いい歳して、富士登山に挑戦した(体験編)
いい歳して、夫婦で富士登山にチャレンジしてきたので、これからやりたい人への参考になればと思い、書くことにしたこの記事。
前回の「準備編」に引き続きの記事なので、未読の方はぜひ前回もお読みください。
事前に十分調べていても、実際に行くといろいろな気づきがあります。
しかし、気づきというだけあって、これがネットを調べまくればどこかに書いてあるんだろうけど、なかなか見つからない。書いてあっても実感がわかない。
そこで、あくまでも個人の体験記事ということではありますが、他ではなかなか書いていないことをまとめてみました。
なお、前回の「準備編」と重なる話もありますが、今回は網羅性を重視したので、その辺はご容赦ください。
バスで行って正解
えーと、まず自分の恥ずかしい勘違いから告白しましょう。
みなさん、たぶんご存じだと思うのだけど、一般人が富士山に入れるシーズンは、いつからいつまででしょうか?
これが、7月1日の「お山開き」から8月26日の「お山じまい」までなんですね。 わずか2ヵ月足らずなんです。僕は、知りませんでした。4月から10月までとかって思っていました。
7月の前半はまだ梅雨明けしないので、7月の後半からの1ヵ月半がハイシーズンとなります。
また、正直やめといてほしいんだけど、夏休みに入ってから、子供を連れてくるファミリーと、彼女を連れてくる学生がドンと増えるわけですorz。
ファミリーはまだしも学生は、ステディのパートナー(死語なんでしょうか?)で来るならまだしも団体さんでお越しになる。合ハイ(これも死語ですか?)ってやつでしょうか。
しかも、今回見た限りでは、一人のとても可愛くて、しかも(富士山に来るぐらいですから)野性的魅力のある女子を、ふがいなさそうな男子5人ぐらいで取りあってる感じ・・・。他で選抜戦をやって、残った二人で来てくれれば、富士山はかなり空くはずです。
そんなの分かってるなら、もっと早く行けと言われるでしょうが(学生さんの事情は行って初めて知りましたよ)、僕らだって梅雨時は嫌なり。それで、少しでも空いている平日に来るわけですが、そんなのまったく関係ねえ。
皆様のご存じなものになぞらえると、わが家から自転車で20分ぐらいの距離に、東京ディズニーリゾートというものがあります。車でいけば10分ぐらいです。信号があるので、自転車とたいして変わらない。まあ、これはどうでもいい。
水曜日ですよ、うちら夫婦で有休取って、東京ディズニーシーができた頃に行ったのは。ランドと違って、酒が飲めるという理由でシーに行きました。大人のデートスポットだと勘違いしたわけです。
ところが、開園1時間前に行ってみたら、家族連れでいっぱい。それもお子さんたちより、お母さんの方がはしゃいでる・・・。
当時できたばかりのFPの使い方がよくわかっていないファミリーが多かったおかげで、ほとんど行列に並ばないで済んだ我々ではありましたが、人気スポットに平日か休日かなど関係ない(というか休日に行くのは自殺行為)ということを身をもって知った貴重な体験ではありました。
さて、そんなところにマイカーで行くなどあり得ません(東京ディズニーリゾートは駐車場がだだっ広いので可ですが、場合によってはむちゃくちゃ歩くことになります)。
我々はバスで行きましたが、大正解でした。
マイカーなら、やたら遠いところに停めるか、近場に停めるまで数時間待つしかありません(それも平日にです)。
当然ながら渋滞
富士登山は渋滞する――何人もの方に聞かされましたが、まるで実感がありませんでした。
行ってみて分かりました。本当に渋滞します。
あまりいい写真が撮れなかったのですが、こんな感じです。
なんだ、手前の白いのは・・・。すみません、写真が下手で。
ちなみに撮影時刻は3時33分となっております。おお!フィーバー。でも、これはフィーバーで箱いっぱい玉が出てきたところではありません。普通の人間たちです。
こんなのが頂上まで続いているわけです。みんなヘッドライトをしているので分かります。
これは、バブルの頃の全盛期のスキー場のリフトの混み方です。つまり、要領がよければ進めますが、悪ければ進めない、あの混み方です。
我々夫婦はあれを20代のときに経験していたので、事なきを得ましたが、今の若者にはつらいかもしれません。若者の割り込み方は、まったくスマートではありませんでした・・・。
若者だけを責めるのは片落ちです。年配の方々がフラフラしていて動きが読めないのは、これは昔も今も一緒です。
等間隔ではない!
