMタイムに必ず映画盗撮撲滅キャンペーンのCMが流れますよね。

ちょっと話それますが、このCM、昔は女の子が黒い涙を流して映画を盗まないでと訴えるというダークな映像だったので評判が悪かったと聞いています。大多数の観客はちゃんとお金を払って映画を観に来ているのですから盗人扱いで不快にするのもどうかと思いますし、子供なんかは本当に怖がったりしてしまったようです。ということで、いつからか、五月女ケイ子(アスキーの「ブログ炎上」の表紙とか描いてる人ですな)のイラストのバージョンに変わって、おどろおどろしさはなくなったのですが、その分、おちゃらけ度アップで深刻度が薄くなってしまったような気もしました。

話を元に戻します。ここで言いたかったのは、映画の盗撮防止を訴える表現が、今までは「映画の盗撮は迷惑行為です。民事上、刑事上の責任を問われることがありますので...」という感じだったのが、最近は、「映画の盗撮は犯罪です。違反者に対して10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金...」に変わったということです。これは言うまでもなく、8月30日から映画盗撮防止法が施行されるからであります。まあ、法制度上、刑事罰は少ないにこしたことはないのですが、映画の盗撮行為が社会通念的に許されるとは思えませんので、しょうがないかなという気はします。

しかし、では、なぜ今まで映画の盗撮は野放しに近い状態になっていたのでしょうか?仮に映画館で盗撮(いわゆるカムコーディング)の現場を押さえても、「これは個人で楽しむために録画しているのであって著作権法30条の私的利用目的の複製だ」と言い訳されてしまうとどうしようもなかったということらしいです。もちろん、その後に、ネットにアップしたり、DVDにコピーして販売すれば著作権侵害が成立しますが、盗撮だけでは侵害と言えないということです。(ちなみに、日本の著作権法にもフェアユース的な概念があれば、映画の盗撮はフェアユースではないので、私的複製の範囲外という判例が確立すれば済むので、わざわざ法律の改正をする必要などないのですが)。

で、ここでコンサートでの隠れ録音はどうなのよという疑問が生じます。コンサートでの録音を明示的に禁じる法律はないですし、私的複製だと言い張られたらどうするのでしょうか?これは、法律の問題というよりも契約の問題です。コンサート会場はコンサート主催者の管理下にある私有地ですから、コンサート主催者はチケット購入者との間で、チケットを買ったことを条件として会場に入ってコンサートを聴くことを許可する契約を結んでいるといえます。さらに、付加的条件として録音・録画をしないという契約もしています。チケットにはその旨が書いてありますし、入場時に荷物チェックされますし、場内アナウンスも頻繁にしてますから、一応の合意はあるものとしてよいでしょう。この契約を破って録音・録画をした人は、管理者たるコンサート主催者に会場から追い出されても文句は言えないことになります。私的複製うんぬん以前の話です。

たとえて言えば、サンダル履きを禁止しているレストランにサンダル履きで入ったとしましょう。まあ、退店を命じられるか、靴に履き替えろと言われるかになると思いますが、ここで「オレにはサンダルを履く(好きな服装をする)権利がある」と主張しても意味はありません。「はい、公共の場所や自分の家でならご自由にサンダルをお履きください」と言われてしまうでしょう。

では、映画盗撮の場合も同様に、映画のチケットに盗撮防止を明記して、盗撮を発見した時には映画館側が管理者の権限で契約違反として追い出すことはできないのかということなのですが、理屈上はできるのですが、たぶん、映画盗撮の背後にいる人たちは、それなりのパワーを持ってますので、警察の介入がないと抑止効果がないということなんではと思います。あとは、米国の圧力という要素もあったのではと思います。まあただ、やる人はリスク覚悟でやってしまうでしょうし(彼らにとっては趣味ではなくビジネスですから)、聞いた話では映画の流出は内部関係者からのものが結構あるらしいので、映画盗撮を刑事罰にしたことでどれくらいの効果があるものなのかは正直よくわかりません。

栗原 潔

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栗原 潔

栗原 潔

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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