頂上が10合目(そんな言葉はないし、1升目とも言わない)だとして、5合目から等間隔に並んでいると思っていた無知な僕・・・。
どうやら違うと悟ったのは、6合目に着いたときでした。
(近すぎる・・・)そう思いました。
次の7合目までは、案の定かなりありました。
そして、さらに次の8合目までは気の遠くなるほどの距離がありました。
この辺の事情は、こちらの記事で勉強なすってください。
▼富士山には7合目、8合目がどうしていっぱいあるのか
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1283254563875.html
ちなみに僕は本8合目の山小屋に泊まりましたが、ここから9合目も、かなり遠かったぜ。
上に行けば行くほど、合目同士の間隔が広がり、しかも急になる――今回の記事でどれか一つだけ憶えるとしたらどれでしょう? と聞かれたら、これだって答えます。
いや、トイレ(後述)かな・・・。
山小屋に関して
今回、山小屋というものに初めて泊まったのですが、いくつか注意点があります。
うちのヨメは、山小屋は予約がなくても、人命重視なので泊めてくれると言い張っていました。
もちろん、本当に命がかかっているときは助けてくれるでしょうが、そうでないと予約がないと、空きがなければ泊めてくれません。
当たり前ですが、山小屋も例外ではないと憶えてください。必ず予約を取っておきましょう。
実際、8合目ぐらいまで登ったはいいが山小屋に断られて、暗い中とぼとぼと下りていく人もいるらしいです。
山小屋の選び方ですが、これが難しい。
うちらは、あわよくば頂上でご来光を拝みたかかったので、本8合目以上の高さが必要でした。
7合目からだと、かなり辛いでしょう。距離的には可能かもしれませんが、渋滞がひどいからです。
しかし、上にいけばいくほど眠れなくなるのだそうです。高山病になりやすい体質の人は、せめて7合目で宿を取るべきです(注)。
ところが、自分が高山病になりやすいかどうかは行ってみなければ分かりません。
なので、初登頂で事前予約というのは相当難しいことになります。
ただ、高山病にかかりづらい歩き方はあります。それは次項でお話しします。
(注)と言っても、7合目の山小屋だと眠れるかどうかは分かりません。事前調査では、山小屋での一人当たりに割り当てられる幅は30センチとの記事があり、おいおい俺の肩幅でも50センチはあるぜと笑い飛ばしていましたが、心理的にはそのぐらいせまく感じました。実際60センチぐらいはあるのでしょうけど。そんな中なので、気遣い、いびき、歯ぎしり、ひそひそ声、子供の引きつけ(今回すべて経験)等、眠れない要素が満載で、よほどの豪傑以外には厳しい環境と言えます。
高山病をバカにするな
日本での高度順応の練習地として有名な場所はどこかご存じですか?
夢枕獏の『神々の山嶺』という小説によれば、どうも木曾駒らしいんです。標高は、2956m。3000mに達していないところで高度順応の練習をするのです。
3000mを超えれば、酸素量は地上の3分の2ほど。いつ高山病になってもおかしくない高さなのです。こんなところでは絶対に全力疾走などはしてはいけない。下手すると後遺障害が残るようなことになるかもしれません。
全力疾走するバカはいないとしても、足早に歩くのもかなり危険です。
ひたすらゆっくり歩くべきなんです。
僕は、靴の大きさを超えない歩幅を心掛けて歩くようにしました。
大股の人がみな高山病になるわけではありませんが、明らかに高山病の症状が出ている人は例外なく大股でした。
富士山のような崩れやすい地盤で大股で歩くぐらいエネルギーを無駄に使う歩き方はありません。そうでなくても酸素が薄いのに、こんな歩き方をすればバテ易い。
ビギナーっぽい女の子三人組が、見事に登頂に成功していましたが、彼女たちの成功要因は僕が思うに、内股で小股で歩いていたからでしょう。
なお、酸素が薄いと水分消費も激しくなるので、水分補給には気を遣うべきです。
できれば、前回紹介したハイドレーションシステム(写真左;http://bit.ly/RD69Lmより)を採用すべきでしょう。
高山病に絶対にならないという方法は分かりませんが、少なくともゆっくり歩き、こまめに水分を補給すれば、かなりの確率で防げるはずです。
登頂を断念している人のほとんどは高山病とみて間違いないでしょう。今回登ってみて実感しました。
地上とは本当に温度差がある!
地理とか理科とかの授業で習いました。標高が100m上がると気温は0.6度下がると。
してみれば、東京が30度だとすると、富士山の頂上は、約7度ということになります。
明け方だと3度ぐらいになるかもしれません。
って、頭の中では理解していても、本当にそうなのかは実感しないと分からないものです。
2001年。我々夫婦は北海道に7泊8日のキャンプ旅行に出かけました。8月3日に出かけて、10日に帰ってきました。
8月7日の晩に中標津に泊まったんです。お盆の前の週ですよ。その日の中標津の気温は8度! 28度の間違いじゃないですよ。ただの8度。
我々は、ふもとのスーパーにウインドブレイカ―を買いに行き、薪をくべ、カップヌードルを食べました(写真右)。
北海道をなめてはいけない。かように反省しました。
こういう経験があったので間違わずに済みましたが、中には寒そうな人もいました。寒いのも高山病になりやすいので、重々気をつけましょう。
食料品はあまり持っていくな!
もうまったく食糧事情が分からなかったので、非常食とおやつをたくさん持って行きました。
おやつはよかったんですが、非常食はかなり余り、帰ってからいろいろと工夫して食べることになりました(写左)。
1泊2日なら、食事を持参するよりも店で食べるほうが、荷物が軽くていいですし、美味しいです。
そもそも非常食というものは、遭難などに備えて持参するものですが、富士山での遭難は麓の青木ヶ原樹海ぐらいしか起こりえません。
ちなみに、国立公園内だから煮炊きは禁止と山小屋の人は言っていましたが、国立公園内で煮炊きできるところはいくらでもあるように思います(第一山小屋がやっているでしょうに)。
と思って調べたら、こんな記事がありました。
http://tozan.org/fuji/motto/kaki.html
なるほど、法的には問題ないが、実質上火器を使用する意味がないということでなんですね。すでに暗黙のルールにもなっているようで、火器で煮炊きする人は見受けられませんでした。
ゴミは捨てられない!
一時期富士山はごみの山というイメージがありましたが、少なくとも吉田ルートと須走ルートにはゴミはほとんどありませんでした(吸殻をポイ捨てしているバカがいましたが・・・)。
富士山には基本的にゴミ箱はありません。自販機の横にもありません。
物資の輸送はブルドーザーで行っています。運送費はかなりの額になります。ゴミ箱を設置したら、ものすごいコスト掛かるのはおわかりでしょう。
したがって、ゴミは持ち帰りです。コンビニのレジ袋などにゴミを入れて歩くわけです。
食料品をあまり持っていくなというのには、ゴミが出るからという意味もあります。
このゴミ袋、結構始末に困ります。リュックからぶら下げて歩いている人もいますが、かっこ悪い。かといって、リュックの中に入れるのもなんだかなあ、という感じ。
リュックにぶら下げるちょっとおしゃれな袋を用意し、その中にゴミのはいったポリ袋を入れるのが正解だと思いました。
なお、山小屋で食料品や水を買うと、どんどんゴミが増えるわけですが、そこで買った飲みものの空き容器であれば引き取ってもらえる場合もあります。買うときに確認するといいでしょう。
絆創膏とかサポーターとか
長時間歩いていると、靴ずれなども起こりますが、その上に絆創膏を貼るだけで、かなり楽になります。
富士山には岩がゴロゴロしています。上のほうに行くと、角がとがった溶岩が主流です。今回、僕は溶岩の角に脛をぶつけて負傷してしまいましたが、消毒薬と絆創膏のおかげで事なきを得ました。
薬類なども一通りあると便利かと思います。
また、僕のように膝の悪い人は、医療用のサポーター(写真右)をするなり、テーピングをするなり、何らかの手当てが必要になります。そうしないと下りが本当につらい。
下りは無愛想
これは、他のコースに行っていないので、5合目から吉田ルートから登って、須走ルートを下りて最終的には吉田ルートに合流して5合目に帰るというルートでの話と思ってください。
そもそも吉田ルートはにぎやかです。富士山の山小屋の半分はここに集中しています。
それと比較しなくても、下りの須走ルートは荒涼としています。
こんな風景が延々と続き、しかも歩きづらく、炎天下には日陰もないとなれば、心は荒みがちです。
膝が悪くて下りがつらい僕などは何度あきらめそうになったことか。
富士山は霊山で、全体が参道のようなものであると思えば、登りがにぎやかで下りが寂しいのも当然です。
しかし、登る前にそんなことに思いは至りません。
ついでに下りにはトイレがほとんどないので、ご注意を!
トイレ事情を知らずに富士山に訪れるなかれ
トイレの話が出たので、少し詳しく語ります。
ここが一番重要かもしれません。
富士山には、基本的に電気と水がありません。電気は自家発電、水は汲み置きです。どちらもとても貴重です。
両方が必要となるトイレはとても"贅沢な"施設です。
そこで、富士スバルライン5合目の駐車場を出ると、以降のトイレでは200円のチップが必要となります(山頂トイレのように300円のところもあります)。
お釣りなどは出ないので、トイレの近い人は100円玉をたくさん持っていく必要があります。
僕はちなみに3000円分の100円玉を持って行きました。
トイレットペーパーも持参したほうがいいという人もいるようで、僕も1本持って行ったのですが、使う機会はありませんでした。
ほとんどのトイレがバイオトイレで、お尻を拭いた紙は流さず、ゴミ箱に入れます。なので、普通のティッシュでも構わないでしょう。ただ、僕が入った限りでは、すべてのトイレにトイレットペーパーがありました。
なお、先ほども書きましたように、吉田ルートではたくさんのトイレがありますが、下りの須走ルートには1つしかトイレがありません(途中何箇所かで、吉田ルート側に入って用を足すことは可能です)。
男性は立ち小便をすればいいと思うかも知れませんが、5合目より上には森林がないので、人目にさらされながらの用足しとなります。
それでもワイルドな男性なら可能かもしれません。しかし、女性には不可能だと思われます。もちろん男女問わず、大は無理無理。
ところで、こんなトイレ事情なのでさぞかしトイレが混雑しているかのように思うでしょうが、僕が行ったときには、300円の山頂トイレを除いて、混雑しているトイレはありませんでした(女子は分かりませんが、SAなどで見られるトイレの外まで続く行列は見かけませんでした)。
高地にいくと、水分が失われやすいからでしょうか? 普段は比較的トイレの近い僕も、富士山ではほとんどトイレに行きませんでした。
関東ローム層の本家本元
リュックの色。
僕は目立つように、スカイブルーにしました(写真左)。
これが大失敗。
はぐれたときの対策だったんですが、まったく意味ないというのが一つ。なぜなら、はぐれるときは混雑しているか、山小屋付近など見えない場所が発生するときなので。
もう一つは、富士山は関東ローム層の赤土の本家本元だということ。
関東の人はよくご存じでしょう。関東ローム層の赤土の汚れは取れません(最近の性能のいい洗剤では取れるのかな?)。
リュックというのは、地べたに直接置かれることが多いものです。
スカイブルーでは、汚れが目立ち過ぎ。ど後悔していますorz。
衣服なども気を付けてください。関東ローム層の汚れが目立たないものにしましょう。
最後に
富士山は本当に美しい。ただ、外から見る分には。
前回も書きましたが、トレッキングの対象としては楽しくありません。
森林も渓流もないからです。
しかし、頂上から見る風景は絶景です。頂上を目指すべき山だと言えます。
一生に一度でいい。頂上に登ると、人生観が変わります。
その意味でも、時間を取って頂上での御鉢巡りはぜひともやるべきです。
なお、富士山に何度も登る人を僕は否定しません。達成感があるし、ルートもいろいろあるし、苦行系の楽しさがあります。僕はその手の楽しみが分からないわけではありません。
ただ、僕は富士山に関しては一生に一度でいいと思いました。
一生に一度でも、何度でも登ろうと、いずれにしろ一度は頂上を踏むべき山でしょう。
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